第19話 麗しの妹
「でもアースは、どうしてこんな誰も来ない所にやって来たんだい?」
心無のハートレスのアエルが僕に尋ねる。
「実は妹を探しているんだ。」
僕は正直に話す。
「妹さん? こんな所にいるってことは、心無なの?」
「いや、違う。妹は何者かにバラバラにされてしまったんだ。」
「バラバラー!? ギャアアアアアアー!?」
バラバラ殺人事件と聞き恐怖で悲鳴を上げるアエル。
「なんで怖いんだよ!? おまえもお化けみたいな存在じゃないか!?」
「あ、そうでした。アハッ!」
妙に人間らしいアエル。
「心が有るって、こういう感じなのかな。話し相手がいる。お友達がいるって、いいね。なんだか心が温かくなるよ。」
自分が存在していると実感しているアエルを憎めなかった。
「そうか。心無じゃ、会話もできないもんな。」
「そうなんだ。ただの置いていかれた心が叫んでいるだけだからね。一人で孤独に生きていくと思っていた所に君が現れたのさ。マイ・フレンドよ!」
友達ができて幸せそうなアエル。
「じゃあ、本題に戻ろう。僕の妹はバラバラに・・・・・・。」
「ギャアアアアアアー!? 怖いー!?」
妙に人間らしさを発揮するアエル。
「落ち着け! ギャップで遊ぶな!」
「すいません。つい・・・・・・アハハハハ。」
再び話を進める僕。
「ある日、妹は歩きスマホをしていて呪い電信柱にぶつかった。すると体が引き裂かれるようにバラバラにされてしまったんだ。占い師の話では、バラバラにされた妹の体を集めれば妹を生き返らせることができるらしい。」
「胡散臭い。ブー、ブー。」
「毎回、茶化すな!?」
僕とアエルは息がピッタリの仲良しになっていた。
「もしも本当に妹を生き返らせることができるなら、どんなことをやっても、生き返らせてやりたい。」
僕にとって、妹が全てだからだ。アエルが自分の生まれた意味を知りたいというのと同じで、僕の生きる意味は妹だからだ。
「もしかして、これって妹さんの手なのかな?」
アエルがマネキンの様な右腕を見せる。
「それは!? アリアの手!? 妹の手だ!」
その小さな女性の手には、僕が誕生日プレゼントに送った指輪がしてあった。
「どこで!? どこで、その手を見つけたんだ!?」
食って掛かかる僕。
「目が覚めたらあったんだ。もっと詳しく言えば、私が生まれた時にそばにあったんだ。今は普通の手だけど、その時は強力な魔力を放出していたような。」
「なんだって!? じゃあ、妹の体の一部がアエルを生み出したというのか!?」
「そんなこと私には分からないよ!? アースが怖い!?」
「ご、ごめん。」
妹のことになると見境が無くなる僕。
「実は妹は魔女の血を引いているんだ。」
「魔女? 魔法で火や氷を出したり、ほうきに乗って空を飛ぶ?」
「そうなんだ。母型の血筋は魔女の一族らしい。もしかしたら妹には魔女の魔法や呪いの様なものが施されていたのかもしれない。」
未だに妹をバラバラにした者の正体は不明である。
「私も手伝うよ。妹さんの体集め。」
「アエル。」
「だって私が生まれて、アースに出会えたのが妹さんのおかげなら、今度は私が妹さんに恩を返さなくっちゃ。アハッ!」
心無なのにアエルには人間らしい一面がある。
「ありがとう。アエル。」
「どういたしまして。」
僕は良き友を持った。
「それよりも大変なことは、私に妹さんの体が見えるってことだよ。他のハートレスにも妹さんの体が見えるってことだろ?」
「なんだってー!?」
「もしかしたら私の他にもハートレスを生み出しているかもしれない。」
妹の魔力を帯びた体は、心無しから個性・自己の意識を持ったアエルの様なハートレスを生み出す可能性がある。
「それに心無が妹さんの体を傷つけないという保証もない。」
「うおおおおおおおー!?」
僕は妹に危機が迫ると考えると発狂した。
「落ち着いて!? どうしちゃったのさ!? アース!?」
「妹を! アリアを助けなければ! アリアは僕の全てなんだ! アリアがいる世界が僕の生きる世界なんだ! アリアが僕の生きる意味なんだ!」
世界から全てが消えたら、僕は生きてはいけない。生きる価値のない心を無くした人無の大人になるだろう。そして置いていかれた僕の心は心無になり、いつまでも妹を、麗しいアリアを思い続けるだろう。
「羨ましい。」
「え?」
「アースは自分の生きる理由を見つけているのだから。」
アエルの言葉には実感がこもっていた。
「私も知りたいな。自分の生きている意味を。」
「きっと見つかるよ。アエルの存在を証明するものが。」
僕とアエルは友達になった。
つづく。
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