第18話 ハートレス

「ようこそ。コルパ劇場へ。」

 一人の人間がいた。

「こんな所に劇場があったとはな。」

 僕はコルパの劇場にやって来た。

「あなたが来るのを楽しみに待っていましたよ。クスッ。」

「待ち伏せは悪趣味じゃないですか?」

 不気味に笑う相手に僕も立ち向かう。

「ワッハッハー!」

 言い返した僕をあざ笑うかのように相手は大声で笑う。

「何がおかしい!?」

「あなた、心を失っていませんね?」

「なに!?」

 ゾクっとした。相手の言葉に緊張が走る。

「面白いですね。心のある者は。クスッ。」

「おまえはいったい何者だ!?」

 僕は相手の正体が分からないの尋ねてみた。

「私はアエル。心無が突然変異して、自分の意思を持ち、自分で行動することを許された。ハートレスです。」

「ハートレス!?」

 現れたのは心無が進化したハートレスのアエルだった。

「おまえたちは何なんだ!? いったい何が目的なんだ!?」

「それを私も探している所です。」

「なに!?」

 ハートレス自身も自分の存在が分からなかった。

「私たち心無は、何者なのでしょう?」

「え?」

 本当にハートレスのアエルは自己の存在、アイデンティティーが分かっていなかった。

「あなたは心無が生まれる瞬間を見たことがありますか?」

「ない。」

「心無は、人間が好きだとか、嫌いだとかという自分の感情を捨てる時に生まれます。子供であれば自分の意見が言えますが、大人になったら嫌いでも好きと言わなければいけない。自身を守るため、自分の家族を守るために。」

 今明かされる心無の誕生の秘密。

「人間は心を捨てて、感情を失くして大人になっていく。悲しい生き物です。」

 アエルは、人間に同情して悲しんでいた。

「そして心を無くした人間は、他人を傷つけることに抵抗のない人で無し、人無になるのです。」

「人無!?」

 アエルは、いじめやパワハラ、セクハラをする人間を人で無し、人無という。

「人間から切り離された心の私たちと、心を無くした人間。どちらがマシでしょうね? あなたはどちらとなら分かり合えると思いますか?」

 アエルの質問は核心に迫っていた。

「・・・・・・大人と、心の無い人間と話しても何も変わらない。」

 僕は大人がそういう存在だと思ってしまった。大人は子供の言うことは何も聞かずに否定する。自分の立場で自分よりも弱い立場の子供を否定するのが大人だからだ。大人全てがという訳ではないが。

「その通り。心無といわれる私たちの方が心があり、人間の大人の方が自分の意見も言うことが出来ず、窮屈にストレスだけを溜め込んだ心の無い者。そういった感情や心の無い人間は、既に人間ではなくなっているので人無と呼ばれるのです。」

 アエルから心無についての説明を聞いて僕は理解はできた。

「今度は私からの質問です。あなたは何者ですか?」

「僕? 僕はアース。人間です。」

「でも私たち心無の姿が見えるのですよね? おかしいですね? 普通の人間には見えませんよね? あなたは何者ですか?」

 アエルは心無の姿が見える僕の存在が不思議で仕方がなかった。

「僕は超能力者だ。」

「超能力者? あのエスパーみたいなものですか? 思念を感じたり、物に触れないで物を動かしたりするという。」

 僕を不思議そうな表情で見つめるアエル。

「まあ、そんな感じかな。」

 超能力者をすごいと言われているみたいで僕は少し照れ臭い。

「あなたには私がどこに行けばいいのか? 私が何をすればいいのか? 教えてくれますか?」

「え?」

「私は知りたいのです。なぜ心無だった自分が意思を持ち生み出されたのか。自分がいったい何者なのか。自分がなんのために生きているのかを。」

 アエルは自分の存在価値が分からないで彷徨っていた。

「たぶん、それを知るために生きているんじゃないかな?」

 僕は思ったことを素直に言ってみた。

「・・・・・・そうかもしれないですね。ワッハッハー!」

 見方を変えれば心無といわれている者の方が人間らしい心があるのかもしれない。

「友達になろうよ!」

 僕はこの心無となら仲良くなれそうな気がした。

「友達? 私なんかと?」

 戸惑う心無。

「きっと君となら分かり合える気がするんだ!」

 僕はアエルに手を指し述べてみた。

「・・・・・・私の自分探しの手伝ってくれるなら、喜んで。」

 少し考えてアエルは笑顔で答えを出した。

「今日から僕たちは友達だ。」

 アエルは僕の手を掴んで握手した。

「よろしく。私の初めてのお友達。」

 全ては声をかける所から始まった。僕は話し合えば誰であっても分かり合えると信じていた。

 つづく。

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