第11話 妻の妄想
オレ達に子供がいないのは、できなかったからだ。
もちろん、できればオレも子供は欲しかったし、不妊治療も頑張って続けていた。
だけど、妻にとっての不妊治療はオレが想像できないほど辛い事だったらしく、妻は精神的にバランスを崩してしまった。仕事を辞め、家に閉じこもり、誰とも連絡をとらなくなり、テレビもつけずにただ1日ソファーに横になり、じっとしている毎日。
何か話しかけてはげましても、なかなか妻の心に届かず、オレの一言が被害妄想につながる事も、多々あり、二人の会話も少なくなっていき、息苦しい日々が半年ほど続いた。
妻の知り合いが親身になってくれて、心の病院に通院するようになり、妻も自分は今、心が病んでいるんだと認めることで、辛い時は薬で気持ちを安定させるようになった。
もともと頭痛もちのため、時々寝込む事もあるけど、今では「ごめんね、ちょっと調子が悪い。薬飲んで寝るね」と、こちらを気づかってくれるようになったし、元気になれば、オレを笑わせるぐらいの冗談も言うし、とても活発に家の片付けをしたり、パン教室に通ったり、すっかり良くなったと思える時もある。
オレは妻の気持ちを考え、もう子供の話はしなくなった。自分としても、もう2人で生きていく人生が幸せならそれでいいと考えるようになった。妻の笑顔が愛おしかったし、
妻と仲良く暮らす毎日に満足していた。
妻の今の状態は何なんだろう。
以前、「外からずっとみている人がいる」とか「隣の人が、私の事を、子供が居なくてかわいそうと会うたびに言ってくる」とか
「外を子供が走り回る音がずっと聞こえる」とか言う事はあったけど、精神的に追いつめられての被害妄想だったと思う。
今回は、何か違う。
妻の目に、何が見えているのだろう。
本当に困った事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます