ⅩⅦ

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 会社に着いてロビーを通る。

 受付に挨拶も儘ならない程、頭の中の到着点は彼だった。


 日が落ちると涼しいはずの外も、今の俺には暑くて途中で上着を取り払ってしまっていた。


 エレベーターのボタンを押す。

 二機並ぶ内のどちらが早いか、光る数字を見比べてじっと降りてくるまで見続ける。


(早く、早く…)


 自分が佐竹君に会いたいからだけなのか、それとも相手が俺を待っていると分かっているからなのか、なぜここまで急いでるかは分からない。


 それでも相手が彼だからというのは分かる。

 俺の為に、彼がそこに居る。

 それだけが俺をここまで動かしたんだ。


 エレベーターが一階に着いた音が鳴る。

 扉が開いて中に誰もいないと確認すると直ぐに乗り込んで目的の階のボタンを押した。扉を閉める為のボタンを押すのも、一回でいいのに何度か押してしまいたくなる。


 身体が熱い。

 鼓動の高鳴りが止まる事を知らないどころか、更に大きく脈打っている。周りや自分もどうでも良くなって、ただ佐竹君に会いたいと、その欲望だけに必死になる。


 再度、エレベーターの音が鳴る。それは、到着を知らせる合図。

 普段は気にしない扉の開くスピードが遅く感じる。


 ゆっくりと開き切った扉を抜けて見慣れたワークスペースへと踏み入る。



 コツ…コツ…コツ…


 不規則に乱れた息を整えながら、足を進める。

 走りたい衝動は社内の空気で抑えられた。もし彼以外の誰かがいたら不思議に思われるだろうし、彼にも変な目でもう見て欲しくないからだ。


 ゆっくりとした足音が社内に響く。


 コツ…。


 自分のデスクの前に立って周りを見渡す。

そこには、もう誰も居ない。

 佐竹君のデスク周りも綺麗に片付けられていて、人がいる気配が無かった。



(…遅かった…か)



 持っているカバンとジャケットを椅子に置いて、俯いた。隠していた乱れている息をハーと吐き出して静かに整える。

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