第5話

それから、しばらくしてから、動物達の森では、大きな問題が起こりました。

池の水の水量が減ってきたのです。

水辺に棲むカメは勿論、森に棲む様々な生き物も池の水なしには生きていけません。

動物達は「先生」にどうしたら良いか相談しました。

「先生」は新しい水源を探す他はないと言いました。

その言葉に応じるように手をあげたのはウサギでした。

私がひとっ走り探してきましょう。

私ならば一日で二つの山をも越えられます。

きっとどこか新しい水源を見つける事ができるでしょう。

ウサギはカメとの勝負に負けて以来、周囲から冷たい目で見られていました。

ウサギは、それも全てカメに勝負で負けたからだと思っていました。

カメより有能である所を証明すれば、全ては解決するのだと思っていました。

ウサギが声をあげた後、カメもまた手をあげました。

私も探します。水辺は私の家のようなものですから、私も何かしたいと思っています。

そんなカメにウサギは冷たい言葉を投げかけました。

ノロマなカメに山を越えられるとでも言うのかい。

君の帰りを待っていたら我々は皆干からびてしまうよ。

君は大人しく僕の帰りを待っていれば良いのさ。

ウサギの嫌味な言い方に、カメは勿論、動物達は顔をしかめました。

ですが、誰もウサギには何も言わず、辺りは静まり返りました。

「先生」は静かに言いました。

別段数に制限を設けているわけではないのだから、誰が行っても構わない。

カメも行きたければ行くと良い。

ただ、カメが途中で倒れても困るから、誰かと一緒に行くと良い。

そう言われて、動物達は困った顔をしました。

一緒に行くとなるとカメは鈍いから、負ぶっていくことになるでしょう。

それはまさしくただのお荷物でした。

ウサギは馬鹿にして笑い、カメは落ち込みました。

すると、動物達の中から、一本の手が上がりました。

それはカメの友人のモグラでした。

モグラとカメは元々それほど仲の良い友達ではなかったのですが、ウサギとの勝負で感動して以降カメと仲良くしている間柄でした。

私がカメを背中に乗せていきましょう。

そうすればもしカメが乾燥しても、土を掘って、湿った地面にカメを入れてやる事もできます。

それは良い考えだ、と動物達は同意しました。

ウサギは、モグラだけで行けばそんな苦労はしないだろうに、ご苦労な事だ、などと憎まれ口を叩いていましたが、モグラに反対はしませんでした。

「先生」は頷き、志願者によって新たな水源の探索が始められました。

ウサギは張り切って走り出し、山をいくつも越えて水源を探しました。

モグラとカメは、ゆっくりではありますが、森の周辺から少しづつ範囲を広げて探してきました。

しばらくするとウサギはいくつかの候補を見つけました。

若干離れてはいますが、水量は十分で、動物達全員で移動したとしても、十分大丈夫のように思えました。

ウサギは「先生」に急いで報告しました。

山を6つほど超えた所に、十分大きな水場がありました。

私なら三日ほどで行ける距離です。

皆でそちらに移住しましょう。

「先生」は難色を示しました。

ウサギなら余裕で行ける距離なのでしょうが、他の動物達全員が辿りつける距離ではありません。

カメのように動きの遅い動物もいれば、足を故障している動物もいます。

そんな者達が一緒に行ける距離ではありませんでした。

「先生」は静かに首を振り、他の報告を待つ事にすると言いました。

ウサギは食い下がりました。

私はこの周辺を隅から隅まで探して、十分な水場はそこにしかないと分かっています。

なるほど、確かに距離があるのは仰る通りです。

でも今は仲良しこよしをしている時じゃない。

足の遅い者を切り捨てる事を決断できなければ、全員が死んでしまうかもしれない。

だったらサッサと決めてしまうべきだ。

そうウサギは強く主張しましたが、「先生」は決して首を縦に振りませんでした。

ウサギは三日だけ待って、それでも他の案が無ければ自分だけでも出ていくと言って、「先生」は了承しました。

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