Ⅸ
「よし、今日の営業も終わりー。お疲れ様」
営業先から薄暗い空が広がる外へと出た俺達。
「小野井さんもお疲れ様です。そういえば…明日でこの研修も最後ですね」
そう、この短い研修期間には終わりがあるんだった…。
今は佐竹君とこうしてペアで行動しているけれど、研修が終われば上からの指示、あるいは本人からの希望で担当の部署が変わる事がある。
「俺は、このままがいいな…」
本音をボソッと呟いてしまう。
(…!しまった!)
「小野井さん…?何か言いました?」
焦って佐竹君を見ると、心配そうに俺の顔を覗こうとしていた。
(ち、近い…!)
接近する佐竹君の顔に驚いて少し後ずさる。
「い、いや!何でもない!この後は佐竹君達の歓迎会だよね?皆待たせちゃ悪いし早く本社に戻ろう…!」
一度本社に向かうため、駅へと足早に歩き出した。
(ダメ…ダメなんだよ。この気持ちは俺の中に留めないと…)
---
「「かんぱーい!!」」
夜、会社で予約していたお店に既存の社員と新入社員が集まった。特に席は決まっていなかったので、俺は佐竹君から少し遠のこうと、敢えて彼の座る場所から少し離れた所へ座った。
「佐竹さんー!連絡先教えてくださいよー!」
「えー!私にも私にも!」
「今度よければ遊びに行きません?」
流石の人気としか言いようがない程、周りを囲って座った女子社員達からの彼へのアピールは凄かった。本人は困った様子で助けを求めるかのように俺の方を少し見たけれど、悪いけど気づいていないフリをして俺はお酒を呑み続けた。
ただ、会話は気になるので聞く耳は立てて…。
「そういえば佐竹さんって今、彼女とかいるんですかー?」
「えっ…。彼女、ですか…?」
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