私は君と生きる《医療恋愛小説》

西島じお

1章 私と君

第1話 私と君の出会い

君が前にしたい事。私は君の心が欲しい。君と情熱的な恋がしたい。君のか細い声を私は胸に留めたい。なのに...。君は私の目の前で


君との出会いは、櫻田さくらだ病院の開放病棟びょうとうの廊下をすれ違う事から始まった。何人もの病人の同居どうきょする病棟の中において、うら若き女性は数人いたが、その中で君は、一際ひときわ異彩いさいを放っていた。愛くるしいクリリンとしたつぶらな瞳、白い肌、プックリと膨らみのある唇。どの魅力も主張し過ぎず、それらが相互に魅力を見出だすかのように相乗そうじょう的に作用していた。


私は亀田良樹よしき。私は肺を病んでいた。その為に、空咳からぜきも酷く、私は、酸素ボンベを装着して生活する。酸素ボンベなしには私は生きられない。酸素ボンベの残存ざんぞんする酸素の量を示す数値が酸素の枯渇こかつを示す時、設定されたアラームが鳴る。たまたまアラームの鳴った時が、看護師がお昼の休憩を取る、看護師の少ない時間を少し過ぎた、私達患者がデイルームでくつろぎ出す13時30分~14時00分だった。デイルームには、新聞を広げて読む初老のおじさん、病院内の図書室で借りたであろう本を読む成人女性、談笑だんしょうするおばさん、お昼のつまらないTVを暇そうに見るおじさん達。その中に、君がいたんだ。君の沈黙を私の酸素ボンベのアラームが破る。君はこのアラームの音が嫌そうな視線を私の方に一瞥いちべつして送って、その場を後にした。


“ごめんなさい”私は真っ先に心の中で君の背中に謝った。看護師がアラームに気付き、500Lの酸素ボンベ、重さにして、5~8kg前後ある酸素ボンベを看護師が台車に載せて持ち運び、数人でくだと酸素ボンベを繋ぐ作業をした。君の背中に向けて、“待って”君の事をまだ私は知らないのに....。もう君とは永遠に出逢う事ができないような、まだ私も君も退院が決まらない為に、別れはまだ先なのに....。別れを名残惜しそうにする心地が私の胸をひしめいていた。これが“恋”らしい。君の事が頭を離れず、私は酸素ボンベをガラゴロ引いて移動しながら、君の事をキョロキョロ探しては、視線を君に向けるようになっていた。

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