『戦力外通告』

やましん(テンパー)

『戦力外通告』

 《* これは、フィクションです。この世とは関係ありません。》


     ********     ********      



 各自治体から、その住民に対して、『戦力外通告』が行われる制度が出来て、15年経った。


 ぼくは、ばんばん働いていたし、自信もあったし、自分の身にそのようなことが起こるのは、実際にあるとしても、はるかな先のことだと、たかをくくっていた。


 77歳になったら、もう通告は行われない。


 5年後には、これは80歳になる予定だったが。


 そこまで頑張れば、あとは年金が出る。


 それも、遠い未来のことだ。


 

 しかし、ある夜、残業帰りのぼくを、一台の大型バイクが襲った。


 なんの予告もなしに。


 ぼくは、病院に運ばれたが、脊椎損傷のうえ、脳にも少し障害が出て、動けない上に、言語障害が出た。


 とりあえず、症状が安定して、自宅に戻された直後に、州政府内の地元県庁から『戦力外通告』が来た。


 ぼくは、ひとりものである。


 両親は、すでに『戦力外通告』され、もうこの世にはいない。


 だめな親だと思った。


 この事態は、まったくの、想定外だった。


 『戦力外通告』されたら、道は限られている。


 移住を受け付けているどこかの市町村に潜り込むか、海外に出るか、あるいは、『終活院』に入院して、最後を迎えるかである。


 海外に出るには、この状態では、多額の資金が必要である。


 20年前の、『金の世界革命』以来、どこの国も閉鎖政策に転じた。


 金持ちと天才以外は、移住が困難になったのだ。 


 それは、革新的な兵器の開発があったからである。


 むかしの、北海道首相が開発した兵器が進化したものだ。


 しかし、彼女の意図とは違う方向に世の中は進んだ。


 強いものが勝つ。


 あたりまえの、方向だった。


 ぼくは、勝者のはずだった。


 しかし、それは終わった。



 さて、そこで、たとえば、農作業や肉体労働が可能な場合は、過疎地域の限界集落を抱える自治体や、労働者不足にあえぐ大都市から、『入村』を許される場合がある。


 しかし、こうなったら、誰が受け入れてくれるというのだろうか。


 ぼくは、病気やけがで仕事が出来なくなった社員や、効率の良くない社員を、ばんばん切ってきた。


 まあ、それが人事主任だったぼくの仕事でもあったし。


 切られた中高齢者の半分以上が、『戦力外通告』を受けたようだ。


 それは、ぼくの知ったことではなかったのだが・・・



 ようするに、立場が、逆転してしまったのだ。


 新しい人事主任は、ぼくに恨みがあった。


 いや、あったに違いない。


 昇進を、いつも邪魔してきたからだ。


 自治体政府に、意見書を出すにあたって、よいことが書かれる可能性はない。


 ぼくは、ダメだと確信しながら、いくつかの自治体に入植依頼を出した。


 案の定、みんな、却下された。


 そこで、あきらめたぼくは、地元『終活院』に、入所希望届を出し、すぐに受理された。



 『終活院』では、1か月間、最後に臨む心構えをするように、アドヴァイザーから教育を受ける。


 薬剤も使われたのだろう。


 ぼくは、最後の日に臨むにあたっては、心残りは無くなっていたのである。


 

 意識が遠くなってゆきながら、子供時代のことを、思い出していた。



   ************     ************



 気がついたら、ぼくは、知らない家の部屋の中に寝かされていた。


 ぽかん、としていると、初老の婦人がやって来た。


「お目覚めですか。もう、だいじょうぶですよ。それとも、あのままの方が良かったですか?」


「どうなったのですか?」


「ぎりぎりになって、あなたの移住を受け入れる決定が出ました。この村です。わたくしが、村長ですけれど。」


「ああ、あなたは、み、見覚え、ある。が・・・・」


 うまくは、話せない。


「よかった。8年前に、あなたにくびにされた、事務補助職員でした。家族で心中図りましたよ。夫は、病気で働けない状態でしたし、子供にも少し、しょうがいがあった。わたしだけ生き残り、罪を背負いながらも、この村の村長さんに救われました。少し迷いましたが、そんなには迷わなかった。でも、ぎりぎりになったのは、手続きがややこしかったから。」


「ぼ、ぼ、ぼんくに、復讐を?」


「はいー! もう、バンバン復讐しますよ。まずは、きびしい、リハビリです。ここには、仲間の陰謀で戦力外通告されたけど、実は有能なお医者様だった方もいます。そうでない普通の人もいる。苦しい状態の方も。びっくりするような方もね。まあ、まだ、数は少ないけど、必ずこの国の流れを変えますよ。あなた、手伝いなさい。」


「あ・・・・はい。」


 ぼくは、同意した。


 そんなに素直になったのは、久しぶりである。



  ************    🤕  ********** おしまい






















 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『戦力外通告』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る