第2章 第3話 戦闘訓練

  出かける者あれば帰る者あり。

 猫の集団が出掛けていったあと、しばらくして戻ってきた。

 出ていくのは勝手だが、同じ動物の帰還でも簡単には通せない。

 飢えた動物を街に入れる訳にはいけない決まりだからだ。


 理由は結構な頻度で飢えた獣が人家じんかに近づいて、畑や食料を荒らす事による。

 だが近づくにつれ、猫たちには当てまらない事がわかった。

 皆獲物をくわえて帰ってきたのである。

 


「アグムルの街へようこそ。す、凄い収穫ですね」

 

 

 返事は勿論ない、鼠やらスナトカゲをくわえているからだ。

 バラバラにされたオオカミをくわえたり引きずっている猫もいる。

 何があったかは想像に難くないが、これは事件として報告すべき事柄だろう。


 動物相手に何を言ってるんだ。

 と門衛が自嘲するが、猫たちのやっていることは冒険者たちのやっている害獣退治と変わらない。

 たま に至っては妙に会話がわかっているような反応をする。

 

 ともあれ、立番も交代の時間だ。

 仲間と交代し詰め所に戻ると、衛兵たちがだらけていた。

 

 

「ねみー」「なあなあ終わったら娼館いかねえか」

「勝手に一人でいってろ」「ぐー」

 

「猫たちも働いているのにお前らときたら……」


 

 その頃、廃屋地区では猫集団のお披露目ひろめ集会が開かれていた。

  

 

_/_/_/_/_/

 

『こんなに大量に……防壁から外の狩りは凄いな』

 

『ありがたやありがたや、これで餓死しなくて済む』

 

『オオカミの肉、意外といけるな。

 こいつをみんなで噛み付いて止めを刺したのか、なるほど』

 

『人間から貰うんではなく狩った肉を食べる時は寄生虫注意よ。

 ヨモギの蕾を食べれば虫下しになるわ』

 

『エリーさんはいろいろくわしいのう』

 

『飼い主が薬草に詳しいからね!

 ちょっとした怪我ならドクダミの葉をすり込むといいわよ。

 くさいからわたしはもう二度とごめんだけどね!』

 

『あれ、たま さん、は?』

 

 

 僕は何だかんだで疲れて雑草溜まりで眠り込んでいた。

 8猫に狩りの実地トレーニングをしたんだからしょうがない。

 でもそのおかげでこれからは狩りをすればこまらないだろう。

 

 強いけものには気をつけなけりゃいけない。

 でも僕たち猫は気配を消して忍び寄るのがとくいだ。

 危ないか勝てる敵か、判断して逃げるか狩るか選択できる。

 

 

 どれくらい眠りの海でゆられていただろうか。

 まぶたを閉じたまま起きようか、このままか悩む。

 お腹はまだ減っていない、トイレも大丈夫。

 まぶたを開ければいいんだけど起きる理由がみつからない。

 

 ふと、しっぽがふまれる。

 痛くはないがしっぽをふまれてるものから抜く。

 びたん と振って横にのけると、はっし とつかもうとする。

 爪は出ていないようだ。

 

 ねむり猫の尾をふむもの。

 よけてもつかもうとするもの……はだいたい決まっている。

 クイっと動かすとまたつかまれる、よける、ふまれる。

  だと言うのがわかる。


 母さんにはよくやってもらった、兄弟にもやってもらった。

 いまさら前の世界が恋しいわけではないが、なつかしい。


 びたん びたん と動かすたび、飽きずに はっし とつかむ。

 動かす……とみせかけて戻す。

 動か……さず先っぽだけ ぴくり と動かす。

 

 遊びに構っているようで、こっちも楽しい。

 しばらくしっぽだけで構っていると、つかまれなくなる。

 飽きたかつかれたか、しっぽが何度かぶつかって位置は特定できているのでわざとしっぽをぶつけると はっし とつかむ。

 

 まぶたを開いてみるとタンビであった、知ってた。

 横ではタンビママが うずうず しながらも見守っていた。

 遊びに興奮しすぎて爪を出しすぎたり首をかじったりしないように注意してるのだろう。

 

 

『あ、たま さん、おこし、ちゃった?』

 

『そりゃ起きるよ、といってもだいたい起きてたんだけど』

 

『ごめん、なさい』

 

『しっぽ遊びも大事な戦闘訓練だからね、狩りがうまくなるためにいっぱい遊んでいいんだよ』

 

 

 しっぽ遊びは母親がよくやるものだが、子が多ければ遊びたがりが多すぎて母親の寝る暇がなくなる。

 たっぷり遊ばないと狩りのセンスも、体力も育たない。

 子供は遊ぶのが仕事なのである。


 タンビが寄ってきて僕のいる雑草溜まりに寝転ぶ。

 そんなに広いスペースじゃないからぎゅうぎゅう詰めになってしまう。

 もっとあっちいけ、とばかりに足で押し出すとまた寄ってくる。

 

 背中をふみふみして落ち着かれる。

 僕の背中は寝床じゃないってーの。

 がぶりと甘噛みして軽く叱る、からの毛繕けづくろいで跳ねてるアホ毛を整えてあげる。

 しばらくそうしていると、お互い疲れてぐったりする。

 

 もう一眠りできそうだ。

 ねむりの海にたゆたいながら今日のマダラオオカミ襲撃を思い出す。

 運良く倒せて、いい獲物になったけどひとつ間違えば誰かが大怪我していた可能性もある。


 今日はエリーがいたからマダラオオカミに勝てたけどエリーと僕の両方がいなくても連携すれば倒せるぐらいにはならないとなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る