第11話✵ヒカルとの再会✵
私に瑠璃と名付けた父はもう居ない、父はいつも私の味方だった。
母さんの小言から抜け出すとそこにはいつも優しい笑顔があった。
「父さんはルリに甘すぎる」
母さんはいつもそう言ってたっけ。
父さんと母さんは駆け落ちして一緒になった、旧家でお嬢様育ちの母親には親が決めた許婚がいて婚礼が近づく春の日に生まれ育った土地を離れて父親と暮らし始めた。
その思い出話を何度も聞いていた、そして駆け落ちした時には私は母親のお腹にいたそうだ、自分の親に堕胎を進められてたことで気持ちは決まったのだと言った。
「運命だったからね」と言う母親の言葉には強さがあった。
私が20歳のお祝いをした半年後に突然父親が他界した。
暫くは見ていられないほど憔悴していた母親も少しづつ自分の楽しみを増やしている。
「子ども達が幸せになってくれないと天国のお父さんも泣くわよ」
仏壇に父さんが好きだったコーヒーを供えながら母さんは口癖のように私たちに言う。
それはきっと自分に言い聞かせているのだろうと思う。
私は両親が大恋愛をして結婚をしたことでこの世に生を受けたことを誇りに思っている。
母さんは「ルリが私達を強くしてくれたのよ」といつも言ってくれるのだから。
寡黙なところなのか内に秘めた優しさなのだろうかは分からないけれどヒカルを見ていると父親を思い出す。
何かに没頭すると時間を忘れてしまう所やこだわりが強くて頑固なところまで似ていると思うのだ。
父さんはヒカルの事を知らないうちに逝ってしまったけれど、彼の事はきっと気に入ってくれたのではないかと思う。
私が愛した人を気に入らないはずがないのだから。
***
ヒカルが予定していた半年はもうすぐそこまで来ていた。
「9月12日の14時に帰国します、ルリに会いたい」そう小さく書かれた絵葉書が届いた。
その知らせを受けた私は嬉しくて樹里に電話をした。
「ルリよかったね、もう寂しくないね」
沈んでることが多くなっていた私をいつも励ましてくれた親友の言葉に涙が溢れて止まらなかった。
今年の夏は暑かった、夏は好きな季節だけど海水浴も花火も行かず休みはいつも部屋にこもっていた気がする。
嬉しさって寂しさの子どもなのだと思う、寂しい日々があったからこそこんなに嬉しいのだと思う。
ヒカルが帰国する。
大好きな人が私のところに帰ってくる。
その日は平日だったので仕事を休ませてもらい空港へと向かった。
小さくなっていく飛行機を見送った薄曇りの春の空とは違い雲ひとつない青空だ。
夏休みもすでに終わっているのでそれほど混雑もしていない空港のロビーでヒカルの乗る飛行機が到着するのを待っていた。
やがて、到着のアナウンスはながれ次々に人が溢れてきた
日焼けした顔にいつもの髭を生やしたヒカルを見つけ手を振った。
小走りに近づいた私をヒカルは大きく手を広げて抱きしめた。
「おかえり……ヒカル」
「ずっと1人にしてごめんな、髪の毛切ったんだ似合ってるよ」
人目もはばからずに泣き出した私の頭を撫でるヒカルの手があたたかった。
無くしていたピアスの片割れを思いがけないところで見つけた、そんな気がする再会だった。
嬉しさは寂しさの子どものようなものだけど、悲しみは喜びのあとからやってくるのだと。
その時は気づかずにいた。
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