第8話 奈々の本音②

 圭介はズルい。


 別に圭介の性格が悪いとかそういう意味ではない。圭介は私がテレて直ぐ赤くなるのに、それが全くない。そう、全くないのだ。


 昨日は夜に同じベットで寝た。そうその事自体、私を動揺させるのには十分だ。一緒に寝ると決まった時点で、私の顔は既に赤らんでいたと思う。だって同じお布団で一緒に寝るんだよ?ただ私はその時は無理やりベットの奥へ圭介を追いやり、さっさと電気を消してしまったので、それほど赤らむ顔を見られていないと思う。ただその後が更に私を動揺させる。


 圭介は私に腕枕をしてくれた。はっきり言おう。凄く嬉しかったし、凄くドキドキした。圭介の顔が近くにあるし、凄く温かい。圭介の息遣いも聞こえるし、正直寝るどころでは無かった。でも事もあろうか、圭介からはそう時間も立たないうちに寝息が聞こえる。勿論、エッチィのを期待していたわけではない。そういうのは、流石に付き合ってからだと思うし、圭介もそういうタイプの男子だ。だから、期待していたわけではないんだけど、少しモヤッとする。実際に迫られたら困るのだが、そう困るのだが、チュー位・・・・・・んっ、んっ、いやそれはいい。うん、圭介は誠実なだけだ。


 で、何が言いたいかというと、私が腕枕されて寝ているのに、すやすやと寝息をたてて寝ちゃう圭介がズルいのだ。ちなみに私は中々寝つけず、それでも圭介の寝顔を眺めていたら、寝ちゃったけど、中々寝つけなかった事実は変わらない。圭介の寝顔は可愛かったけど。


 そして今日はと言えば、今現在進行形で私の顔は絶賛赤らみ中だ。私にしてみれば仕方がない。ポンコツな私には、初めての事が身の上に起きているのだ。そうそれは、恋人繋ぎ。握手の様に繋ぐ繋ぎ方ではない。指と指を絡めながら繋ぐあれだ。これには正直、参った。嬉しすぎて仕方がない。手が凄く気持ちいいし、何より凄く安心する。勿論、繋ぐ相手が圭介だからだ。もし他の違う男子とこんな繋ぎ方をしたら、確実に鳥肌が立ってしまう。


 そして私は事もあろうか、この繋ぎ方で学校まで歩いている。学校に近付くにつれ人影も増えてきている。顔を上げるとこちらを見ており、更に恥ずかしさが増す。何?そんなにカップルなんて珍しくないでしょっと内心で思うが、勿論、今の私にそんな事を言う余裕はない。今日のミッションはこの姿で圭介の授業の教室まで行くことが目的だ。こんなことで諦めるわけにはいかないのだ。


「うーん、やっぱ注目されるか」


 圭介がそうボソリと零す。ん?注目される?


「何よ、別にカップルなんて珍しくないでしょ?」


 心に余裕のない私はついぶっきら棒に言ってしまう。そう圭介との会話は嬉しくて、つい余裕をなくす。だから口調もぶっきら棒になる事が多い。


「ああ、ちげーよ。カップルが注目されているんじゃねー。奈々、お前が注目されているんだ」


「へっ?なんで?」


 余りに意外な事を言われ、私は思わず呆けた声を出す。だってそうだろう。私は普段学校では見られる事は少なくないが、注目される程の有名人ではない。なので何故私が注目されるのか、意味が分からない。


「ほら、奈々、照れて顔が赤いだろ?それが初々しくて、可愛いんだよ。なんか俺を見る視線は、スゲー刺々しいし」


 確かに周囲を見ると、目線を送るのは圧倒的に男子が多い。女子もいるが、こちらは微笑ましいものを見るような目つきだ。私はそこではっとする。


『圭介以外に照れる姿を見られたくないっ』


 そう、何で圭介以外女子っぽいところを見られえなければいけないんだろう。圭介にはいい。なぜならそうさせているのは、他ならぬ圭介なのだから。でもその他の男子には、見せる価値はない。そういうのは、自分が好きな相手の表情だけを知っていればいいのだ。


 すると私の顔の赤みがスッと引いていくのを感じる。手を繋ぐのは嬉しいし、安心する。でも照れるのは2人っきりの時だけだ。


「あれ?少しは慣れたか?手を繋ぐの?」


「ふふん、手を繋ぐのなんてどうって事ないわよ。でも圭介以外と繋ぐ気はないけどね。彼氏君」


「へーへー、そりゃようござんした。まあ手を繋ぐのなんて慣れだ、慣れ。まあこれで普通に付き合ってるっぽくは見えるかな」


 圭介はそう言って肩を竦める。ん?さっきまでもカップルっぽく見えなかったのだろうか?私は不思議に思い、その事を聞いてみる。


「さっきも手を繋いでたんだし、変わんないんじゃないの?」


「さっきまでは、付き合いたての中学生カップルだな。なんてったっ初々しい。あのまま教室に行ったら、ギャップ萌えで男子が確実に殺される」


「ギャップ萌え?」


「ほら、奈々は普段、さっぱりというかクールな印象だろ。それが初々しい中学生女子のような反応を見せるんだ。ギャップあり過ぎだろう」


「むーっ、それって馬鹿にしてる?」


「ハハッ、馬鹿にはしてない。それだけ魅力的だって事だ」


 圭介はそこで朗らかに笑って、私の頭をポンポンする。んっ、ポンポン!?その驚愕の事実に私の顔は再び真っ赤になる。なにそのポンポンって、やだ、チョー嬉しいっ。ってあれ、圭介呆れた顔してる。あれ、なんで?


「奈々、また顔赤くなってるぞ?」


 やはり圭介はズルい。


 私がようやく顔を赤らめるのを抑えれたのに、直ぐにまた真っ赤にする。でもこれは仕方がないのだ。これを見せるのは圭介だけ。私の初めてが圭介によって塗り替えられる度に私の顔は赤くなる。


 結局私の顔から赤みが引くのは、圭介と教室行く直前まで続いていた。

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