第4章 第3話 懐しの我が家

  何故この場に魔王がいるのか?

 東でコンゴールとの戦争中ではないのか。

 

 

「何故、魔王がここに?」

 

「決まってんだろ?

 わしの支配域で暴れちょるチンピラを懲らしめに来たのよ」

 

「離せ。 あそこにいるのは勇者だ。

 先に奴を殺させろ、お前と話し合うのはそれからだ」

 

 

 魔王は神々の管轄に無い異端の存在である。

 魂を持たず、信仰を持たない。

 何を考えどう動くのか? まったく予想がつかなかった。


 とはいえ神話ミソロジーからすれば勇者は敵であろう。

 神界が敵というのは同じ立場であるはず。

 どう転ぶにしろこの場の勝利を確定しておかなければならない。

 サンアトスはそう判断した。

 

 

「なあに寝言言ってやがる。

 勇者どもとは一時休戦中じゃ、お前の思い通りに行くと思うな」

 

 

 この場に違う存在の気配がし、何もない空間から男女が現れた。

 男は精悍な顔つきで意匠を凝らした板金鎧を身に着け

 女は髪を片側にまとめ胸まで伸ばし貫頭衣かんとういを着ていた

 貫頭衣かんとういにも意匠が施されている。

 その意匠と持っている剣・短杖を見れば誰何すいかせずとも誰だかわかる。

 東のコンゴール王国にいた二人の勇者であった。

 

 

「ここはどこだ? う! これは酷いな……」

 

「うわあ、死体だらけ。

 ん? 西の勇者の子じゃん! おーい大丈夫ー?」

 

「あ……キミたちは……はっ!

 頼む、あそこにいる仲間を助けてくれ!

 まだ、まだ魂はこの場にいるはずなんだ!」


「えぇ~? あ~死神がデス・ロンドを使ったのね。

 同じ勇者のよしみで蘇生してあげるわよ。

 あの人とあの子とあの子と……え? 猫も?」

 

「これは、幻獣か?」

 

「ん……ダメだ。 残念だけど幻獣の魂は失われているね」

 

「そ、そんな」

 

「エルフも軒並み死んでいるが蘇生しなくていいのか?」

 

「エルフは精霊じゃ、わしらと同じの部類よ。

 魂も来たるべき寿命もねえ、ただ失われただけだ」

 

「魔族と同じってのも暴論ね、守護森の管理はどうするの?

 死神叩き出してアーリーン継続?」

 

「そうもいかぬ、穢れた器は綺麗にならぬわ」

 

「ならばどうするのだ? ドワーフを管理者にするのか」

 

「あいつらにゃ森の管理はできんさ。

 なぁにだからほっとけばなるようになる。

 それよりこいつの裁きをどうするかだが」

 

「神さまにお伺いを立てようか?」

 

「その必要はありません」

 

 

 蘇生されてすぐ、たま の亡骸で泣き腫らしていたベリアがすっくと立ち上がり毅然とした口調で喋りだした。

 その声色はベリアではなく―――――

 

 

「あ、神さま」「なるほど経由か」

 

 

_/_/_/_/_/

 

 気がつくと僕はキャリーケースの中にいた。

 もうしばらくすると嫌な音がして放り投げられる流れか。

 前足をじっと見て、にぎにぎしてみる。

 あの世界で色々あったから元の身体を思い出す。

 

 幻獣はともかく、そんなに変わらないよな?

 キャリーケースの扉を見てみる。

 内側からだと分かりにくいがスライドロック方式のようだ。

 格子扉はそれなりに前足がだせる……こう曲げて、こう?

 

 

[ カタン ]

 


 開いた。

 なにも問題の事件を黙って待つ事はない。

 飛び出して振り返ると懐かしいご主人様かすみちゃんがいた。

 めちゃくちゃビックリしている。

 

 

「たま!? に、逃げちゃやだよう」

 

 

 逃げないよ。

 この世界も懐しい……おっと懐かしんでる場合じゃない。

 そうだ自転車、――あれか!

 自動車をよけてご主人様かすみちゃんに気づかず向かってきている。

 

 

「ぅなーぉう!」

 

「うおっ!?

 なんだよ猫か、脅かすな」

 

 

 激突ルートに割り込み気を引く事に成功した。

 ご主人様かすみちゃんも視界に入ったらしく大きく距離をとり通り過ぎていった。

 これで――ひさんな運命を回避できたのかな?

 あっさり過ぎて肩すかしだなあ。

 

 

< グルルルル バウッ ガウッ >

 

 

 住宅街の細路地から犬が出てくる。

 黒くてスラリとしたでかい犬で首輪をしている。

 遠目にも瞳に狂気が宿っているのがわかる。

 影は付いている気配はないけど運命をに操られているんだろう。

 

 元の身体で戦いは初めてだ。

 でも、無いはずのボールが転がる。

 負ける気がしない。

 ギリギリとけんを引き絞る。

 

 

< ガウウゥッ >

 

「きゃああっ!」 

 

 

 後ろでご主人様かすみちゃんの恐怖の悲鳴が聞こえる。

 目標を犬の目から鼻っ面に変える。

 忘れてた、ここはあっちの世界じゃない。

 急所狙いだと残酷って怖がられちゃう。

 

 犬が地を蹴り飛び上がった瞬間に合わせ突撃する。

 鼻っ面に爪を引っ掛け背中に飛び乗る。

 首の後へ噛み付き腱を噛み切る――と死んじゃう。

 後頭部で爪とぎをする、猫に敗北した証を刻んでやるわー!

 

 

[ ばりばりばりばり ] < キャイン キャイン >

 

 

 踵を返したので、逃走と判断し飛び降りる。

 一目散に逃げていく。 よし、勝ったな。

 ご主人様かすみちゃん大丈夫?

 ん? なんだかようすが……

 

 

「たま すっごおおおおおおおい!!」

 

―――――

 

「ママー! ママー!」

 

「あらかすみ、病院はどうしたの?」

 

「あ……たま が小屋から逃げちゃって、怖い犬に襲われたの。

 がるるーって! そしたら たま が逃げなくてとびのって頭をばりばりばりばりーって! 凄かったんだから!」

 

「わからないわよ」

 

「なおーん」

 

「…… たま。 あんた逃げたの?」

 

「にゃうん」

 

 

 香澄ママが何か悩んでるようだ。

 まあいいや、懐かしの我がナワバリ。

 美味しいごはんたべよーっと!

 

 うーん? うまいよ、うまいんだけど。

 こんな感じだったっけかな。

 お腹いっぱいになった後はご主人様かすみちゃんといっぱい遊ぶ。

 お互い疲れたら、懐しの寝床でぐっすり眠る。


 おやすみなさ~い!

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