英雄の戦場地 シュラハン
新都ドゥゴ・ゲデス
コロシアムへ
シュラハン地域を束ねるプデレール王朝が衰退し戦国の世となってから150年余り、戦士たちの戦いは美化された伝説として語り継がれ娯楽に昇華された。コロシアムで勝利せし者は貴賤を問わず英雄となれる。そのために命を賭ける者たちを、見て楽しむ者や金を賭けて儲ける者、それらが集まり闘士たちの戦いを盛り上げる。命の危険をかえりみず英雄に憧れる者はあとを絶たず、国や地域を越えてやってくる。そんな戦士がまた1人新都ドゥゴ・ゲデスにやって来た。
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スーチェは主門通りに沿って露店の立ち並ぶ市場を歩きながらその先に山のように佇む巨大なドーム状のコロシアムに目を奪われました。そして、今は戦火に焼かれた故郷と家族、さらに孤児の自分を拾い一人前の戦士に育ててくれた師匠を思い決意を新たにしました。
(お師様。お師様の教えてくれた武士道を広める事がお師様の願いでしたよね。こんな方法をお認めになるかわかりませんが、私はきっとお師様とお師様の武士道の素晴らしさを世に広めて見せま‥‥‥)
あっ、と声をあげてスーチェは地面に尻もちをつきました。考え事に夢中で人とぶつかってしまったのです。相手は怖そうな大男で怖い目付きで怒鳴りました。
「どこ見て歩いてるんだ、小僧」
「す、すみまえん」
スーチェは緊張して舌を噛んでしまいました。大男は去りましたが見ていた人の中にはクスクスと笑う人もいました。スーチェは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらコロシアムに向かいました。
頬をパチパチと叩いて気を取り直すと深呼吸して気合いを入れ直しコロシアムの受付に行きました。ところがコロシアムの参加証が見当たりません。それは都市に入るとき関所で受付して貰ったものです。スーチェはどこかで落としたのかと慌てて来た道を引き返しました。地面を見ながら歩いて行くのであちこちで人にぶつかり何度も謝りました。そして、主門通りで怖い大男とぶつかった場所に着きました。
きっとここに違いないと思い辺りを探しているとあの大男の怒鳴り声が聞こえてきました。しかし、スーチェは気にせず地面を這うようにして参加証を探していました。すると、露店の品物台の下から女の子がひとり這うようにして出てくるとつまづいて転んでしまい、スーチェのあたまにあたまをぶつけてしまいました。
「にっ!?」
「いたっ!?あっ、いや、ごめんなさい」
スーチェはあたまを押さえながら「にっ」てなんだろうと思いぶつかった女の子を見てみました。あぁ、それはなんとキリンデだったのです。今度はどんな悪さをして逃げているさいちゅうだったのでしょうか。
「あの、君、大丈夫ですか?」
キリンデはあたまを押さえて涙目でした。
「大丈夫に。わたし石頭に。だから、大丈夫に。痛いけど大丈夫に」
(つよいなぁ。泣かないなんてえらい子です)
スーチェが感心しているとキリンデは転んだ拍子に懐から落とした物を拾いはじめました。食いかけのリンゴ、丸っこい木彫り人形、少しばかりの銅銭がこぼれた銭袋、装飾された木の割符‥‥‥‥。
「あっ!その割符、ちょっと見せて」
スーチェが割符を取ろうとしたのでキリンデは背を向けて渡すまいとしました。
「何をするに、これはわたしのものに、こんな高価な物をタダで渡せないに」
キリンデはスーチェに背を向けたことで露店の影から出てきた怖い大男に気づき仰天しました。スーチェはまだ気づいていません。
「その割符は私のかも知れないんです。良い子だからどうか見せて」
しかし、キリンデはなぜか銭袋をスーチェの手のひらに置くと一目散に逃げ去りました。
スーチェがポカンとしている内にすぐそばまで怖い大男が来ていてその銭袋を取り上げ、さらにスーチェの胸ぐらを掴んで持ち上げました。
「またお前か!あの小娘とグルだったのか。他にも何か盗んだな。だせ、だせ、だせ!」
そう怒鳴りながら揺するのでスーチェはたまらず合気の術を使って大男の手をほどくとすねを蹴って怯んでいるスキにキリンデの逃げ去った方へ走り出しました。
「よくわからないけど、ごめんなさい」
「待てぇ、泥棒!」
(一体何が起こった、私が泥棒?)
「とにかくあの子を見つけないと、あの割符を取り戻さないと」
キリンデが持っていた割符はコロシアムの参加証だったのです。
キリンデー八百万ルーテー 夕浦 ミラ @ramira
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