ⅩⅥ

「結局一緒に見る事は無かったなぁ」


 あの時に小さく願った小さな思いは報われる事なく、桜と一緒に散っていくんだろう。その時には、この好きだという思いも消えて無くなってればいい。相手の行動に気持ちを乱されてる自分とはもうサヨウナラしよう。


「よし、集中っ」


 伸びをして、重たい一歩を動かして前へと踏み出した。



---



 ミーティングが終わったのは結局定時の時間を回りかけていた。営業先から外に出ると辺りは薄暗くて夕日が濃い山吹色に変わり、空全体の色を染めている。


(会社に帰ったら真っ暗だな。というか、今思うと佐竹君に結局ちゃんとお別れすら言えなかった。連絡だけでも入れとこう…)


 それはあくまで上司として。


 さっきのミーティング中は隣にいない佐竹君の事を全く考えなかったのに、業務が終わるとこのザマだ。どれだけ彼の事を気にしているのか自分でも呆れて笑ってしまう。


 カバンからマナーモードにしていた携帯を取り出す。

 電源を入れ、画面に映し出されて真っ先に目に入ったのは、佐竹八生の四文字だった。


 仕事で何かあったのか、もし緊急だったらどうしよう…。すぐに連絡を取れなかった事を悔みながらも届いているメッセージを開く。



『お疲れ様です。デスクワーク中に小野井さんしか分からない事があって、ミーティングから帰ってこられるの待ってますんでお願いします。忙しい中、すみません』



 心の中で安心した。仕事で大きな問題が起こってない事に。そして、後は散るだけだと構えていた気持ちが彼からのメッセージで弾みだす。

 まだ、散る事なく空を舞っても良いんだと許されたようで、会社へ向かう為の足取りが軽くなった。




 会いたい。

 この欲望は自分だけの物だから求めさせて欲しい。



 早く貴方に会いたい。

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