第9話 クラス争乱

 俺と奈々がクラスに入った瞬間は良かった。と言うか反応されなかった。厳密には見た奴ら全員の理解が及ばなかったのだろう。そうただ一人。たった一人だけが、その光景に理解が及んでいたのだが。


 そしてその一名が発した言葉が、周囲に理解を与える。


「圭介と宮城がくっついたーっ!!!」


 ああ、あの魔法がかかった瞬間が愛おしい。そして魔法を打ち破ったあの男が恨めしい。そうその男の名は辻本健。健のその一言で目覚めた周囲が一斉に俺と奈々の元へと群がってくる。


「ええっマジ!?春日と宮城付き合ってんの?」


「げっ、こいつら手繋いでやがるっ、マジ死ね!」


「ああ、奈々ちゃん、おめでとう〜、でどっちから告ったの?お姉さん洗いざらい話しなさい」


 ……とこの手の質問が延々と続く。うん、困った。マジ困った。仕方がないので、俺は逆ギレをする。うんもう力技しかない。


「だーっ、お前らうっせーっ。説明する、説明するから、少しは黙れっ、そして一人づつ喋れっ」


 するとすかさず場を読んだ女子が手をあげる。


「はい!」


「はい、中川さん」


 すると周囲も押し黙り、記者会見形式が成立する。うん、これで少しは落ち着ける。


「まずは基本、お二人はお付き合いしているんですか?それといつから?」


 実は今日学校に来る途中、この辺りは既にシュミレーション済みだ。


「まず最初の質問はイエス。付き合いはまだ2週間経ってない」


 おおーっ


 何やら周囲が歓声をあげる。えっ、何これ?何やらエンターテインメント感を楽しんじゃってる?なら俺もそっち側が良いっと内心で懇願する。


「成る程、成る程、では次の質問、どっちが告ったの?それと実際の所、お二人の関係は何処までいってるの?」


 おいおい随分とぶっ込んできた。ただこの質問に関しては、奈々が担当。俺は黙って奈々の方を見る。


「告白したのは私。圭介が別れたって聞いて告白したの。元々友達同士で、気兼ねない付き合いしてたし、圭介なら付き合っても良いかなと思って。それと次の質問は流石にねぇ、ああただ今日は圭介の部屋から学校に来たから、後は想像に任せるわ」


 うん、打ち合わせ通りの回答。確かに打ち合わせ通りで、奈々も嘘はついていない。だが、俺への圧が先程より2段階は上がっている気がする。ちなみに奈々からの告白というのは、奈々の提案。別に俺から告白でも良かったが、振られて1ヶ月たたない男に告られて付き合うとか、絶対嫌と言いはった。まあ本音、そんな男に彼氏役なんか頼むなよと言いたい。


「はい」


 今度は男子が手を上げる。俺は目線で発言を促すと、相手が喋り出す。


「お互いの好きな所は?」


 それをお前に言って、お前はどうしたいんだと内心でツッコミを入れつつ、まずは奈々が答える。


「圭介は優しいの。相手の事を気遣ってくれるっていうか、そんな感じ?」


 奈々は、少しだけ恥じらいながらも、ハッキリと答える。まあぶっちゃけ相手を褒めるのに優しいって常套句だよねと思うが、少し恥じらいつついう奈々にドキッとする。


「んー、奈々は可愛いし、カッコいい所かな」


 これも俺にとっては、本心だ。外見が可愛い上、昨日からの初々しさは、ある意味凶器だ。全く俺が惚れたらどうするんだと言いたい。カッコいいは、性格的に男前な所があるので、その部分だ。そしてそんなやり取りの後に、授業開始のチャイムが鳴る。そこで奈々が俺に言う。


「あっ私はこれで行くね。圭介、終わったらライン頂戴、お昼約束だからね」


「はいはい、了解です」


 そうして囲み取材をしていた記者たちも、その場から離れていく。俺は開放感を感じながら、一応疑われずにすんだと安堵した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 授業が終わり、俺の元に何人か話をしたげな奴らがやってくる。一人は健なので、無視。この野郎のお陰で大変な目にあった。まあ結果、良いように認知されたから、その程度で済ませてやるが。そしてその他の奴らは、聞き足りないのか、奈々の事を聞いてくる。まずは一人目、鈴木達也。


「な、なあ、春日は本当に宮城とヤっちゃったのか?」


 うーん、典型的な男子の興味だ。思春期かっとツッコミたい。ああ俺ら絶賛思春期だな。鈴木は悪い奴では無いのだが、元男子校で女子に縁のないタイプ。ややムッツリの傾向がある。


「はぁぁ、お前にそれを言って、ネタにでもするのか?」


「いやー、だって宮城だよ?想像もしたくもなるよ?」


「まあ想像に任せるが、卑猥な妄想するならムカつくから、やめとけ。それと彼氏に言う事でもないだろ」


 正直、気持ちが判らない訳でもないが、彼氏を前に妄想します宣言をされても失礼だろう。奈々の友達としても、少し可哀想だ。そして二人目、水上竜二。


「なあ圭介、女にモテる秘訣を教えろよ?奈々の前にも可愛い彼女いたろ?なんなら、奈々の友達を紹介してくれ」


 コイツはコイツでがっつき系のチャラい奴だ。打席は多いが、バットにボールが当たらないタイプ。しかもホームランも打てないときてる。どないせいっちゅーねん。


「竜二はそもそも手当たり次第をやめろ。奈々はマジでその辺毛嫌いしてるからな。当然、友達紹介なんかしてくれねーぞ」


「マ、マジかっ……」


 はいマジです。この辺は元々奈々との友達関係が役に立つ。そう言う情報は日常会話でリサーチ済なのだ。そもそも奈々は自称清い体だ。そう言うタイプは嫌いだろう。そして最後、辻本健。


「いやー、面白かったな。つーか、昨日は内緒にしろって言った癖に、今日手を繋いで学校来るとは、如何いう気変わりだ?」


「フン、お前の彼女が原因だな。あの人間拡声器、方々で喋くり倒してるって聞いたぞっ」


 全く彼氏が彼氏なら、彼女も彼女である。まあ俺とは違い、奈々は最初から隠す気が無かったようで、特に口止めもしなかったらしいが。


「そりゃ、仕様がない。アイツ口から生まれたみたいな奴だもん。まあ俺が喋るの苦手だから、丁度良いんだけどな」


「いや、お前らカップル、マジ殺す。俺の平穏な日常を返してくれ」


「まあ宮城と付き合った時点で無理だろ。なんてったって、あの『難攻不落』だからな」


「なんだその『難攻不落』って?」


ん?初耳だ。何その厨二チックな二つ名。奈々の奴って二つ名持ちなの?少しだけ羨ましいんだけど。


「ああ圭介は知らないのか。宮城の男子拒否っぷり。圭介の場合は最初から懐に入ってたからな」


「そうそう俺なんて虫ケラ見る勢いで、睨みつけられたりするんだぜ」


と竜二が言う。いやお前は仕方が無いだろう。実際マジで女子の評判悪いから。俺はそこで不思議そうな顔をする。


「そうか?まあ竜二は仕様がないだろう。だって虫ケラ以下だし。そもそも手当たり次第で、女子評価マイナスだしな。鈴木も気をつけろよ、こうなると手遅れだ」


「グフッ」


鈍い呻き声とともに、前に崩れ落ちる竜二。うん、ご愁傷様だな。


「とは言えそうか、奈々って勘違いされてるんだな。別に普通だぞ、むしろサッパリしているくらいだし」


「まあそれが持つ者と持たざる者の差だな、ともあれ、まあ頑張れ」


そう言って健はニカッと笑う。うん、やっぱコイツムカつくな。俺はその笑顔を見て、頬杖をついて憮然とした。







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