私立山手学園女子部

ぬまちゃん

第1話 電車通学は大騒ぎ、前編

「キャァ〜ン!大変、寝過ごしちゃった」

 垂らしたヨダレがグリーンベースにシルバーのチェックが入ったプリーツスカートに落ちた事を気にする余裕もなく、私は足元に置いた学校指定のリュックを大急ぎで掴んでスーパ・ダッシュで、たった今閉まろうとしていた電車から飛びおりた。


 花も恥じらう17歳、田町ミカは、既に目的の駅から3つも乗り過ごしていた事に気がついたのです。


 ***


 彼女の通う山手学園やまのてがくえんは東京をグルリと囲んでいる山手線にあります。


 あれ?文章が間違っていませんか。山手線のどの駅にあるのか?でしょう。

 

 いえいえ、文章は間違っていません。山手学園はにあるのです。山手学園は、東京の洒落た場所の代名詞であるにある学校ではなく、山手線のにある学校なのです。


 山手線には、合計で29の駅があります。今度新駅が出来るので30駅になりますね。


 山手線を運航している鉄道会社は、中高一貫の学校を作ろうとしましたが、駅の近くにはまとまった土地がありませんでした。


 そこで、29駅のホームの中で空いている場所を教室にする事を思いついたのです。各学年4クラス、中高一貫で6学年、合計で24クラスの教室を確保するために、山手線の各駅に1つずつ教室を用意すれば、学校として十分な教室が用意できるのです。


 そして、東京、池袋、新宿、渋谷、品川の5つの大きな駅には、音楽室や理科室といった特別教室や体育館を用意する事で、無事に学校の認可を取ることが出来たのです。


 山手線には、電車の方向を表す『上り』とか『下り』という呼び名はありません。東京をぐるっと回る環状線なので、上りも下りも意味がないからです。環状線の外側を走る電車を外回り、内側を走る電車を内回りと呼んでいます。


 山手学園は、進学校なので男子部と女子部に分かれています。内回りの電車が入って来るホームに面した教室が全て女子専用です。逆に、外回りの電車が入って来るホームに面した教室が男子専用です。


 実は進学校と交通の便には深い関係があるのです。東京の私立女子御三家は、全て山手線の中にあるのは有名な話です。また、東大合格者数第一位を何十年も続けている私立男子高校が山手線の西日暮里にあるのはあまりに有名です。さらに私立の超名門男子高校も山手線の中の麻布にあります。山手学園も、それを目指して頑張っている学校なのです。


 女子部の場合、教室が内回りにあるので、彼女達は授業に応じて内回りの電車を乗り継いで移動する事になります。


 例えば、高校生の二年A組は、一時限目と二時限目は神田駅教室、三時限目は秋葉原駅教室、四時限目は日暮里駅教室。そしてお昼は池袋駅の学生食堂。午後の最初の授業は高田馬場駅教室で、最後の六時限目は新大久保駅教室、という感じです。


 そのために、生徒には時間割りと一緒に山手線の運転手が利用するダイアグラムという時刻表が渡されています。これは、駅の時刻表よりも細かくて、15秒単位で、電車の発着・到着の時間が記載されているのです。


 彼女たちは、自分の時間割りとダイアグラムを駆使して、毎日山手線の駅にある学校の教室の間を行き来しているのです。


 ***


 ところが田町ユミは、昨日おもしろいユーチューブを見すぎたおかげで、電車に乗ってからウトウトしてしまいました。そのために、今日の一時限目の授業に指定されている駅を通り過ぎてしまったのです。


 さあ、どうしましょうか?


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