第2章 第10話 まだ見ぬ世界へ

  勇者一行が出発し、開拓村へ向かう。


 地を這う生き物が高速で移動する。

 天を駆ける馬のように……とは言うが地をひた走る様は虫のようである。


 野営地にも止まらず駆け抜け大森林に入る。

  

 

「前にも感じましたが、好戦的な魔獣が少ない気がしますね」

 

 

 疾走している最中に私語は殆ど伝わらない。

 なかば叫ぶようにシェギが話しかけるとカスミが反応する。

 

 

「この辺りだと、野生の獣たちの方が強いのです。

 この前のハイオークが例外中の例外なの」

 

 

 大森林を無事に越え陽が赤く沈む頃、開拓村に到着する。

 復興には程遠いが防衛部隊は既に配置され、勇者たちを迎え入れてくれる。

 

 

「久々に身体強化全力で走ると自分でも信じられないほど距離がすすむな。

 疲労は無いが、精神的に疲労困憊ひろうこんぱいするっていうか」

 

「気の所為せいよ、まだまだ旅は始まったばかりじゃないの。

 まだ一戦もしていないのにだらしないわねえ」

 

「ベリア……戦闘は避けるんですからね?」

 

「わかっているわよ。

 でも戦斧新調したからね、戦闘が楽しみだわぁ」

 

 

 鍛冶師に頼んでおいた新品の戦斧を掲げうっとりするベリア。

 黒い斧頭に絡まるように同じく黒色の金属糸が巻き付いている。

 柄部分も黒く塗りつぶされている黒一色の斧だ。

 刃先の湾曲部分だけが銀色に光っていた。

 


「それが例の合金製素材の斧ですか」

 

「鋼みたいなもんらしいけど、やり方が違うんだって。

 だいぶ手間がかかるらしいよ」


「手間も値段もな……それのナイフ持ってるけど剣より高かったぜ」

 

 

 ロッタンが同じく黒っぽいナイフを取り出し、食べ残りの骨を薄く削る。

 それを合図に、衛兵たちの装備自慢大会が始まる。

 

 

「そういえばカスミちゃんの神剣って他の勇者たちのと違うよね?

 なんか特殊な能力とかあるの?」


 

 アックスヘッドたちは諸々もろもろの理由で複数の王国を渡り移っている。

 世界に存在する王国それぞれが勇者を有しているのだ。

 ベリアの性格からして勇者に求められる仕事に参加することも多い。

  

 

「他の勇者とか知らないけれど、この子は気難しいんだ。

 ちゃんと必要な時にだけ力を貸してくれる」

 

「ふ~ん、まあ折れなくてちゃんと切れれば名剣と言えるけどな」

 

「そうですね、手強い魔獣が出た時に活躍してくれれば充分です」

 

 

 じゃがいもの油炒めが尽きたころ、大鍋に鶏肉がごってり入った雑炊とミードが振る舞われる。

 村の畜産肉とヴィシュマールの支援があるからこその大盤振る舞いであった。

 衛兵たちの感謝の乾杯が湧き勇者一行も饗応きょうおうにあずかる。

 

 

「この前の遠征といい、開拓村は恵まれているよなあ。

 もう俺ここに移住しようかなぁ」

 

「いいね! そしたら大儲けして依頼いっぱい出してね!

 ここなら害獣退治に事欠かなそうだし」

 

「そんで一緒に……え」

 

「ベリアに落ち着けって方が無理じゃないですか?」

 

 

 シェギがいつものようにロッタンにあきれる。

 

 

_/_/_/_/_/


 開拓村の周辺はアグムル周辺と違った獲物が取れる。

 あちこちに当たり前のようにいる土鼠は見かけられず、角を生やしていたり硬い身体をもつ奴が多い。

 

 今は人間が寝っ転がったぐらいの大きさのトカゲを狩っている。

 クモみたいな複眼をしていて何処をみているのかわかりづらい。

 エリーの真似をして空中から襲いかかって見た。

 ゴツゴツした身体に阻まれて大したダメージを与えられていないみたい。

 

 

「カッ カッ ギャーオ!」

 

 

 威嚇しながら狙いを定める。

 身体をゆらし目を狙って……あたーっく!

 狙われているのを予測していたのかまぶたを閉じ攻撃を防ぐ。

 僕はそのまま6本あるうちの右中足に降り後ろから首後ろへ噛みつこうとする。

 

 トカゲはそのタイミングで後ろへ飛び退り避ける。

 やっぱり真後ろも見えているのかー。

 僕の位置はトカゲの正面になり、避ける間もなく噛みつかれる。

 

 身体を捻るも虚しく頭からパクリと食いつかれる。

 思ったよりもトカゲの口が食い込む。

 けど、計画通り。

 

 

『食いつかせて弱点を断つんだ!』

 

 

 トカゲみたいな爬虫類系は丸呑みが基本。

 それでもこいつには牙がある。

 けれど噛む力はそんなに強くない。

 硬い皮膚と、死角を無くす複眼、守る特性だ。

 

 とはいえ口の支点から遠いほど咥える力は弱い。

 奥歯に噛まれないよう前足ごと食べられればこっちのものだ。

 

 

『口内おそうじー』

 

 

 思いっきり爪をだして引っ掻きまくる。

 口の中の粘膜を固くしてる生き物はあんまりいない。

 痛みに大きく口を開けてしまったトカゲから飛び出し、着地と同時におなかに喰い付き引きちぎる。

 体内とお腹、ここはそう簡単に硬く出来ないんだよね。


 そしてそこを傷つけられると痛みにもだえ、遠ざけたくなる。

 その結果、腹を上に暴れることになるんだ。

 こういうふうにね、飛び乗って喉元がぶりで終わりっと。

 

 

『どんなもんだい!』

 

 

 ずるずるとベリアに引き摺って行き、自慢してやる。

 僕の獲物だけど食べ足り無ければ分けてあげてもいいよ? 食べきれないし。

 あれ? みんなどうしたの?

 ベリアまで……まあいいや。

 

 もぐもぐ……うん! うまい!

 こういうのでいいんだ、こういうので。

 蛇もうまかったけど、新しい獲物に出会うのも大事だよ。

 

 

 

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