ⅩⅤ
朝礼が終わると、何時も通りにそれぞれの業務が始まる。
まずは、朝礼前に俺のせいで出来なかった今日のスケジュールの確認をする。
営業に行く為に、連絡をしてアポを取らないといけない所があったので仕事と割り切りさっきの事を頭の隅に追いやって、佐竹君に声を掛ける。
「佐竹君。ここに前回言ってた件で確認取っておいてくれる?」
俺の声にピタッとパソコンをタイピングする指を止めて振り向く。
「分かりました」
何も変わらない何時もの返事をしてくれて少し安堵する。俺達は並んで仕事を続けた。
流れる空気は、少し霞んで重たい。
___
「じゃあ、行ってくるから後はよろしく」
今日の営業周りは元々俺一人で行く事になっていた。と言うのもお得意様とのランチミーティングの為、前々から人数が決まっていて予約も抑えていた。
つまり、一緒に営業に行くのも二人で昼休憩を過ごすのも昨日が本当に最後だったんだ。
きっと明日からは、佐竹君は異動して隣には居なくて、また一人で難なく仕事をこなす日々が始まるんだろう。この気持ちを伝える事無く、彼が気持ちよく仕事を続けれるよう最後までキチンと隠そう。
叶いっこない恋愛なんて誰も幸せになんてなれないんだから。
傷ついた傷を見えない様に守らないといけない。
これで、最後。
ロビーを抜けて会社の外に出る。駅に向かって歩みを進めて見上げる。眩しい日差しに負けず、目を凝らす。
そこは、立ち並ぶビルよりも低い桜の木が沢山立っていて、無数の花を目一杯に咲かせていた。
自分だけが置いて行かれたような。
咲けない花を持つ木になったかのように、何故だか虚無感を感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます