第2話 修羅場?
奈々の彼氏は爽やかなイケメンだった。俺も見繕えばそれなりの外見だと自負している。モテようと思った事はないが、彼女の相手がショボい奴とは思われたくない。だからそれなりには気を使う。
ただ目の前に現れた彼は明かに努力しないでもカッコいいイケメンであり、さらりとした茶髪の髪に爽やかな笑顔。ああ、妹の持っていた少女漫画の主人公にこんな奴いたなと思えるイケメンだった。
俺はこんなイケメン振るのかと、マジマジと奈々の顔を見ると、奈々は奈々でイケメンっぷりに気後れしているのか、俺と一緒の時とは違うトーンで言葉を返す。
「すいません、佐藤先輩。急に呼び出したりして」
「ああ、うん。それは良いんだけど?」
その佐藤先輩なる人は、俺に目を向け、どう言う事とばかりに、首を傾げる。確かに俺もそう思う。なぜ俺はこの場にいるのだろう?ただそんな俺達の思惑を気にせず、奈々は言う。
「今日先輩を呼び出したのは、私達のお付き合いの事で、やっぱりお付き合いをお断りしようと思いまして」
「えっ、いや待ってよ。どうして急にそんな話になるの?これまでそんな素振りなかったでしょ!?」
おお、慌ててる、慌ててる。やっぱこれが正しい反応だよな。俺の場合、動揺し過ぎて、リアクション薄くなっちゃったし。
「いえ、元々そんな深い付き合いではなかったじゃないですか。二人でデートは何回かしましたけど、私はそれ以上の関係になりたいとは思ってませんでしたし。それに私、本当に好きな人が出来ましたから」
そこで再び佐藤先輩の目が俺に向く。あっ、イケメンが睨んでくるって、少し怖い。ただ俺は俺の尊厳を守る為にもこのミッションを遂行させなければ、ならない。
「あっ、初めまして、俺、奈々と付き合い始めた春日圭介って言います。大学では学部が一緒で、バイト先が同じなのがきっかけで仲良くなったっす」
俺も一応年下なので、粗暴な後輩キャラ設定だ。ちなみに普段は、「〜っす」などとは言わない。すると今度は佐藤先輩が余裕を取り戻し、俺の存在を怪しみ始める。
「とか言って、本当はただの友達で、今日無理矢理引っ張り出されたんじゃないのかい?奈々、そう言う事頼めそうな男友達多いでしょ?」
す、鋭いっ。イケメンでこの鋭さなんなの!?俺は動揺を一切見せない様に取り繕いながら、頭をかく。
「うーん、元々友達だったってのは、認めますが、お互い好きで付き合い始めたってのは間違いないっすよ、なぁ奈々」
「ふぇ、え、うんうん。私も彼もお互い好き同士」
好き同士のくだりで思わず顔を赤らめる奈々。こらっ、お前がそんなリアクションだと嘘くさくなるだろうがっと内心でツッコミを入れつつ、再び佐藤先輩の方へ向く。
「ほら奈々もそう言ってますし、信じて貰えませんかね?」
「それなら目の前でキスでもしてくれたら、信じるよ」
イケメンが変な事を言い出した。ただ圭介は呆れまじりに、冷静に言う。
「いや無理、断ります。人前でする趣味無いんで」
当然だろう。コイツは何を言ってるんだ。実際に付き合ってたとしても、躊躇うものだし、ましてやさっき清い体発言してたばかりだ。下手したら、ファーストキスもまだかも知れない。ちなみに俺は彼女持ちだった事もあり、もう魔法使いにはなれない。
ただ俺があまりに普通に返答したので、キスが出来ない事では判断出来ないと思ったのか、佐藤先輩は、渋々違う案を出してくる。
「ならハグならどうだ?流石にハグぐらいなら見せられるだろう」
「はぁ、別に見世物じゃ無いんですが」
俺は面倒くさいとばかりに、奈々と向き合うとその両手を奈々の前に広げる。今目の前にいる奈々は、顔を赤くさせ、テレた表情を見せている。おいこら、ここは飛びつく場面だろう。俺はすかさず、奈々にアイコンタクト。奈々は視線が合うとビクンッと震えながらも俺の元に近づいてその頭を俺の胸に押し付ける。
俺はそんな奈々を優しく抱きしめて、この拙いハグの言い訳をする。
「すいません、先輩。俺ら付き合い始めなんで、奈々も人前では照れちゃって。まあでも俺はそんなところの奈々も好きなんで、これで勘弁して下さい」
するとイケメン佐藤先輩は見るからに悔しそうな表情を浮かべて、縋るように奈々に聞いてくる。
「奈々、そいつの言ってる事は本当なのか?嘘だろ、嘘だと言ってくれっ」
「私も圭介が好き。彼に疑われるのはやだから、もう遊びには行けません。ごめんなさい」
うん、これが決定打だな。ちなみに演技とは言え、好きと言われてドキッとしたのは内緒だ。バレたらどんな追い討ちがかけられるか、分かったもんじゃない。
「くっ、この僕を振るなんて。絶対奪い返してやるからなっ」
佐藤先輩は捨て台詞の如く、そう言うとその場から去っていく。うん、去り際もカッコいい。彼なら他の女子でも引く手あまただろう。
そして彼がその視界からいなくなったところで、俺はそっと奈々から離れる。
「あっ」
離された側の奈々から声が漏れた事に怪訝な表情を見せると、奈々は慌てて言い繕う。
「いや、ホント諦めが悪くて大変だったねーっ、て言うか、圭介もハグしてもらって悪かったねー」
「いやそれより、普通にあのレベルのイケメンを振っちゃう奈々に、軽く驚愕しているんだが」
「えー?だってあの人デートの度に手繋ごうとしたり、ハグしようとしたりしてくるんだよ?あり得なくない?」
ん?普通じゃないか?好きあっているなら、したいと思うし、実際に意識せずしてたしなぁ。あれ俺やり過ぎ?いやいや、仲間内のカップルもそんなもんだろう。
「いや、それを彼氏彼女と言うのでは?それにそれくらい今時の中学生でも照れずにするだろ。まあ奈々の場合は根本的に好きじゃなかったって事か。だから腹が立つんだな」
「うっ、それを言われると、その通りなんだけど。まあいいわ、圭介の彼氏も楽しかったし、また宜しくね」
「いやこんな当て馬二度とごめんなんだが。あーっ、画像、画像今すぐ消せっ!ミッションコンプリートだろっ」
俺は思い出したとばかりに、奈々に詰め寄る。今回のこの苦行は、俺の残り三年間の大学生活がかかっているのだ。しかし奈々はしれっと言う。
「あらでも圭介、私に抱きつく役得があったんだから、それでチャラじゃない?」
「アホか、ハグくらい挨拶でも出来るじゃねーかっ。舐めんなっ」
それから俺達は暫くの間、そんな下らないやり取りに時間を費やす。結果写真は消して貰った。後は奴のPCにデータが残っていない事を祈るばかりだ。
ただこの話はまだ終わらない。俺達はイケメン先輩の捨て台詞をもう少しだけ注意深く聞いておくべきだった。
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