Ⅹ
(気になる…)
今まで仕事の話が主で恋愛話なんてした事が無かった。というより避けていた。まぁ、男には脈ゼロなのなんて分かりきってる事だし恋愛事情を聞いたところで会話も盛り上がらない事なんて目に見えていたからだ。
「彼女は…今は居ないです」
佐竹君の言葉に心が安堵した。そこに俺が付け入る隙なんて無いものの居ない事で何故だか二人で過ごす時間にも罪悪感は無くなる。
(そっか、居ないんだ…)
「なら私が!」
「ちょっとー、抜け駆けしないで!」
「ねぇ、私はどう?」
彼に彼女が居ないと分かり、女子社員のアピールがヒートアップする。
「あ、あの、実は…!好きな人は居るんです…。なので、すみません」
周りの声を遮って、佐竹君は俺が今まで聞いた中で一番大きな声を出す。
(好きな人…。そりゃ居るよね)
いいな。その人…。
佐竹君から好きになってもらえるなんて、幸せだな。
俺なんて…。
「小野井さん。呑んでます?」
「…!!!」
いきなり声を掛けられて驚く。それよりも更に驚いたのは、その声の持ち主はさっきまで女子の輪の中心にいた佐竹君だったからだ。
「隣、失礼しますね」
俺の左隣りに座っていた同僚はいつの間にか居なくなっていて、そこに佐竹君が座る。
ドキドキと、心臓の鼓動がうるさい。
こんなに鳴っていたら本当に相手にまで聞こえてしまう。
「え、ぁ。よかったの?さっきまであの子達と話してたのに…」
「良いんです。話すというよりも質問攻めみたいな感じでしたから」
苦笑いしながら話を続ける。
「それより、小野井さんとこうやって呑みたかったんです」
ほら、また俺の心を動かす…。
『冗談だろ?』
あの時の映像が脳裏に流れる。
傷ついた胸の痛さ、涙が空気に触れた時の冷たさ、滲んでいった服の裾の重たさ、全部、全部鮮明に思い出せる。
もう、あんな思いはしたくない。
その為に、この器から溢れ出しそうな気持ちを抑えないといけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます