第4話 事実確認
「ん……、んん……」
リサルフィーヌが意識を失ってから10分程度だろうか、ようやく意識を戻した彼女はまたしてもかけられていた毛布に気付いた。
意識が戻ってから、先ほど告げられたあまりにもな宣告がまた頭の中で反響する
『ここは恐らく、君が住んでいた世界じゃない』
『その連合軍ってのに連絡する手段も……、無いと思う』
なにをバカな事を、と。おとぎばなしではあるまいし、と思った。
しかし、壁一面に張られている摩訶不思議な物が書かれた、とても精密な絵や室内に置いてある用途不明な数々の品。全く仕組みが理解できない光源など全く目にした事の無い物が山のようにまわり無造作に置いてある。
この部屋自体は一般的な家とそう差異は無いが、床一面に草が固く編まれた絨毯だろうか? 全くわからない文化がある。
そしてニホンという国、聞いたことが無い。
私たちが住んでいた大陸の他に目立った大陸は無く、せいぜいとても大きな島程度の物が無数にあるだけだと聞いている。
ならばこれほどまでに摩訶不思議な発展を遂げるであろうか? 答えは否だ。
実際目にした訳ではないから他に大陸があってそこが発展したという可能性はある。しかしそれならば少なくとも戦争、あるいは海を渡り取引をしたりなど少なからず接触はあるはずだ。私たちの大陸の技術ですらあまり危険無く海を渡る事はできる。ならばそれ以上に発展した文明ならば必ず接触してくるはずだ。
そして彼が言っていたアメリアだのオーリアだのヨーピアなんてのは、多分国名の事であろう。誰もが知っているはずの国名、それを知らぬ異邦の民。もしかしたら本当に世界を渡って来てしまったのかもしれない。
さらには彼が言っていたエルフという種族は居ない。という言葉。
エルフ族は大昔から容姿端麗でありとても清らかで長生きをする。そしていつの時代も下衆が考える事は一緒で迫害を受けてきた。
ならば私はこの世界で唯一のエルフとなる。そうなればもしかしたら捕まってしまうかもしれない。
そうなる前にどうにかして転――
「目は覚めた?」
起きてからとても険しい顔で悩んでいた彼女に声をかける。またしてもいきなり話しかけたせいかとてもビックリされてしまった。
作っておいたホットミルクをテーブルの上に置いて彼女を見る。なんだかまた青ざめた顔をして毛布で体を隠しながら後ずさっていく。
やはり蛮行に及ぶんじゃないかと思っているのかな……。
「とりあえず、詳しく話を聞かせてくれないか。君の疑問にも全て知っている限り話すよ。そして俺は君に野蛮な振る舞いをする気は無い。ホットミルクを作ったから良かったら飲んで。毒なんて入って無いから」
一息で言った後、なにも入って無い事をアピールするために先に自分の分を飲んだ。
毛布を体に巻きつけたまま、彼女はゆっくりとテーブルに近づいてくる。目からは涙がこぼれていた。
ゆっくりとホットミルクの入ったマグカップに手を添えると、とても小さな声で話し出した。
「……本当にここは違う世界なのですか」
否定してくれ、と言外に言われているような気がした。彼女なりにこの部屋を見て思う所があったのだろう。その言葉に力は無かった。
「きっとそうだと思う……。この世界は人間しかいない。魔術が使えると言ったら頭がおかしくなったのかと心配されるような世界だよ。憶測にはなってしまうけど、もしかしたら君の世界ではほとんどすべての人が魔術を使えるんじゃない?」
「……はい」
唇を固く結び、強く握った手を震わせながら俯いている。顔は良く見えないが、俯いた顔から涙が零れ落ち畳にシミを作っていた。本当にここが異世界なんだと認識したのだろう。
「これ……、良かったら使って」
とハンカチを渡す。滅多に使わないので洗濯したまま仕舞ってあるから綺麗なはずだ。
彼女は涙や悲しみでぐしゃぐしゃの顔を上げると、申し訳なさそうにハンカチを受け取り涙を拭いた。しかし止まる事無く流れている涙を拭ききる事は出来ず、そのままハンカチを顔に当て嗚咽をしながら泣いていた。
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