ⅩⅡ

 翌朝、ワンルームの部屋に目覚まし時計のアラーム音が響く。まだ朝は肌寒く、ベッドから出たくない気持ちに抗って重たい身体を起こす。


 手を伸ばしてアラームをオフにすると、立ち上がり直ぐにカーテンを開ける。薄暗い部屋から、一気に日差しの眩しい部屋へと明かりが変化した。



「あー。あんまり会いたくないな…」


 寝癖のついたままの髪の毛をガシガシと掻いて呟く。


 嘘。

 本音は会いたい。会いたくて仕方ない。

 もっと知りたい。貴方の事を。



 もう未来は分かってるんだ。

 振られるって分かってるのに告白するなんて、しかもこれからも会社で会う後輩なのに気まず過ぎる。



「少し時間をずらそう…」



 研修最後の日。

 俺は初めて会社を9時ギリギリに出社した。



---



「おはようございまーす」


 会社に着くと、人が大勢いて横切る人影も多くいつもと違う光景に少し驚いた。


「おはよ、小野井。今日は遅かったんだな。珍しい」


 同僚が声を掛けてきて、挨拶を返す。


「おは…。うん。昨日呑みすぎたかもなぁ…。」


 苦笑いして、自分のデスクに座ると珈琲の入ったマグカップが目に入った。


(淹れてくれてる…)


 一気に頬が緩んだのが分かった。 

 この犯人は佐竹君に決まってる。彼の顔を頭に浮かばせて、マグカップを手に取り珈琲を啜る。


 冷たい…。


 きっと何時も通り8時30分に来ると思って淹れたんだろう。それからすでに30分も経とうとしている。

 酸化して渋くて酸っぱい珈琲が舌に伝わる。喉を伝うその珈琲は心を冷ましてく。


「あれ?佐竹君は?」


 お礼を言おうとしても隣のデスクにも、周りを見渡しても何処にも彼の姿が見えない。

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