第21話 新たな心無
「アリアの体を集めるぞ!」
「おお!」
僕とアエルは仲良く街中を歩き、アリアの体を探す。
「今なら目で見えるから分かるけど、この世の中って、心無や人無ばっかりなんだな。」
超能力者として覚醒した僕には普通の人間では見えないものが見える。
「人間が人間を保って生きていくことは難しいんだね。生きていくって大変だ。」
アエルにも得意変異した人間の姿が見えていた。
「やっぱり都市部は生活が苦しいからお金のために、どんどん心を無くす選択をして、みんな生きているんだろうな。」
「じゃあ、田舎に行けば純粋な本来の人間がいるの?」
「分布図的に考えるとそうじゃないかな。」
人間の心のきれいさなんて考えたことも無かった。
「渋谷の街は心無や人無が多いから、歩きながら退治しちゃおうか?」
「それはいい。でも人無は生きてる人間だからダメだぞ。」
「わかったよ。とりあえず心無しだけにするよ。」
人の思いや思念が多すぎる都会。ノイズが少しでも減って、妹のアリアを感じられるように僕たちは街歩きゲームのように心無の掃除を始める。
「サイキック・インスピレーション!」
僕は心無の悲しい心に寄り添う。
「昔は! ここにロープウェイがあったんだ! 渋谷の駅前にロープウェイが! 思い出のロープウェイなんだ!」
心無。それは夢や希望、素敵な思い出。本当は人間のきれいな心なのかもしれない。
「それは僕の生まれる前の話だから。」
「え? そうなの?」
「さようなら。サイコキネシス!」
僕は心無を消滅させる。
「おうおう、お姉ちゃん、俺と遊ぼうや! なんならお金を稼げる店を紹介するよ!」
「いやー!? 離して!? やめてください!?」
都会には悪い男が大勢いる。
「お姉さんが困っている! 助けなくっちゃ!」
「ダメだ。その男は人無だから僕たちの能力で消しちゃダメだ。それに都会には悪い男に声をかけられる女性はたくさんいるからね。」
「そうなんだ。」
ふんふんと人間社会を勉強していく心無しのアエル。
(お兄ちゃん!)
「アリア!?」
ふとアリアの声が僕の精神に語り掛けてくる。
(助けて! お兄ちゃん!)
「アリア!? アリアが僕に助けを求めている!? いったいどこから!?」
僕は渋谷の街を360度見まわる。
「ええ~い!? 僕の受信アンテナの調子が悪い!?」
「あっちだ! あっちに・・・・・・同業者がいる! 私と同じ匂いがする!」
アエルが自分と同じハートレスの臭いを嗅ぎ分けた。
「ありがとう。アエル。君がいてくれて本当に良かった。」
「こちらこそ。もっと人間のことを色々教えてね。」
「分かったよ。僕たちは友達だ。」
「そう、私たちは友達だもんね。」
僕は人間ではないアエルを友と呼ぶ。人種は関係なく分かり合えれば友達になれる。逆に同じ人間でも分かり合えないのだから。
「ここは!? 渋谷駅のハチ公前広場!?」
僕たちは駅前にやって来た。
「ハチ公?」
渋谷生まれの心無だが、生まれたばかりのアエルはハチ公を知らなかった。
「ハチ公は渋谷の守り神だ。飼い主を駅前で待ち続けた伝説の犬さ。今ではただの待ち合わせスポットだけど。」
「守り神!? このお犬様は偉いお犬様だったのですね。はは~。」
ハチ公の像を崇めるアエル。
「うるさい! 静かに読書もできないじゃないか?」
騒いでいる僕たちに一人の少女が因縁をつけてきた。
「こんな騒がしい所で本を読んでいる方がおかしいんだ!」
僕は爽やかに言い返す。
「なぜ!? そうなる!?」
戸惑う少女。
「普通の人間なら文句を言えば、怯んで逃げ出すはず!? おまえは何者だ!?」
「そういうおまえこそ。普通の人間であれば、他人に文句は言わずに大人しく存在を消して本を読み続けるはず!? いったいおまえこそ何者だ!?」
僕は一歩も怯まずに応戦する。
「ふっふっふ。ふがいっぱい。」
少女が不気味に笑い始めた。
「ある時はハチ公前で読書をする少女。またある時はハチ公の前で待ち合わせをする少女。果たしてその正体は・・・・・・心無少女から突然変異して自我に目覚めた、ハートレス少女のイエルだ!」
「ハートレス少女イエル!?」
「わ~い! 同業者だ! お友達み~つけた! アハッ!」
現れたのは新たなハートレス。
「アエル、浮かれるなよ。」
「え? なんで?」
「どうも、こいつはお友達ではないみたいだ。」
イエルは禍々しい心無のオーラを放ちまくっていた。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。