キリンデー八百万ルーテー
夕浦 ミラ
雑話
無一文飯探求
きゅるきゅるきゅる~っとお腹を鳴らして地面にへたり込んで、キリンデは呻いています。口癖の語尾に「に」を付けながら。
「うぅぅ、ひもじいに‥‥‥」
キリンデの赤い外套のフードに入っている木人形のスコーロがキリンデに声をかけて慰めています。
「うぅぅ、スコーッちゃん、何かないのかに?食べ物じゃなくても食べれる物でいいからに」
「そんなこと言っても木の実も葉っぱも残りのお金だってキリンデが全部食べちゃったでしょ」
「ここの街中には雑草すら生えてないに‥」
キリンデはいっそう落ち込んで、しかしすぐに苦しみや悲しみを叫びにかえました。
「ひもじい!ひもじい!ひもじいに!わたしを追い出したお父様が憎いに!こんな道ばたに行き倒れた可哀想な子になっているなんて夢にも思っていないはずに!だってあのとき「お前の食い意地なら食うに困らないだろ」とか言っていたに。今のわたしを知ればきっと悲しむに‥。お腹を空かしたわたしを見て飴ちゃんをくれなかったおじさんはいなかったほどに。そろそろ現れてもいい頃に」
チラチラと辺りを見回すキリンデ。まだ昼過ぎなのに街の大通りを行き交う人々は少なく、荷物を運ぶ馬車や荷車を曳く人以外では女性や子供とお年寄りしかいません。みんな足早で誰もキリンデを気にとめません。
「ねぇ、キリンデ。街道で会った人が戦が近いって言っていたよね。もしかして、みんな忙しいんじゃないかな」
「だとしたら‥はっ、まずいに。もうすぐ食糧が無くなるのかもに。今のうちに食べとかなきゃに」
危機感が行動力となり、キリンデはしばらく食事場を探していましたがほどなくしてお金が無いことを思い出しました。ガックリと肩を落とすキリンデにスコーロがある場所を示しました。
「しょくあん?それって食べれるの?」
「いや食べれないけど、働いてお金を‥」
「なんと!わたしに働けというに!お腹空いてもう動けないのに」
「ごめんよ、キリンデ。でも、働くって言えば先に食べさせてくれるかもよ」
「はっ、そうだったに。働くって言っておけば、タダ飯食べれるに」
キリンデは急に元気が戻りスコーロの示した建物に駆けていきました。
建物の中はガラッとした飾り気の無い広い部屋で薄暗く、いくつかの机とそこに座る人と入り口に受付があるだけでした。キリンデは受付で無愛想に書類を整理しながらブツブツ呟いている男なのか女なのかわからない太った人に恐る恐る話しかけました。
「あ、あの、あの~に。わ、わたし働きますに。だからタダでご飯食べさせて欲しいなぁ
なんて‥‥」
受付の人は相変わらずブツブツ言いながら書類を整理していてキリンデを見もしません。
「聞こえなかったんじゃない?もっとハキハキ言わないと」
スコーロに言われて、キリンデは改めて身なりを正すと少し考えてから言いました。
「わ、わたし、お金ないの。だから、タダでご飯食べたいに」
(はっきり言い過ぎだよキリンデ‥)
すると、受付の人が面倒そうに机から乗り出してキリンデを見おろしました。ジロリと品定めするような目付きにキリンデは震えています。受付の人は椅子に戻ると偏屈なおばさんのような声で言いました。
「傭兵志望、1名追加ね」
キリンデはポカンと口を開けて驚きました。
「え、傭‥‥?ち、ちがうに!わたしご飯食べたいだけに」
「3番窓口ね」
そう言って受付の人があごをしゃくった方を見るとロウソクの火に照らされて3の文字のある机が見えました。そこに座る鎧を着けた戦士風の人も見えました。
「ッ‥‥!ち、ちがうに!わたし傭兵じゃないに。イヤに、凄腕傭兵になんてしないで欲しいに」
「この紙を持ってくんだよ」
と言って渡された書類には難しい言葉が書かれていてキリンデにはサッパリわかりませんが「私は傭兵に志願します」だけはわかりました。
「だからイヤに、話を聞くに!」
キリンデは紙を丸めてポイしました。
「もしかして、聞こえてないのかに?耳悪いに。さらに言うと頭悪いに。もう1つ言うと顔も悪いに‥」
最後の悪口は聞こえないように言ったつもりのキリンデでしたが受付の人が睨んできたので机の陰に隠れて目をつむりフードを被って頭を押さえ歯を食い縛りながら「ひいぃ、ぶたれるかもに。机あるけど、でもあの妖怪おばばはチョップで叩き割ってしまうかもしれないに」と思って、キリンデの神様に「ちがうに、ちがうに、わたしのせいじゃないに。わたしは悪い子じゃないはずに。たしかに食い逃げしたり食べ物盗ったりしたけど、でもそれはお金がなかったからに。あればそんなことしなかったはずに。その証拠に働くって言ったに。なのに、なのにあのおばばが‥‥」と懺悔しました。すると、受付の人が真面目に訊いてきたのでキリンデはちょっとホッとして顔を上げました。
「あんた、働くんだろう?」
「え?あ、そ、そうに」
「飯食いたいんだろう?」
「そうに、そうに」
「‥‥‥‥。じゃ、傭兵ね」
「だから、ちがうのに!もうイヤに‥」
キリンデはがっかりして床に手をついてうなだれてすすり泣いています。それを見て受付の人はため息をついて席を離れるとキリンデの書類を戦士風の人に渡したましたとさ。
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