満願
深川夏眠
満願《無惨バージョン》
サキ伯母さんが訳あって知人の子供を預かったと聞いて会いに行った。伯母さんは結婚しないまま熟年に至った人だ。
居間に、小学校三、四年生くらいの、おとなしそうな男の子がきちんと正座していた。親戚でもない、下手をすれば少し若い祖母くらいの年のおばさんとの二人暮らしには馴染めないのか、 いかにも「ここは自分の居場所じゃない」という風情。
彼が眠ってしまった後、
「本当はどこの子なの?」
「神社にお百度参りをして、叶ったんだよ。向こうから連れてきて、って」
あれは昔の恋人の、伯母さんと出逢うずっと以前の少年時代の姿だという。当人にとっては未来へのタイムトラベル、家族にしてみれば神隠しの状態か。
「あたし、医者に余命宣告されちゃってさ」
延命を望むより、いつかあの世で彼と再会させてくださいと訴えるより、もっと粋な計らいを願ったら、こうなったと言う。
その時、彼が起き出してトイレに入ったのがわかった。寝室に戻りがてら、我々の前に顔を出して、
「『2001年宇宙の旅』って、まだ実現してなかったんだね」
数日後、再び伯母の家を訪ねたら、彼はいなかった。来たときと同じように、昔も今も変わらない神社の巨木の、子供が一人入れる程度の
駆けつけると、果たして彼は、そこにいた。気の毒に、帰還に失敗したらしく、物言わぬ
ニュースは「少年の身元は不明。履いていた靴は昭和××年頃に流行し、現在は生産されていないモデルのスニーカー」だと告げていた。
【了】
◆ 初出:パブー(2015年)退会済
*縦書き版は
Romancer『掌編 -Short Short Stories-』にて無料でお読みいただけます。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts
**穏当な〈円満バージョン〉はこちらです。
満願 深川夏眠 @fukagawanatsumi
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