第3章 第6話 けもののおきて

【ご注意】残酷描写あり

今回のたまパートは人により胸クソ悪い展開かもしれません。


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  バザームたちが鍛冶彫金に入り人間は地下湖船に案内された。

 帆が無く漕がずとも進む平べったい蒸気船だった。

 広いとはいっても地下湖を渡るだけにしては大きすぎる造りである。

 

 乗船し船室へ入ると、船の異様な大きさの意味がわかった。

 老若男女のドワーフたちが酒盛りをしていたのだ。

 

 

「お! きたな人間。

 目的地には飲んでればつく、さあ飲め飲め」

 

「船旅で宴会ですか……ドワーフは酒好きらしいですね。

 やはり火酒なんでしょうか」

 

「人間はドワーフと見るとすぐそれだ。

 火酒は他に飲むもんが無い時に飲む、今はある。

 木の実酒、果実酒、蜂蜜酒に奈落酒となんでもありだ」

 

「へええ、奈落酒ってどんなの? 甘いの?」

 

[ グビリ ]

 

「苦くて甘い……のだが奈落酒には他にない重みがある」

 

[ グビグビ ]


「坑道を掘っていると奈落の断崖に突き当たる事がある。

 そういう場合は断崖の底に酒を奉納する。

 坑道が開通したら奉納した酒を引き上げ祭るんだ、それが奈落酒」

 

「神か悪魔か奈落の恵みってことじゃな。

 この重みがええんじゃ」

 

「わはは人間もやるのう、ようし勝負じゃ」

「次の樽もってこーい」

「じゃからマグマ溜まりを避け堅い岩盤を崩すと眠れる悪魔を掘り当てちまってな、そのドワーク窟は全滅したんじゃと」

「奈落酒の奉納が足りなかったんじゃな」

「果実酒頼んだのだーれー?」

「俺この仕事が終わったら、おっぱいのでかいネーチャンと辺境で農場でもやって暮らすんだ」

「農作業が楽チンで余生を過ごそうと考えてるあたり、小童の考えそうなことじゃ」

「ロッタン身を固めたいの?

 なら有り金娼館に使うの辞めなさいよね」


―――――


「……」

 

 

 カスミは一人、光の届かない地下湖の暗闇を見つめていた。

 旅は順調である、にもかかわらず胸騒ぎが収まらない。

 の際、同行者の選択について特別な神託はなかった。

 

 アックスヘッドたちは頼もしい同行者だし、ベリアについている たま も協力は断わられたものの影の存在を敵視している。

 気まぐれにしては たま の影への苛烈さには違和感を覚えていた。

 彼には覚悟も使命感もない。

 行く先には安らぎは無く、逃げても誰も責めないというのに。

 

 

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 イワヒョウたちの地力じりきは高い。

 ネコ科特有のしなやかな動き、鉤爪攻撃の有効範囲の広さ。

 群れを成すとなれば絶え間ない攻撃で強敵をも倒す。

 

 でも勝ちスジは見えた、いずれ力尽きるという心配が無いのなら。

 赤鬣のひとのまねができるかもしれない!

 だいぶ前だけど体格・数に負けない戦いは強烈に覚えてる。


 襲ってくる相手を紙一重で回避して敵の動きに鉤爪を添える。

 爪が刺されば刺さった手を支点に回り込み後ろから噛む。

 反撃ばかりでは連携で対応され追い詰められる。

 

 この幹と、あっちの幹、最後にあの枝へ。

 枝の反動を利用して上から襲いかかり首かけんを噛みちぎる。

 幹の代わりに敵の位置が良ければ踏み台にするのもいい。

 とにかく視界外に移動さえすれば[隠密]で見失わせられる。

 

 ただでさえ地上のけものは空の敵によわい。

 前後左右に注意を払えても、上を意識し続けるのは難しいんだ。

 

 

「にゃ」  「にゃ」  「にゃ」

 

 

 飛び上がる直前に軽く声を掛ける。

 奴らは声に反応し意識を誘導され飛び上がった僕を見失う。

 戦いは一方的で総計12ひき、全て戦闘不能になった。

 けんを噛みちぎっただけの奴をゆっくり殺す。

 

 

『さすが銀鬣様ギンリョウサマだ、あっという間に群れをやっつけちまった』

 

『私達は兄妹で2匹、あんまり役にたっておりませんわ』

 

 

 最後の敵の息の根を止めていると、新たな敵があらわれた。

 

 

『ああ……みんな……どうして? 私達が何をしたっていうの?』

 

 

 イワヒョウの仲間らしい。

 まだ若い個体で雌だ、おそらく群れの家族なんだろう。

 数を考えると大きなテリトリーをもつ裕福な一族に可愛がられていたお嬢様ってところだろう。

 

 

『オロン様、アテル! 酷い……どうして殺したの?

 私達が何をしたっていうの? ……答えてよ!』

 

『何って、なあ?』『しっ! 黙って!』

 

『僕たちの目的の邪魔をした。 が理由だね。

 君たちのテリトリーを通る必要があったんだ。

 話し合いをしようとしたけど問答無用で襲われた。

 仕方ないね』

 

『テリトリーを通る……そんな事のために?

 アテルを返してよ、この猫殺し!!』


『うん、まあそうなるよね』

 

 

 雌ヒョウはその牙を僕の喉笛に打ち込もうと鋭く跳躍してきた。

 来ると解っていたので、避けてももけんを噛みちぎる。

 勝負ありだ。

 

 

『殺してやる、死んだとしても呪い殺してやる!』

 

『へえ、そういうスキルを持っているのかい?

 ぼくはちょうじゅを持ってるけどどっちが強いんだろ?

 ……言っておくけどこれが弱肉強食けもののおきてだよ。

 あいつらもきみも、牙をむいたなら勝たなきゃ死ぬんだ』

 

『あ……あ?』

 

『キミたちもこれまで土鼠に呪い殺されなくてよかったね。

 じゃあおやすみ』

 

 

 こちらを睨みつけながら動ける上半身で必死に抵抗を試みる。

 死角へ回り込むと僕の存在を認識できなくなる。

 首にかぶりつき止めを指す。



『やったわね!』

 

『こいつらたまにサリョウ一族のナワバリを荒らしてたりしてたからな。

 ざまあみろだ』

 

『とっとと行こう、目的地はもうすぐだ』

 

 

[ ガサッ ]

 


 茂みの奥から人影があらわれる。

 

 

『快勝おめでとうございます、たま さん。

 同じネコ科を殺した感想はどうですかな?』

 


[ グルルル ]

 

 

 こいつがボスだろう。

 不愉快な気配がプンプンしている。

 二足歩行しているが人間ではなかった。

 

 猫と同じ手足で立ち上がり、スーツのようなものを来ている。

 ご主人様かすみちゃんのパパが着ていたようなやつだ。


 今までの奴とは雰囲気が違う。

 手には杖のようなものをもち、顔は猫のようでいて口角を上げ、ニヤついた表情をしている。

 

 

『全く神の使徒どもは忌々しい。

 特に貴猫あなたのような存在は困るのですよ、やっと見つけたと思ったら眷属を倒しまくっている。

 溜まったものではありません』

 

 

 何を言っているのか理解出来ないけどずいぶんと口の軽い奴だ。

 手早く片付けようと後ろに回り込み足を狙う。

 こちらの攻撃をわかっていたように避ける。 

 連続攻撃で飛び上がると慌てたように飛び退る。

 

 

『全く油断なりませんねえ、影ふみでしたか?

 我々の存在そのものを脅かす……。

 放ってはおけません』

 

 

 こいつ……僕の能力を把握してやがる。

 死角に回り込んでも認識を失わず、影に対しての攻撃も避ける、

 立っている分、高くてやり難いが飛んで上から攻撃を仕掛ける。

 視覚外からの攻撃であっても杖で弾き飛ばされ近づけない。

 

 

『素直に死んで魂を寄越せば苦労はありませんのに。

 本当に下等生物はこれだから困るのですよ』

 

 

 打つ手を潰され敗北を覚悟しているとリマから[伝心]が届く。


(こいつらケット・シーはいつも偉そうなのよね。

 でも猫族の弱点は克服出来てないのよ)


 僕に集中して伏兵に気付けず、奴はあっけなく後ろを取られた。

 履いているスーツに両前足の爪を立てしっかりと取り付き、尻尾の付け根……腰へ連続猫キックを食らわせる。

 

 

「にゃっ!! やめにゃさい!! この野良猫どもがっ!」

 

 

 あ~……腰はその気がなくとも性的にくるんだよなあ。

 真剣勝負のさなか、腰砕けになったスーツ姿のケット・シーはリマのにいやたちにも手足のけんへ噛みつかれる。

 自分が戦闘中にやられたらと思うとゾッとする。

 作ってくれたチャンスを逃さないよう腰を震わせて喉元に喰らいつく。

 腰を震わせたのは狙うためで変な気分を散らしたわけじゃない、けっして。

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