第5話 お泊り

 その後失意のうちにファミレスを出た後、俺の家に戻るべく、二人は歩いていく。途中コンビニで必要なものを買うという事で、行きつけの7が目立つコンビニに入り、それぞれが行動を起こす。


 俺は特段買うものがない為、そのまま雑誌コーナー。奈々は何処かしら楽しげに、歯ブラシやら生活雑貨を買い物かごの中へと入れていく。奈々の話では、最初から、そう最初からである、俺の家に泊まるつもりだったらしく、着替え等はあるらしい。なので、消耗品の類だけここのコンビニでそろえるそうだ。


 俺は週刊の漫画雑誌を立ち読みしていると、奈々が俺に声を掛けてくる。


「ねえねえ、圭介ん家って、朝ご飯になる様なものある?」


「なんもねえ。家で飯、ほとんど食わないし」


 そう、俺はご飯はほぼ外食である。家で食べてもコンビニかスーパーの弁当類ですませてしまう。今じゃすっかり、駅前の牛丼屋の常連だ。


「だよねー。そんな気がしてた。圭介って朝は食べないの?」


「うーん、パンがあれば食べたりするが、食べずに大学でなんか食べる事が多いかな。学食安いし」


 まあ男子学生の食事事情などそんなもんだ。ちなみにガスコンロもヤカンに火をかけるくらいしか、利用価値はない。


「んーなら、朝ご飯も買っていくか。ほら、圭介も一緒に買おうよ。合わせて買っちゃうから」


 そう言って俺の手を引っ張る。あっ今、漫画ちょうどいいところだったのに。俺は不満げな表情を隠さず、それでも渋々奈々に引っ張られていく。


 結局俺は、甘い菓子パンを一つ買ってもらい、奈々と一緒にレジに並ぶ。


「ああ、ちなみにコーヒーはあるから」


 買い物籠の中身にコーヒー系の飲み物があったので、俺は思い出したように奈々に言う。俺は朝コーヒーが飲みたい派だ。ブラックでもいいのだが、少しだけ砂糖を入れて、糖分補給をするようにしている。そうすると自然と目が冴えてくるような気がするのだ。


「えっそうなの?インスタント?」


「いや、普通にドリップする」


 伊達にカフェでバイトしているわけではない。やはりドリップしたコーヒーと缶やインスタントは別物だ。飲まないわけではないが、両方あるとしたら、確実にドリップした方を飲む。


「フフフッ、カフェバイトの影響かしら。でもなら朝はそれを貰おうかな。こっちは、学校に持って行って飲む事にする」


 いつもより少しだけ柔らかい笑みを浮かべて奈々は言う。俺は不覚にも少しだけドキッとしながらも、憎まれ口を叩く。


「フン、スゲー上手いコーヒー飲ましてやる。覚悟してろよっ」


「それって一体何の覚悟よ。まあ楽しみにしてるわ」


 奈々の余裕の返しに、何か負けた気になったが、まあそれはそれで悪い気はしなかった。


 それから家までは、のんびり会話をしながら歩いていく。俺の家は駅から20分程度とやや距離がある。学校には10分かからないから、それほど困らないが、部屋を探すときの条件で、バス・トイレ別にこだわって、安めの家賃の場所を探したら、自然と駅から遠くなってしまったのだ。大学から駅までは学バスが出ているので、バイトに行くときはそれに乗って行き、帰りはいつも徒歩でトボトボ帰っている。


 家はアパートで比較的築浅だ。おかげで建物も部屋の中も小奇麗で、俺としては今の部屋は気に入っている。ただ、来年は校舎がより都心の地域に移る為、引っ越しをするかどうか、今から思案中だ。両親は、交通費を掛ける位なら、引っ越してもいいと言っているが、今の家賃でより都心となると、部屋のグレードは下げざるを得ないので、悩むのだ。


「ああ、ちょっと待って。部屋の中、簡単に整理するから」


 俺はそう言って、部屋の前で一旦奈々を待たせようとする。するとニヤリといやらしい笑みを浮かべた奈々が、俺に言ってくる。


「ああ、いやらしい本とか隠すんでしょ?」


「そんなもんねーよ。タバコの吸い殻とかを片付けるだけだっ」


 ちなみに俺の部屋は比較的きれいだと自負している。まあ寝るだけ的なところもあるし、家で極力飲食もしない為、散らかりようがないのだ。ちなみにHな本などはない。俺はそのあたりはデータ派だ。今時本など使わない。


 そう言って、一人部屋の中に入ると、吸い殻や、目立ったゴミを片付け、洗濯物を洗濯籠に放り込み、部屋の中で消臭剤をシュッシュとし、奈々を部屋へと招きいれる。


「じゃあ、お邪魔しまーす。ふぁ、思ったより綺麗にしてるね」


「だろう、だろう。こう見えて綺麗好きなのだ。いくらでも評価を上げてくれていいぞ。」


「フフフッ、確かにそういうとこは女子にポイント高いかも。でも来る人いないんじゃ、意味ないけどね」


「うるせー、ほっとけ」


 大体、俺の家に訪問した事のある女子は元カノだけだ。ちなみに元カノは俺の実家の家にも来たことがあるので、そういう意味では、ポイント加算は関係ない。あっ、そのポイントを持ってしても振られたのだ。あんま関係ないんじゃないかと思う。


「ねえ圭介、取りあえず、荷物片付けたり、化粧落としたりしたいんだけど、どうしたらいい?」


「ああ、飲み物とか食べ物とかは、冷蔵庫。ああ、化粧は洗面所がその奥の扉だから、そこで。服をかけるなら、このハンガーを使え」


 俺はそう言って、ラックにあった使ってないハンガーを一つ渡す。奈々は着てたコートをそこにかけ、買った飲み物とかを冷蔵庫へと閉まっていく。


「ああ、そうだ。先風呂はいっちゃうか?湯船につかりたいなら、お湯をはるけど」


「ふぇ、お風呂?・・・・・・もしかして覗く?」


「覗くかっ、ああでも流石に寝間着とかないか。寝る時どうするんだ?」


 そう言えば、着替えはあると言ってたけど、流石に寝間着は持ってきてないだろう。今の服でそのままだと寝ずらいし、服も皺になる。


「ああ、何か動きやすい服、貸してくれると嬉しいんだけど。ある?」


「ジャージかスウェットでいいか?大分サイズ大きいけど?」


「ああ、うん、それでいい。なら先にシャワー浴びてもいい?そしたら一緒に化粧も落しちゃえるし」


「はいはい、お嬢様の仰る通りに」


 そして俺はそのまま、衣装ケースの中から、洗濯をちゃんとしている綺麗なスウェットを引っ張り出し、奈々に手渡す。奈々はそれを手に取り、洗面所のほうへ。そしてそのドアを閉める手前で、少しだけテレたようにこっちに向いて言う。


「ホント、覗いちゃ駄目だからねっ」


 あっけにとられる俺を尻目に、バタンッとその洗面所の扉が閉まった。






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