AUTOMATIC~作風渋滞系作家の頭の中~
阿部 梅吉
AUTOMATIC~作風渋滞系作家の頭の中~
注 この作品はただ単に作者の頭の中を垂れ流したものに過ぎない。
〽
く ちびるから
し ぜんとこぼれお ち る
メロディ
でも言葉を失った瞬間 が
一番幸せ
「ねえねえ、なんでこんなこと書いているわけ?」
と君は言った。
「今結構僕大変なんだけどさ、ここから抜け出したくって」と君はため息をつく。
「ああ、わかったって」と私は言う。
〽
嫌なことがあった日も
君に会うと全部 ふっとん じゃ うよ
「何を書いているわけ? 僕には構ってくれないのにさ」と君が聞く。
まだ君は20歳になったばかりで幼い。可能性の塊だ。眼鏡をかけた、呪文の天才。知らず知らずにこの世の成り立ちの秘密を知ってしまう、純真な男の子。
まぶしい限りのオーラを一身に浴びて、私は言う。
「『何を書いているわけ? 僕には構ってくれないのにさ』だね。君のセリフだ」
「何か頓珍漢だなあ。いっつも思っていたけど、あなたはいつも考えなしに書きすぎるんじゃないかな?」
言うねあんたは。
「はん。どうなるのか予測のできる物語なんて何も魅力がないさ」と言ってみる。
しかし何も反応などせず、
「なんて題名?」と君は聞く。
「……『オートマティック』って言う題名だけど……、まあ変わるかもしれないなあ」
なんて言っていると今度は後ろからちょっと大人びた声。
「まあた歌でも引用しているんですか? 運営に怒られる可能性があるので止めてくださいよね、いい加減」
ちょっと疲れたような黒のタートルネックを着た男が言う。年齢は30過ぎくらいだろうが。
あーはいはい、どうせ私の癖ですよ。でもお前は曲が無いと生きていけないだろ。
こいつ、今の彼女と出会ったきっかけはカラオケなくせに。
「僕の作品でもこの人、歌から始めたんですよ。しかも結構有名なアイドルグループの曲でね。変えよう変えようと思いつつもいい案が無くて放置しているんですよ。いつか運営に怒られると思いますよ」
ぐっ。痛いところをついてくる。
「しかもその作品引用した作品は新海誠監督の最新作で引用されていて、監督にシンパシーを感じているそうですよ」
おいおいおいおいおい、そんなことまで言っていいのか。くそ。
しかし図星だから何も言えない。
「で、今回はまた違う話ですか?」
ブルーライトカットの眼鏡をかけた彼が私に詰め寄る。
うるさい。ブルーライトカットの眼鏡はほとんど意味がないらしいぞ。
眼鏡屋さんに聞いたもん!! 本当だもん!!
なあんて泣きそうになっていると、また新しい客。今度は若い美形のサラリーマンだ。
「どうせ昨日手塚の漫画見たから触発されて書いているんだろ? あ、初めましてこんにちは。俺、まだひよっこですけどよろしくお願いしますね、先輩」
爽やかで顔の整ったスーツの男は他の二人に頭を下げる。思わず二人とも深々と頭を下げる。
「見ない顔ですねえ!!僕は大学を出て城に仕える身の者です。よろしくお願いします」
呪文使いの男の子がはきはきと答える。
「僕はしがないSEです。なんだかあなた、すごくモテそうですね……。よかったら恋愛相談したいです」とブルーライトカットの眼鏡が言う。
「いやあ、実はまだ俺、二日前に生まれたばっかりで」
若いサラリーマンは屈託のない笑顔で言う。
「え?」「え?」
他の二人の声がほぼ同時に響く。ああ視線が痛い。私は弁解する余地もない。
「いいじゃないか別に」と私は不貞腐れる。
「良いけど、あなたって本当節操がないですねえ」
SEはため息をついて言う。
「ああわかっているさ」
私はもう開き直っていた。
「まだお腹にいるけど生まれていない子もいるって聞いてたんですけど・・・それより先に生まれて来たってどういうことですか・・・・・・?」
呪文使いが疑いのまなざしを私に向ける。
「あーーそうだよ!!!私には今まだお腹に宿している命があるよ!!!!悪いかい!!!!!」
「悪いって言うか……計画性がまるでないですよね」とSEがばっさり切る。
「どうせこの作品も落ちとか考えてないんだよなあ……」と呪文使いも会話に興味をなくしたのか、手元にあった本をめくり出した。
「いいだろうが!!!!お前らここでまとめてサーカスにでも売り飛ばすことだってできるんだぞ!!!!!お!!!???やってやろうか???!!!!!!!」
「そんな『処す?処す?』みたいに言われても・・・・・・・・」さすがSE。インターネットネタには強い。
「えーどうせできませんよね? だってそれができていたら、僕たちを既に制御できていると思いますし、それだったら既にこんな所にいないで僕は国を救っていますし……」
呪文使いはまだ20歳だが、飛び級で二つの大学に通う天才だ。さすが鋭い洞察力がある。私のハートはぐさぐさだ!!!!
「うるせえ!!!!さっきから痛いところついて正論ばっかりかますんじゃねえ!!!!(SEと呪文使いは『あ、やっぱりそうなんだ』、といったようなジト目をした)まとめてお前ら遊郭に売り飛ばしてやらあ!!!!!作者が二次創作できないと思ったら大間違いだからな!!!!!俺は天才だからクロスオーバーもセルフパロもおちゃのこさいさいよ!!!!!!!」
「まーた違う話書いて……本当節操ないですねえ」
作者の力技で一瞬にして花魁姿になった不気味なSEが呆れて言う。
「えーなんかめっちゃ面白そうですね!俺ナンバーワン目指そう!」
花魁姿の若いサラリーマンんはなぜかやる気だ。そんな甘い世界じゃないぞ!!でもちょっと顔がいいから似合うのが腹立つな!!!
「あ・・・・・遊郭ってなんですか?」
呪文使いに至っては知らんのかいいいいいいいいいいいい!!!!!!!
〽
~♪♪♪
*★☆☆★★ イッツ オート マーティック ★★☆☆★*
突如としてステージが現れ、暗い舞台に一筋の光が射す。呪文使いがセンターで、三人ともマイクを持っている。
それぞれ呪文使いが赤、サラリーマンが黄色、SEが青の衣装だ。三人とも女装用の鬘も被せ、化粧も施した。
そばにいるだけで☆(ユニゾン)
その目に見つめられるだけで☆(一回転)
ドキドキとまらない☆☆(三人別方向を見る)
NOとは言えない☆(三人とも人差し指を振る)
アイジャスキャントヘルプ・・・・・・(英語の発音のうまい呪文使いが前面に出る。他は音量抑えて)
*★☆☆★★ イッツ オート マーティック ★★☆☆★*
(全員決め顔で真正面を向いてポーズをとる)
三人が曲に合わせて歌って踊る。私は作者だから花魁姿でキャラを歌わせることも可能なのだ。
「ふう、結構楽しいな」と若いサラリーマンはここにきても終始乗り気だ。
「ちょっと案に僕が歌下手だって書かれていませんでした?」
SEが冷静に突っ込む。よく見ると汗が尋常じゃない。息も切れている。
「僕、初めて人前で歌いましたが、もうたくさんです」
呪文使いは心底嫌そうに言う。
「あれ? 何をしているんですかね皆さん……」
女子高校生が突如として入ってくる。この子は若くして作家なのだ。
「ああ、先輩こんにちは」
三人とも女の子に頭を下げる。この子はこの中では一番の先輩なのだ。
「今ちょうど奴はお手洗いに席を立ちました。ひどいんですよ、あの人。作者のくせに大抵何も考えていないし、すーぐ別のとこに浮気しちゃうんですよ。先輩の時はそうじゃなかったかもしれませんけど」
SEがひそひそ声で女子高生に言う。
「どうせあの人、今も『あー次の展開どうしようわかんねえなー』って思っていますよ」
「あーーそうねえ。あの人は考えなしだし、結構浮気性よねえ」と女子高生はにこにこしている。
「私の時もいったん放置されたと思うよ。良いまとまりが思いつかないってんで、一時は本当にこのまま永遠に『ここ』に放置されるかなあって思ったけど、結果的にはなんとか動いてくれてよかったなあ」
「姉さんは結果的に着地できたからいいですよねえ」とSEは頷く。
「まあ、あの人、なんだかんだ最後まで終わらせるわ。書きかけがごまんとあるし、宣伝は面倒がるし、投稿するのが苦痛だからってワードに文字を走らせるだけ走らせてばかりだけど、大丈夫よ。なんていったって、最終的にはあの人は終わらせてくれるわ。大丈夫。あの人を信じましょう」
女子高生は女神みたいな穏やかな表情で答える。やはり十万字の壁を乗り越えてきた人の言葉の重みは違う。
「うっ・・・・・・若干どこか心ににぐさぐさと刺さりますが、僕は勇気づけられました!!!!」
SEが両手を合わせる。
「そうそう大丈夫よ、あの人は病気だから書かないと生きていけないのよ。書かなくなっても、どうせちょっとしたら戻ってくるわ。なんてったって、そうしないことが出来ない人間なんですから。大丈夫よ」
「先輩・・・・・・さすがです・・・・」呪文使いが感思わず目を輝かせる。
「大丈夫よ。他人に与えられたテーマでは書かないとか言いながら『チョコミント』のお題で一作書き上げたこともあるし、なんとかなるわ。興味がないと着手しないかもしれないけれど、逆にちょっとでも興味があれば何でも書くわよ。
ホラーでもエロでも百合でもファンタジーでも」
「そうですね……なんだかんだ楽しいからって書き上げてくれますよね・・・・・・」
「そうね、気長に待ちましょう。あなたは特にファンタジー長編の子なんだし。リラックスリラックス!」
なんて和やかなムードになりつつ談笑していると、突如死にそうな低い声。
「あーーーーー…・・・・・・・・・俺、ぜんっぜん放置されているんだけど・・・・・・・・・」
((((文字修理人来ちゃった……。))))
その時、他のキャラたちは思った。
文字修理人は…・・・・・・・
たった千文字の短編でしか出てないから素性とか全然わからなくて、しかも作者には何度か「俺の続編は?」だの「俺の活躍は?俺を幸せにしろ!!」だの要求しているのにガン無視されている超――――絡みづらいキャラなのだ!!!!
((((あ、こいつとは絡まないでおこ・・・・・・))))
他のキャラたちは瞬時に悟った。
「この作品もアレですかね、今回は全然気合入っていないし、誰かに下読みさせるとかも考えていないから、カタカタ書き終わったらそのままカクヨムあたりに掲載される運命っぽいっすね。で、誤字があっても『俺が仕事しなかった感を演出できたらいいな』ってあわよくば思っている感じ、ですkね。あ、早速誤字しているけど、ほら、これも演出だよってね・・・・・・ははっ」
(((((う、うーーーんその通りだなあ!!!お前はいいように作者に使われているなあ!!!!))))
他の四人は心の中で全く同じことを考えていたが、あえて口には出さなかった。
「あ、そろそろ四千字越したし……私は仕事に戻ろうかな」
女子高校生作家がうまい具合に切り上げようとする。
「私も今日もバグたくさんで残業かもしれないですし……」
SEも伸びをして退散しようとする。いつの間にか服が元のタートルネックに変わっている。
「僕はお母さまと少し寝ようかな、いい機会だし」呪文使いはあくびをする。
「先輩方!!またできたらお話ししましょうね!!」サラリーマンは犬のような屈託のない笑顔で大きく手を振った。
「え、皆さんもう帰ってしまうんですか?! また話せたらいいのですが……」
文字修理人の声だけがむなしく響いた。
……・・・・・・・・
その様子を見ていた一人の男子中学生がいた。
野球部で坊主頭。学ランを崩すことなく綺麗に着ている。
「なんかみんな大変なんだな……。本当は僕の続編もないか確かめに行きたかったけど怖いな……。下手に交渉に失敗して花魁姿で踊らせるかもしれないし……。まあ別にいいんだけど・・・・。この作品だって勢いで書いているから初めぼんやり考えていたことと全然違うオチになっているし・・…やっぱりちゃんとプロット練ってから交渉しよう……。それになんだかあの人叫んでいるなあ。何を叫んでいるんだろう・・……聞こえない……」
「・・・・・されてる」
「? なんだろう・・…なんだかぶつぶつ言っているけど・・・」
「動かされてる・・・・・」
「え・・・・?」
「お前らに!!!!!動かされてる!!!!!」
(えっ……なんか叫んでいるんだけど……作家ってみんなこうなの?コっわあ……こっわああああ。。。。。)
「動かしているように見えて動かされている!!!!!!!お前たちに!!!!!!!!」にいにいにいにいにいにい……・・・・・・。
作者の言葉はカラオケ店の裏設定ですかっちゅーほどにエコーし、清々しいほど青い空へと消えていった。
空が歌う。
水色と緑の中間の空が広がる。
雲が歌詞を作る。
〽
嫌なことがあった日も
君に会うと全部 ふっとん じゃ うよ
君に会えない マイレイニーデイ
パソコン開けば自動的に
サンウィルシャイン・・・・・・・
次の日、『僕』はおそるおそる作者に近づいた。
「作者さん、そろそろ5000字です。パンでも食べてください。お互い頑張りましょう!!!」
「お前だけだな、優しいのは」
「また会えたら会いましょうね!!」
『僕』は手を振り、またいつもの退屈な日々に戻った。
イッツ、 オート マーティック。
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~出演~
別サイト未公開作品あり。
・『オータス家の人々』ディーン・オータス(1月公開予定)
・『ステップ・イン・ザ・ナイト』および
『ステップ・イン・ザ・サン』野崎
・『転生した先は家事スキルが能力値だったので妻が無敵になりました』
我妻修司(1月公開予定)
・『それでも日は昇る』鈴木光
・『ある文字修理人の手記』文字修理人
・『青を抜ければ』住田(12月末公開予定)
風景提供:
『Beautiful Harmony』、
『生きとし生ける全ての者に祝福を、拍手を』他
AUTOMATIC~作風渋滞系作家の頭の中~ 阿部 梅吉 @abeumekichi
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