第15話 奈々の本音③

 私はその画像がサークルの友人から回ってきた時、少しモヤッとした程度の感想だった。その画像は圭介が赤ら顔で膝枕をされて伸びている画像。昨日、圭介はサッカーサークルの集まりで夜は飲みになると言っていたから、恐らく飲まされて伸びてしまったのだろう。そして撮られた写真でピースをする女子が介抱でもしてくれてるのだろう。


 その画像を送ってくれたのは男子で、事もあろうか浮気男だとか言って別れた方がいいとまで言ってきたが、まあそれを他人に言われたくもないし、圭介が率先して膝枕されている風でもないので、あなたには関係ないと丁重に拒否っておいた。因みにその手の男子は意外に多く、最初に送られた画像から違う角度の画像も別の男子から送られてきたが、彼らは一体どういうつもりなのだろう?人を貶めて自分の評価が上がる様な事があると思っているのだろうか?むしろ軽く嫌悪感さえ湧いてしまう。


 ただ折角手に入れた画像だ。個人的にこのピースをする女子も気になるところだが、それ以上にこの画像をどう活用するべきかを考えてみる。圭介とはあくまで偽の恋人役だ。本来ならこれを咎めて問い詰める立場にはない。でもちょっとやってみたい。浮気に嫉妬する彼女っぽい事をだ。


 正直モヤッとはしている。このピースをする女子が可愛いからだ。自分とは違う、所謂ゆるふわな感じの女子だ。胸も随分とボリュームがある。私は線の細いタイプで、グラマラスという訳ではない。ちなみ無い訳では無い。むしろ出るところは出ていると自負している。でも世の中には上には上がいて、その彼女は明かに高い戦闘力を誇っている。こればかりは好みの問題だが、羨ましい気持ちが無い訳では無い。むしろ羨ましいっ……、っと話が逸れました。


 うん、ともかくこのモヤッと感をはらさなくてはと私は圭介にSNSで連絡する。そして程なくして既読が付くが返信がない。私は再びSNSを送るが今度は既読すらつかない。私は思わずイラッとして、今度は通話をするべく電話をかける。するとわざとらしく間延びした圭介の声が聞こえる。


「あーもしも『ちょっと圭介あの画像、どう言う事っ』し……」


 私は被せる様に圭介の声を遮り、圧を掛ける。あっ、因みに怒っているわけでは無い。巨乳の女子に膝枕をされてデレデレしている圭介に嫉妬なんてしてないよ?ただちょっと、ちょっとだけイラッとしただけだよ?しかし圭介は私が怒っていると勘違い?していきなり精一杯の謝罪だ。


「すっすいませんでしたーっ」


 私は思わず調子に乗って、更にドスを効かせた声を出す。


「ああぁんっ、謝るって事は後ろ暗い事があるんかいっ」


「い、いえっ、やましい事は何一つございませんっ」


 圭介の弁明に私は思わず気が抜ける。やましい事が無いのは分かっている。圭介がそういった事が出来るタイプの人間では無いのは分かっているからだ。なので一つ息を吐くと自然と声が柔らかくなる。本当の彼女でも無いのにちゃんと謝るあたり、圭介はやっぱお人好しなのだ。


「はぁ、もう良いわ。どうせ圭介の事だから、私の事でサークルのメンバーに飲まされた挙句、潰れた所を介抱されただけでしょ」


 すると圭介は驚いて私の予想を肯定する。


「おおう、確かにその通りだけど……、奈々お前何処かで見てた?」


「そんな訳ないでしょ、去年の忘年会の時と同じだったってだけ。あの時介抱したのは私でしょっ」


 そう全く同じ様なパターンだ。私は流石に膝枕迄はしなかったけど。だって恥ずかしいじゃん。でも介抱したのは同じ。この膝枕の子がどういう意図かは分からないけど、どうせ圭介を介抱する振りをして、酔っ払いどもを交わしていたのだろう。そしてその後はいつものやり取り。互いにふざけあっての楽しい会話。ただ一点、折角だからと今回の件を貸し扱いにする。


「あーでも、圭介が1つ言う事を聞いてくれたら、今回のこと水に流しても良いわよ」


 私と圭介はまだ偽の恋人同士。だから誘うにも理由が必要になる。多分圭介は理由なんか無くても付き合ってくれる。ただ私には勇気を持つために理由がいる。


「1つ言う事?」


「ええ、圭介、明日私とデートで決定ね」


「ええぇぇ……」


 本当に失礼しちゃう。私が内心ドキドキしながら誘っているのに、思いっきり嫌そうな声を出しちゃって。でもそれはきっとデートが嫌な訳では無い。どうせ日曜日が潰れるとかそう言う「ええぇぇ……」だ。だからそれは気にしない。結局圭介は付き合ってくれるのだから。


 ◇


 そうして迎えた日曜日。私はその日やりたい事が一つあった。それは私が圭介の服を選ぶ事。


 あっ、因みに圭介の服のセンスは悪くない。特別オシャレさんという訳ではないが、かと言って変なセンスや拘りといったものもない。基本シンプルな服装で、ちゃんと色のバランスも考えた清潔感ある服装だ。元々サッカー部という事もあり、動きやすい格好というのもあるが、ジャージ一辺倒という訳でもない。並んで歩いても恥ずかしくない男子だ。それに時折、オシャレな装いをしてくる時もある。全部が全部という訳ではないが、ジャケットなりシャツなりが、センス良くオシャレな印象を与えるのだ。


 そしてそのアイテムを選んだのは大抵元カノだ。私はそれを早く使わない様にさせたかった。だって何時迄も前の彼女が選んだお洒落着を着込んでいるのが嫌だった。なんかまだ前の彼女に未練がある様で、たとえ本人がもう気にしていないと言っても、何時迄もそれをここぞとばかりに着ているのが嫌だった。だからデートをすると決まった時点で、やる事は私の中で決まっていた。


「今日は服を見に行こう」


 電車に乗った後、私は圭介にそう告げる。圭介は面倒臭そうに私の言葉を聞いて、言葉を返す。


「ああ、荷物持ちね。はいはい、了解」


「違うわよ。勿論荷物は持って貰うけど、今日買うのは圭介の服」


「はぁ?服は別に困ってないぞ?」


「何いってんの?ワンパターンな癖に。それに圭介今、結構お金持ってるでしょう?」


 私はそう言ってニヤリと微笑む。圭介は3月に彼女に振られてからバイトのシフトに入りまくっていた為、小金持ちだ。圭介は私の指摘にギクリッとした顔を見せて、とぼけ始める。


「いや、そんな事はない。大学生男子なんて、10人中9人は金欠だ。金銭的な余裕などあろうか筈がない」


「それ一般的な大学生男子にかなり失礼な発言だよね。ま、圭介のお財布事情はわかってるから。私1度で良いから男子の服選んで見たかったんだよね〜」


「人の財布の中身を個人的な理由で使うなっ」


「あら、私が選んだ服を着れば圭介3割増しだよ?モテ具合が」


 こう言うと恐らく彼の頭の中では、その可能性を充分に考慮し始める。因みに私はお洒落な方だ。まあ一般的な女子学生の範囲は出ないけど、自分の良さを活かしたコーデは出来ると思っている。勿論圭介もそれを理解しているのか、それも良いかと思い始める。


「くっ、確かに奈々に任せれば、頑張ってないお洒落が実践できるが……、くっ、この機会にゲーム機本体をゲットする予算が……」


 なので私はここで圭介に駄目を押す。


「因みに圭介、服の予算は1万迄で良いわ。流石に靴までは手が出ないけど、ジャケットとパンツくらいならそれで足りるしね」


「奈々様、3割増しコーデ、宜しくお願いしますっ!」


 圭介は予想以上に安く済むと分かってすぐさまOKを出す。元々私はシャツ位は圭介にプレゼントしようと思っていたので、これで私の計画通りだ。


「でも圭介は彼女持ちだから、モテても意味ないけどね」


 そして私は釘を刺す。圭介が格好良くなるのは嬉しいが、ほかの女子に目移りするのは困る。そんな私の言葉に圭介は渋い顔をするが、私は気にせず柔らかな笑みを溢すのだった。

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