第28話 それぞれの課題4


夏休み2日目の昼。今日もエバ達はキッドの家のスタジオに集まっていた。



「それじゃあ今日も曲作り行ってくるね」


「はい! 気をつけて下さいね」


「あまり遅くなるんじゃないわよ」


「いってらー」



そう言い残し、エバはアランの元へと駆けて行った。



「ジャンジャカジャカジャカ!」


「アランおはよ! 今日もやってるね」


「あ! エバ兄ちゃん! 今日も一緒に歌ってくれるの?」


「もちろん! 」


「やったー! ありがとう」



エバは準備を進めてアランと路上ライブをしていた。



「あ! アランの奴またやってる」


「ねえねえ、なんか知らないお兄さんもいるよ」


「本当だ……」


「ちょっと行ってみようぜ」



(昨日の男の子達だ……本当に毎日からかいに来るんだ。)



エバは歌いながら少し顔を歪めた。



「おい! また今日もそんな下手くそギターやってんのか」


「やめちゃえ! どんなにやったって上手くなんてならないんだよ」


「生意気にヴォーカルまで付けちゃってさ」


「ヴォーカルのお兄さんも下手じゃん」



ゲラゲラ笑いながらアランとエバを馬鹿にしてくる男の子。 1人の男の子がエバを馬鹿にした瞬間。アランの手が止まる。



「……アラン?」



エバが心配そうにアランの顔を覗くと、目に涙をいっぱいに溜めて、拳が震えるほど固く握り締めていた。



「……今なんて言った」


「なに? 全然聞こえなーい」


「声小さいんだよ!」


「お前ら今エバ兄ちゃんになんて言ったんだよ!」


「うわ! アランが怒った」


「こわーい」


「エバお兄ちゃんに謝れよ! 自分がギター下手な事なんて分かってるよ! なのに、エバ兄ちゃんは初めて僕の事すごいって言ってくれたお兄ちゃんなんだよ! こんな僕と一緒にライブしてくれる大切なお兄ちゃんなんだ! 僕の事はいくら馬鹿にしてもかまわないけど、エバ兄ちゃんの事馬鹿にするのは絶対に許さないからな!」


「アラン……」


「何カッコつけてんだよ! 帰ろうぜみんな」


「フンっ!」


「ベーッだ!」


「怖い怖い」



男の子達はアラン達に捨て台詞を吐いて空き地を後にした。



「エバ兄ちゃんごめんね? 僕のせいであんな事言われて」


「俺は全然大丈夫だよ。 それよりアランは大丈夫かい?」


「全然大丈夫! こんなの屁でもないよ!」



目を真っ赤にして笑うアランを見てエバは堪えきれず涙を流してしまった。



「エバ兄ちゃん? なんで泣いてるの? あいつらのせいか! ほんとムカつくなー!」


「ギュッ……」


「エバ兄ちゃん?」



エバはアランを優しく抱きよせた。



「アラン。もう我慢しなくて良いよ? 俺が側に居てあげるから」



今のアランにはその一言だけで充分だった。



「うっ…うあああーん! ひっ、ひっぐ。 本当はまいにぢまいにぢ馬鹿にされて辛いよ!ただ、音楽が好きだからやってるだけなのに、なんで僕こんな目に合うんだよ! うわああん」



アランは今まで我慢してきた物を全て吐き出すかのように泣き叫んだ。



「アランはやっぱりすごいよ。どうしてそこまで頑張れるの?」


「グスン…。音楽が好きなのもあるけど、1番はママの為なんだ」


「ママの為?」


「うん……。ママ病気なの。毎日病院のベットの上で辛そうにしてるんだけど、ドレイクの歌を聴いてる時、特にスタークのギターを聴くとすごい元気になるの。ママを元気にしてくれるスタークを見て僕も音楽が大好きになったの。だから今度は僕がママを元気にさせてあげたいからギターを始めたの」


「アランはママの事大好きなんだね」


「うん! ママもパパも大好きだよ! エバ兄ちゃんも!」


「アラン……」


「エバ兄ちゃん顔すごい事になってるよ!プッ!」



涙なのか鼻水なのか分からない物で顔がグチャグチャになるぐらい泣いてしまったエバ。その顔を見てアランがたまらず吹き出してしまった。



「俺もね。音楽を始めたきっかけはスタークなんだよ?」


「えー!エバ兄ちゃんもなの?」


「うん! アランみたいなすごい理由じゃないけどね? スタークが初めて出たグラフェスを観て俺はスタークに憧れちゃったんだ」


「そうだったんだ! でも、エバ兄ちゃんギター弾いてないよね?」


「バンド組むときに流れでヴォーカルになっちゃったんだ! でも、スタークの真似ばかりしてるならギターは全然上手くないんだ……それに、ヴォーカルも自分の想いを伝えられるから楽しいんだよね」


「へぇー! 今度エバ兄ちゃんのギターも見てみたいな!」


「んー。恥ずかしいなー」


「えー。エバ兄ちゃんのケチ!」


「ごめんごめん! そろそろ今日は帰ろうか」


「そうだね! また明日も来てくれる?」


「もちろん!」


「やったー! じゃあまた明日ね!」


「また明日! 気をつけて帰りなよ」


「エバ兄ちゃんもね」



アランはとても嬉しそうに手を振りながら帰って行き、アランの姿が見えなくなってからエバもキッド達の元へと帰って行った。










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