『戦力外通告』
やましん(テンパー)
『戦力外通告』
《* これは、フィクションです。この世とは関係ありません。》
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各自治体から、その住民に対して、『戦力外通告』が行われる制度が出来て、15年経った。
ぼくは、ばんばん働いていたし、自信もあったし、自分の身にそのようなことが起こるのは、実際にあるとしても、はるかな先のことだと、たかをくくっていた。
77歳になったら、もう通告は行われない。
5年後には、これは80歳になる予定だったが。
そこまで頑張れば、あとは年金が出る。
それも、遠い未来のことだ。
しかし、ある夜、残業帰りのぼくを、一台の大型バイクが襲った。
なんの予告もなしに。
ぼくは、病院に運ばれたが、脊椎損傷のうえ、脳にも少し障害が出て、動けない上に、言語障害が出た。
とりあえず、症状が安定して、自宅に戻された直後に、州政府内の地元県庁から『戦力外通告』が来た。
ぼくは、ひとりものである。
両親は、すでに『戦力外通告』され、もうこの世にはいない。
だめな親だと思った。
この事態は、まったくの、想定外だった。
『戦力外通告』されたら、道は限られている。
移住を受け付けているどこかの市町村に潜り込むか、海外に出るか、あるいは、『終活院』に入院して、最後を迎えるかである。
海外に出るには、この状態では、多額の資金が必要である。
20年前の、『金の世界革命』以来、どこの国も閉鎖政策に転じた。
金持ちと天才以外は、移住が困難になったのだ。
それは、革新的な兵器の開発があったからである。
むかしの、北海道首相が開発した兵器が進化したものだ。
しかし、彼女の意図とは違う方向に世の中は進んだ。
強いものが勝つ。
あたりまえの、方向だった。
ぼくは、勝者のはずだった。
しかし、それは終わった。
さて、そこで、たとえば、農作業や肉体労働が可能な場合は、過疎地域の限界集落を抱える自治体や、労働者不足にあえぐ大都市から、『入村』を許される場合がある。
しかし、こうなったら、誰が受け入れてくれるというのだろうか。
ぼくは、病気やけがで仕事が出来なくなった社員や、効率の良くない社員を、ばんばん切ってきた。
まあ、それが人事主任だったぼくの仕事でもあったし。
切られた中高齢者の半分以上が、『戦力外通告』を受けたようだ。
それは、ぼくの知ったことではなかったのだが・・・
ようするに、立場が、逆転してしまったのだ。
新しい人事主任は、ぼくに恨みがあった。
いや、あったに違いない。
昇進を、いつも邪魔してきたからだ。
自治体政府に、意見書を出すにあたって、よいことが書かれる可能性はない。
ぼくは、ダメだと確信しながら、いくつかの自治体に入植依頼を出した。
案の定、みんな、却下された。
そこで、あきらめたぼくは、地元『終活院』に、入所希望届を出し、すぐに受理された。
『終活院』では、1か月間、最後に臨む心構えをするように、アドヴァイザーから教育を受ける。
薬剤も使われたのだろう。
ぼくは、最後の日に臨むにあたっては、心残りは無くなっていたのである。
意識が遠くなってゆきながら、子供時代のことを、思い出していた。
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気がついたら、ぼくは、知らない家の部屋の中に寝かされていた。
ぽかん、としていると、初老の婦人がやって来た。
「お目覚めですか。もう、だいじょうぶですよ。それとも、あのままの方が良かったですか?」
「どうなったのですか?」
「ぎりぎりになって、あなたの移住を受け入れる決定が出ました。この村です。わたくしが、村長ですけれど。」
「ああ、あなたは、み、見覚え、ある。が・・・・」
うまくは、話せない。
「よかった。8年前に、あなたにくびにされた、事務補助職員でした。家族で心中図りましたよ。夫は、病気で働けない状態でしたし、子供にも少し、しょうがいがあった。わたしだけ生き残り、罪を背負いながらも、この村の村長さんに救われました。少し迷いましたが、そんなには迷わなかった。でも、ぎりぎりになったのは、手続きがややこしかったから。」
「ぼ、ぼ、ぼんくに、復讐を?」
「はいー! もう、バンバン復讐しますよ。まずは、きびしい、リハビリです。ここには、仲間の陰謀で戦力外通告されたけど、実は有能なお医者様だった方もいます。そうでない普通の人もいる。苦しい状態の方も。びっくりするような方もね。まあ、まだ、数は少ないけど、必ずこの国の流れを変えますよ。あなた、手伝いなさい。」
「あ・・・・はい。」
ぼくは、同意した。
そんなに素直になったのは、久しぶりである。
************ 🤕 ********** おしまい
『戦力外通告』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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