第2章 第2話 野外大収穫

  商人たちの朝は早い。

 

 街にやってくる商隊は日の出のタイミングで到着する。

 買い手の需要に合わせてあきないをするためである。


 それはつまり、門衛の仕事が忙しいのは昼までということだ。

 交代で昼食に入り、午後はたまにくる旅人を通すぐらいである。

 それ以外は勤務が終わるまでひたすら番人として立つ。

 

 

「……暇だ」

 

「ニャ~」

 

「ん? ベリアんとこの猫じゃねえか……ファッ!?」

 

「ウニャ~」「なぅ~」「ミャオン」「ニャウ」「……」

 

「び、びっくりした。

 廃屋はいおくの所にいる痩せ猫たちじゃないか、いったいなんなんだ」

 

 

 門衛も たま の猫らしからぬ挙動は慣れたが、猫の一団が挨拶をするように鳴きかけてくるのには驚いた。

 飢えた野良猫の侵入は防ぐべきである。

 だが飢えていても出ていくのを止める必要はない。

 そもそも街中に住み着いた猫が出ていくことは殆どなかった。

 

 そう、たま 以外は。

 

 

_/_/_/_/_/

 

『ここいらなら適度に安全かな。

 獲物もたくさんいるし』

 

『へ? 獲物見当たらないぞ?』

 

『そうね、兎穴みたいなのも無いし』

 

『街中だと情報限られてくるからしょうがないかな。

 じゃあとりあえず腹ごしらえしておく?』


 不自然に盛り上がった草の根本の土をふみふみし数歩離れた穴に首を突っ込む。

 捉えた土竜もぐらをタンビとタンビママの所へ放り投げる。

 乾いた地面に隠れるスナオオトカゲを捉えては放り投げる。

 土をほって身を隠す土鼠つちねずみは狩りやすいし数も多い。

 

 集まった猫の数だけ狩ってから、ひとやすみする。

 食べながら狩った獲物の見つけかた、狩り方を教える。

 実際にやらせて覚えられればこまることはなくなるだろう。


 あと問題は……

 

 

『宿屋で話聞いて来てみれば、ずいぶん楽しそうじゃない」

 

 

 考え込んでいるところに突然エリーが来た。

 最初の印象は毛並みのいい美猫びびょうって感じだったけど、身のこなしや勝負感で今ならよくわかる。

 エリーはめっちゃ狩り好きなおてんばだ。

 

 

土鼠つちねずみは隠れてばかりで好きじゃないわね。

 やっぱり逃げ惑ってるのを爪でいじめて裏をかいて向かってきたのに止めを刺すのが最高に気持ちいいのよ』

 

 

 わかる。

 他の皆もうんうんとうなづく。

 

 

『ところで たま。

 野外で狩りはいいけど、まじゅう? は大丈夫なの?」

 

『まじゅうの気配は意識を張っていればすぐ分かる。

 いつもと違う嫌な感じがしたら戻ればいいよ』

 

 

 まじゅうは見つかる前に逃げれば問題ない。

 問題なのはふつうのけもの。

 

 

 猫はコツさえつかめれば獲物をいくらでもさがせる。

 感覚のにぶいやつらは食べる物にこまるんだ。

 

 [こまったけもの]はこまってないけものよりも弱い。

 まじゅうよりも、まものよりもよわい。

 でも戦い方を間違えると危険でもある。

  


『じめんに隠れる獲物は、じめんの気配を探れば見つかる。

 自分の気配を消してじめんに意識をむけるんだ』

 

 順番に狩りをやってもらい訓練する。

 程度の差こそあれみんな問題なく狩りができるようになっていく。

 そりゃ同じ猫だからね、みんなに出来ないわけがない。

 


「グルルル グガァッ!!」

 

 草原の広場の向かい、奥にあった背の高い雑草から唐突にマダラオオカミが現れた。

 マダラオオカミは群れで狩りをする。

 こいつは一匹、つまり群れから追い出されただ。

 

 弱肉強食けもののおきてで落ちこぼれたやつはそれまでの狩りができなくなる。

 飢えてしぬか、一匹で狩れる新しい獲物を探すしか無い。

 マダラオオカミは普通の猫の倍は大きい。

 

 身体が小さく痩せた猫ばかりなら狩れる、そう思ったのだろう。

 狩りをしている猫に襲いかかるため走り出した。

 僕は焦ってダッシュするが、距離が遠すぎた。

 最初の攻撃を防ぐことはできそうにない。

 

 

「ミギャー!」

 

 

 猫の動きで見たことのない、横に跳ねていきおいをつけジャンプしたエリーがマダラオオカミに飛び乗る。

 狙ったかのように頭に張り付き、はなっつらに噛み付く。

 

 

「ギャイン!!」


 マダラオオカミはたまらずエリーを引き剥がそうと顔に前足をこすりつけようとして横倒しになる。

 その瞬間、勝利のポーズのようにエリーが右手を上げた。


 

『いまよ! 全員どこでもいいから思いっきり噛み付いて引き裂きなさい!!』 

 

 僕は見た。

 その右手の爪は遊びでも威嚇いかくでもない本気の爪だ。

 その右手はマダラオオカミの目に振り下ろされた。

 

 いたがらせて追っ払おうなんてみじんも考えていない。

 ダメージを負わせて倒す戦い方だった。

 エリーこわい。

 

 僕はマダラオオカミの左足に噛みつき、掘ってももけんを切る。

 これでまともに戦う事も逃げる事もできない。

 コイツはもうおしまいだ。

 

 皆が前足後ろ足、思い思いに取り付き身動きしなくなったところを見計らってエリーが喉笛に噛みつき引きちぎる。


 

『とったわよー!』

 

「ニャー!」「にゃお~ん」

 

 今日は訓練で、狩りの収穫だけであとはせつめいで済ませようと思ってたら実戦で集団連携まですることになるとは……。

 エリーのおかげだ。

 

 ともあれ、最初の狩りは大収穫で終わった。

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