第10話 2回戦 学食
俺は授業が終わった後、奈々にLINEを入れる。奈々からの返事は直ぐに返ってきて、指定された学食へと健を連れだって向かっている。因みに健が同伴なのは、いく先に真子いるからだ。
「そう言えば、真子と健って何処で知り合ったんだ?」
俺はそう言えば、真子の事は2、3度話した事があるだけで、付き合いが深いわけではない。まあ話だけは、健や奈々から良く出るので、実際よりは親近感はあるんのだが、そもそもいつから付き合っているのかさえ知らなかった。
「ああん?如何した藪から棒なのに」
「いや普通に聞いた事なかったなと思っただけ」
健は怪訝な顔はするが、それ以上は追求せずに素直に語り出す。
「別に対した事じゃない。普通に合コンだ。ただ俺とアイツで地元が近かったのと、今住んでる場所が近いのと、案外お互いが興味を持てた事で付き合った感じだ。お互い楽で良いしな」
楽か。楽と言う部分では奈々もそうかも知れないなと俺は考える。まあ別に恋人ではないが、だから友人として付き合えるのだ。
「ふんふん、健も普通に彼氏してんだな」
「うっせ、まあ俺らはもうお前らの段階は通り過ぎたがな。俺は興味がないが、見た目だけなら真子以上の宮城なら、覚悟はしておいた方が良い」
「ん?クラスでの禊ならさっきクリアしただろう?」
俺は健の言う事がピンとこず、思わず聞き返す。さっきあんだけ教室で騒がれたのだ。これ以上何がある。すると健がニヤリとする。
「そうだな、お前も行けば分かる。それをクリアすれば、もう一人前の彼氏だ」
「はあ?」
その後、何やら思わせるぶりな態度をとる健をイラつきながら、奈々の元へと向かった。
結論から言おう。健の言う事は正しかった。クラスをクリアした程度の俺はまだ一人前では無かった。ああ、それはもう半人前だったさ。
まず奈々と真子が話しているテーブルを見つけ、そのテーブルの席に着く。俺は当然、奈々の隣で、健は真子の隣。で、当然、そこは学食であり昼食どきでもある。両カップル毎に買いにいき、残ったカップルが席確保をすると言う作戦に出た。それで俺と奈々は先に食券を買い列へと並ぶ。
俺は思っていた。ああ、気付いていたさ。その時点で俺に降り注ぐ圧がやばい事に。因みに奈々は気付いていない。奈々は普段から視線を感じる機会が多く、その程度では動じないらしい。なら乙女モードも克服出来るだろうとツッコミを入れたくなる。
「ねえねえ、圭介は何にするの?」
「この状況で普通の反応が出来る奈々が凄えな、ああでも今日はガッツリな気分だな」
「ん?良くわかんないけど、そうなの?まあ朝軽かったし、気持ちはわかるけど。でも昼の重いもの食べると眠くなっちゃうんだよね?」
すると周囲からは何故朝食知ってるの?とか、何故眠くなる?とか言っている。まあ朝の件はわかるが、眠くなるのは生理現象じゃねと思う。
「残念ながら俺は授業じゃなくバイトだからな。体が資本なのですよ」
「フフフ、私も授業終わったらバイトだから、ちゃんと食べようかしら」
そう言って奈々は嬉しそうに食券を選び始める。俺は既に今日のメニューは確定している。天丼に蕎麦のセットだ。恐らく夜はハンバーグなり牛丼なりの肉系だ。昼も肉、夜も肉でもいいのだが、少しは趣向を凝らさないと飽きてしまう。それ辺が一人暮らしの辛いところだ。
そうして、2人が食券を買い終わり、トレーに料理を乗せて席へと戻る。すると今度は健たちが立ち上がり、仲良く昼飯を買いに行く。
「ねえねえ、圭介?あの後クラスはどうだった?」
「あー俺のダチ連中には話を聞かれたが、他の奴らはあんま絡んでこなかったな。奈々と一緒の時の方が、凄かったよ」
「ふーん、私は学食で真子と喋ってたんだけど、結構女子から聞かれたよ。付き合ってるのとか、いつからとか、どっちから告ったのとか」
「ふん、その辺はやっぱ一緒だな。でもそんなの聞いて、何が楽しいいんだか」
俺は天丼をかっ込みながら、そう返事をする。ホント他人を気にするぐらいなら、誰か女の一人でも口説けと言いたい。あ、でも手当り次第だと竜二みたいになるな。それだと経験値にならない。
「ふふふっ、確かにそうなんだけどね。でもね、話を聞いてると羨ましくなるし、こっちが話す立場だと嬉しくなるの。本当不思議」
とは言え俺らは偽なので、あくまで疑似的なものなのだろうが、そう言うのはちゃんと彼氏を作って味えと言いたい。当然、この場では言えないのだけど。
「それにしても、注目がな……」
「そんな野次馬、気にしたって仕様がないわよ。あっ圭介、私のハンバーグと圭介の海老天交換しようよ」
圭介は周囲何か気のしない発言の奈々に対し、少し悪戯心が沸いてくる。フフフッ奈々のクールフェイスを崩してやるか。圭介は徐に箸で海老天を持ち上げる。
「ほら、じゃあ一口だぞ。なんてったって天丼のメインは海老天だからな。ほら、アーン」
するとその瞬間、奈々の動きが固まる。
「ほら、早くしないと冷めちゃうだろ?はい、アーン」
「くっ、う、アーン、パクッ」
おお、奈々の奴大分成長しているな。真っ赤になって涙目ながら、何とか食い付きやがった。しかも俺の海老天、半分以上持っていきやがって。ただ俺は大人だ。自らの悪戯心を満たすのに、海老天半分は、決して高くは無いと思う。そう思ってそのままその海老天をパクッと食べる。
「あっ、間接キス……」
「それを言うなら、奈々、俺の口を付けた箸で海老天を食べたんだから、お前もそうだろう」
「はわっ、うっ」
すると更に顔を赤らめはじめる奈々。あっ、ヤバい。やりすぎたかも。顔を赤くしながらも俺を殺さんとばかりに睨みつける奈々。ただ今日の彼女は少しばかり成長した。一度大きく深呼吸をすると、何とか平静を取り戻し、自分のハンバーグを一口に切り取って、俺の前へと差し出す。
「ほっほら、お返しよ。あ、アーン」
ただこれは悪手だろう。やった本人が既に恥ずかしさを醸し出しており、心なしかハンバーグを持つ箸もプルプル震えている。こういうのは、相手が照れていると、逆に冷めてくるものである。俺は、それをパクッと口に入れ、美味そうに咀嚼する。
「おっ、美味いな。奈々、サンキュー」
余りにあっさりと自分が恥ずかしがった所業をこなす俺を見て、奈々は唖然とする。フフフッその程度で俺をテレさせようなど、100年早い。元彼女持ちを舐めんなと言いたい。ちなみに元カノとこんなことをした記憶はない。交換するなら皿ごと交換した方が、効率が良いからな。
するとそんな俺達の元に、料理を取ってきた健と真子が帰ってくる。
「圭介、お前すげえな。この大観衆の前で平然とアーンとかするなんて」
健の呆れた言葉で、俺はハッと周囲に目をやるがサッとその視線を料理へ戻す。ああ、アカン。これは不味い。男子には殺意と悔恨と憎悪の目で見られ、女子には、羨望と好奇と嫉妬の目線に射抜かれている。俺は背中に冷や汗を流しながら、健に言う。
「なぜこんな事に?」
「原因は目の前の女子とお前の悪戯心だな。俺も流石に宮城がここまでデレるとは想像付かなかった。一部の熱狂的宮城ファンは新境地と大絶賛してたぞ。ああ、お前に対しては、殺意を持っていたがな。ちなみに、アイツ誰だと言われたから、素直に名前を教えておいたから」
「テメ―ッ、それやっちゃアカン奴じゃねーかっ、俺の夜道、どうしてくれるんだっ」
俺はとんでもない事を言い出した健に対し、即切れをかます。コイツ間違いなく楽しんでやがる。ちなみに健の彼女真子は、ケタケタと笑っている。いや、ほんとこのカップル、マジ最悪なんですけど。俺は唯一の仲間である共犯者に目を向ける。
「デ、デレてないし。別にこのくらい平気だしっ」
と意味不明の強気さを出してくる。周囲はまた、そのツンっぷりに、大きな賛辞を送っている。俺はこのカオスな状況に、がっくりと肩を落とし、いち早く飯を食べて離脱する事だけを考えるのであった。
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