第2話 君編

君が苛立いらだちを散らせつけながら、病棟びょうとうとびらを開けようとするのを見ると、私は浮気調査するべく密偵みってい行為をする探偵のように、君の事を無く、病棟内をうろうろ歩き回り、情報収集に努めた。雑談に華を咲かせるおばさん達の群れが、“君”の事をペチャクチャ明かしてくれた。看護師は皆一様に、“患者の個人情報”だから、と教えられない、口を閉ざすのに。おばさん達から、君は結愛ゆめちゃんと呼ばれているという事。腎臓じんぞう病をわずらい、人口透析とうせき治療を週3~4回受けており、1日におよそ4~5時間前後透析治療を受けている事。また、今日はたまたま透析治療を受ける日で、私の酸素ボンベ事件(アラームがうるさい)の起きた時が、君がこれから受ける長い透析治療を始める前の最期の一時ひとときに近いものであり、気持ちが高ぶっていて、刺激してしまって、不機嫌にさせたらしい。という事を掴んだ。


君が人口透析治療を受ける間、私は“ジョ〇の奇妙な冒険”や“ONE P〇ECE”等、親にあらかじめ入院前からリクエストしておいた、家から持ってきてもらった漫画や小説を読みふけりながら、君の欠けた病棟内を過ごすのに、精を出した。私の身体が丈夫ではない事を指し示すかのように、少し読書に励むだけで、滝のような脂汗あぶらあせをかいた。息苦しさと共に、景色がぼやけていく。視界が急速に縮んでいく。足元に床がある事すらわからなくなり、感覚が鈍くなっていく。そう....。酸素ボンベの中身が尽きていたのだ。なのに、アラームが鳴らなかった。アラームのし忘れ(?)、アラームの故障(?)。原因不明で、“やれやれ”とんだ災難だった。


夜10時頃、君は夜遅くに私の居る病棟に戻るのを、私は、今日起きた発作の疲れもあり、深く寝入っていた為、気づく事はなかった。


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