第2話 電車通学は大騒ぎ、中編

「どうしよう……今日は家をギリギリに出て来たから余裕が無いわ。恥ずかしいけど、アレをやるしかないかも」


 田町ミカは、頭の中でホームルームが始まる時間と場所(目的の駅)を思い返して全力で考えました。ホームルームに遅刻しないために、現時点で考えられる最高の選択肢は何だろう?


 普段ならば時間に余裕を持って出て来るのでその選択肢の中から選べばいいのです。しかし今日はその余裕さえも無い状況でした。


 彼女は自分に残された唯一の方法に思い至って、ほんの一瞬だけ躊躇しました。しかしコレしか無いと諦めると数回深呼吸をしてから……


 ミドリ色のプリーツスカートがめくれ上がる事も無視して駅のホームを全力で走り出しました。


「ごめんなさい通りまーすっ!退いてください通りまーす」


 ***


 山手学園を建学する事が世間に公表された時、世間は大騒ぎになりました。だって山手線の朝のラッシュ時間にさらに学生が増えるのですもの。これ以上混雑に拍車をかけるような事をするべきではない!そういう論調が世間やSNSで巻き起こってしまいました。


 そこで鉄道会社は考えたのです、山手学園の生徒専用の車両を山手線を走る車両の一番最後に付けるという事を。こうすれば、電車の混雑度が増す事はありませんし、一番最後の車両のさらに後ろなので駅のホームを使う一般の乗客にも迷惑をかけないからです。


 それに、どうせ教室は駅のホームの一番端に作る予定でしたので、乗客に取っても生徒に取っても良い事ずくめのはずでした。ところが人生なかなか思ったようには行きませんね。当初の想定を超える事が起こってしまったのです。


 それは……『寝過ごし』です。


 皆様も経験あると思います。電車のイスに腰掛けて、揺れる振動に身を任せていると。あーら不思議、両方のまぶたが段々と重くなって来るのです。ほんの一瞬だけ目を閉じたつもりなのに、目を開けてみると降りるべき駅はとうの昔に過ぎているのです。


 ***


 全力ダッシュをした瞬間に、田町ミカは恐ろしい事に気が付きました。


「ヤバッ!パンツ履いて無い」


 しかし、もう全力ダッシュを止める事は出来ません。あと15秒後に到着して30秒の乗り換え時間の後に出発する山手線外回りの電車に乗り換えなければ、今日は確実に遅刻です。それが彼女に残された唯一の選択肢だったのです。


「ごめんなさい!通りまーす」


 駅のホームの一番端から、内回りから外回りのホームに乗り換えるための階段まで全力疾走です。


「どうしよう、このままじゃあ階段の上がり口で下からのぞかれちゃう!」


 既に内回りのホームをプリーツスカートがまくれるのも顧みずに全力で走っているので、同じホームにいる人達にはスカートの中は丸見えです。


 ホームでボンヤリと次の内回りを待っていたおじさんや男子高校生達は、突然の女神降臨で大混乱です。ついさっきまでみんな下を向いてスマホの青白い光を浴びながらゲームをしていたのに、今ではみんな彼女のスカートめがけてスマホを向けています。


 田町ミカは、持っていたリュックをお尻の後ろに置いてスカートの中身を隠しながらペースを落として階段を登ります。


「どうしよう!もうコレでカッコいい彼氏が出来ないかも?ああ、アタシの人生チョー灰色」


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