ⅩⅠ
「小野井さん次、何呑みます?」
俺の空いているグラスを指差して聞く。
「レモンサワー」
「じゃあ、僕も同じの貰います」
ニッコリ俺に微笑むと店員さんを呼んで、「レモンサワーを2つ。」と注文をしてくれた。
「小野井さんってお酒強いんですか?」
「強くはない。というか普段からあんまり呑まないんだよね」
ドキドキは止まらないまま、会話は進む。
平常心を保ちつつも内心は落ち着かなくてそわそわしてしまう。
「そうなんですね。僕も付き合いで呑む程度なんですけど…。今度二人で食事に行きません?」
「食事…」
(しかも二人で…)
これ、誘ってくれてるんだよね?
佐竹君から、俺が誘われてる?
そんな事があっていいのか、いや、あくまで先輩と後輩っていう立場だから普通ちゃ普通か。
鼓動を打つビートが早まる。
「イヤ、でした?」
俺から目を離さずに見つめる彼は不安そうに伺う。
「ちょっと…。ごめん。二人では…」
俺は彼の誘いを断った。これ以上二人の距離が近づくとやっと過ごせた楽しい時間を壊してしまいそうだった。俺はあくまで彼の研修担当の先輩でしかない。それ以外にはなれないんだから。
「そう…ですか…」
悲しそうに沈んだ彼を見て、心がズキンと痛む。そんなに悲しむなと言いたくても原因は俺で、何も言葉が出なかった…。
そこからは無言の時間が続いた。周りの温度は上がっていっているのに、二人の空間だけ静かにゆっくり時間が流れている。
届いたレモンサワーを呑むも頭の中は隣に居る彼の事で一杯で、味なんて全く感じられなかった。
(苦い…)
もっと近づきたい気持ちと駄目だと思う気持ちがぐるぐるぐるぐる回って、早くこの場が終わらないかと思うばかりだった。
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