第2章 第9話 出発前夜祭

「出発は翌朝、メンバー追加は結局なしか」


「そりゃまあ、将来の事を考えれば普通受けない依頼ですからね」


 

 大陸中央へ向かうのであれば後半は補給が望めない。

 狩りなどを考えれば魔物との遭遇を招くだけだ。

 前回の開拓村を通り、そのまま先へ進む。

 護衛するものもなく、目的地へと進むのが最優先。

 

 今回のメンバーは皆、身体強化を使える。

 体力と魔力が続く限りの強行軍で移動時間がかなり短縮できるだろう。

 だが夜に行われた会議で行軍予定にシェギが問いただす。

 道なき道を行き、村も無い地を進むにしては直進じゃなかったからだ。

 

 

「地形による経路選択もあるとは思いますがそれにしては寄り道しすぎでは?

 この経路には何か意図があるのですか」


「うん、魔王軍の庇護にはいっていない独自の防衛網をもっている種族がいる」

 

「え、魔王の支配領域に魔物でない種族がいるだって?」

 

「そりゃあいるよぉ。

 うちらのパーティ組む前、一人で修行してた時に見たことあるもん」

 

「なんですそれ……ベリアそんなことしてたんですか」

 

「クー・シー族やケット・シー族、ドワーフやエルフなどの妖精族です。

 彼等は独特の文化をもち、魔王軍にくみしてはいます。

 ですが人間に対してはそれほど敵対的ではありません。」

 

「つまり敵対的でない者たちの領域を通って進むという事ですか」


 

 戦わずに進めるに越したことはないが大きく迂回する経路ばかり。

 ただでさえ目的地までが膨大な距離なのに迂回ばかりでは気が遠くなる。

 

 敵対的ではなくとも、友好的とまではいかないだろう。

 魔王軍の一端にいるのであれば歓迎はされまい。

 匿うことにもなるし、言ってみれば人間はよそ者だ。

 

 

「ボクは召喚された時、しばらく大森林の向こう側に逃げたのです。

 その時に彼等とは交流がありましたから話をつけてみます。」

 

「まあ魔王軍に侵入がバレて死ぬ迄連戦するよりゃあいいかな」

 

「私はそれでもいいけど?」

 

「ベリアは良くてもロッタンが良くありませんよ。

 私を守りきれなかったらどうするんですか」


 

 酒が入っているせいか、依頼の行軍打ち合わせが宴会の様相を呈していた。

 

 

_/_/_/_/_/

 

 人間たちの話し合いはなんだか難しい。

 なんであんなに難しい会話をいっぱいする必要があるんだろう。

 ようするにやっつけて目的地にすすめばいいのになー。

 

 でも妖精とかなんだか面白そうだから、付いていこう。

 人間たちの食べ物からうまそうな物を盗む。

 エリーにお土産にもっていこうっと。 

 

―――――

 

『また遠出するの? たいへんねえ』

 

『そうでもないよ、旅は楽しいもんさ』

 

『でもこんどの旅先じゃかわいい雌猫に毛づくろいして貰えないんじゃない?』


『あいたた、噛まないで。

 別に行く先々で雌猫探してたりしないよう』

 

 

 エリーは嫉妬深いわけじゃないんだろうけどたまに僕をからかう。

 じゃれ合って遊んだり毛づくろいしあったり。

 お気に入りの寝床にお邪魔して一緒にねたり。

 

 タンビの足腰もしっかりしてきて、みんなとの狩りもうまくなった。

 明日は置いていかれないよう早起きしなきゃ。

 おやすみなさい……ぐう。

 

 

―――――

 

「くぁあ~! ……にゃむ」

 

 

 あくびを噛みころし、背伸びをする。

 

 

< ガリガリガリ >

 

 

 爪のちょうしもOK

 朝ごはんに街の外へ行ってもぐらを捕まえて食べにいく。

 見ればタンビのとこにいた狩り仲間もいた。

 

 宿屋に戻るとベリアたちはまだ寝ていた。

 昨日はシェギの番? だったらしく二人がおなじベッドで寝ていた。

 とりあえずベリアのおっぱいをふみふみしてみるが起きない。

 しかたがないのでベリアにのっかり二度寝と洒落込むことにしよう。

 

 

「うーん、うーん……」

  

  

 おや? ベリアもあくむを見る事があるんだろうか。

 ベリアを苦しませるあくむって相当しきいがたかそうだよね。

 

 

「ん……、なんだ たま ですか。

 寝てる人の身体の上にのっちゃダメですよ」

 

 

 シェギが僕の首根っこを掴んでベリアから降ろされる。

 ひまなので宿屋の窓枠に登り景色をみる。

 

 あれはタンビかな? 前にエサを奪われかかった成猫と向かい合ってる。

 けんかになりそうだけど今回は一対一だし弱肉強食けもののおきてだからがんばれ!


 あ、飛んだ。

 なんだかこの街の雌猫たちは空中戦率がたかい気がする。

 成猫の方はあおむけ猫キックで応戦しているが、押され気味だ。


 そうこうしているうちにお向かいの肉屋が開店したらしい。

 飯皿に屑肉をおいてくれる。

 あんまりうまそうじゃないけど二猫ふたりとも食べに行った。

 

 

「あ……っふ。

 たま おはよー」

 

「もうすっかり明るくなってますよ、早く服を着て行きましょう」

 

「シェギはまじめだなあ、長旅の始めなんだしちょっとくらいいいでしょ」

 

「朝飯をゆっくり取れなくなってもいいならどうぞ」

 

「わかったよう」

 

「にゃーん」

 

 

 ベリアが装備を整えて、兜をかぶってからお決まりのように頭まで登る。

 しっぽをベリアの耳あたりにぺしぺしとぶつけると、撫でつけてくる。

 

 

「なうー」

 

 

 もういいよ、の合図をすると撫でるのをやめる。

 よく訓練された猫好きしもべである。

 

 

「それでは皆さん、出発しましょう。

 予定では今日中に開拓村まで行きますのでそのつもりで」

 

 

 ユウシャの合図でみんなが走り始める。

 これまでの人間の駆け足とはあきらかに疾さがちがう。

 門を通る時に門衛が敬礼する。

 ユウシャたちは片手を軽く挙げるにとどまったが僕はちゃんと挨拶をする。

 

 

「にゃん」

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