【一章】第十八話

【ダンジョン5F】

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 出現モンスター…………トロール


 このフロアは、これまでの身体の小さな魔物と違って、体の大きなトロールが出現する


 

 フロアの作りは天井がそれまでの階層よりずっと高くなっていて、これ迄の土っぽいダンジョンとは違って巨大な岩が多く、3メートル程のトロールが物陰から突然襲ってくる事がよくある



「はあぁぁぁぁっ!」



一番先頭にいるミーコが敵を見つけるなり駆けだして、スキルを使いながらスパスパ切り落としていくと全然敵を倒せないビリケンが愚痴をこぼし始めた



「ちっミーコッ俺の分も残せってんだよ!」


「はぁ?私はブランクが有るんだからアンタが譲りなさいよ!」


「どう見ても絶好調じゃねーか!もう要らねえだろ!」


「じゃぁアンタが遅いのよっ病み上がりなんだから、オッさんは休んでたら良いんじゃない?」


「なっんっだっとっおおおお!」


「まぁまぁ……何でそんなに2人仲悪いの?」


ゲーム時代より犬猿に見える2人にモモがなだめようと声をかけるがまるで止まる様子がない



「ふんっオッさんがオッさんだからじゃない?」


「オッさんいうんじゃねえ!まだ29才だ!」


「あと1週間じゃない、もう30でいいじゃない、バッカみたい」

(あんなの、見せられたら……このままじゃ、本当にパーティから追い出されかねない………私は絶対ここから離れたくないのよっ)



「よーーーーーしっ!上等だっ!30才で、もお良いいやっ!その代わりセクハラとかもう一切気にしないからなっ!親父舐めんなよ!」



 今までと何が違うのか全く分からないが、ビリケンは凄い気迫だった、だがミーコは全く怯まず正論で返す


「はぁ?それ何時もと何が違うのよ?バーカッ!バーーーーーーカッ!」


 ……見た目、綺麗なお姉さんが罵倒のおまけ付きで


「こっこっこのやっろお……」

 プチとなったビリケンが完全に周囲への注意を見失った時、4人の内の誰の目にも入らない死角から一匹の巨大なトロールがビリケンに大きな棍棒を振り下ろした



「「ビッビリケンッ!」」



 ミーコもリギットも一早くそれに気がつく

完全に不意打ちでの巨体のトロールの一撃は危険すぎるが、ビリケンは反応できずに惚けて振り下ろされる棍棒を見ていた



「へっ?」



 振り下ろされる岩の塊りのような棍棒がビリケンを押し潰す……そんな瞬間だった



 パキン



 棍棒はビリケンに当たる直前に弾かれた



「え?…っ!ビリケン!さっさと動く」

「おっ?おおおっ!不・意・打・ちぃっ!」



 ビリケンの盗賊用戦闘スキル

 声に出してるのに敵は100%回避、物理防御不可の攻撃がトロールにヒットした


 低層階のトロールには充分過ぎる攻撃がヒットしトロールは崩れて行く


「今のは…モモレンか?」

 リキッドはその現象と音を知ってるが…パーティーメンバーにシールド付与なんて聞いた事無かったが、Sランクの奴隷は普通20階層以下で見かける事は殆どないので力の度合いもわからない



 他のメンバーにそんな能力は考えられない

 それは2人の様子を見れば明らかだ


「たっ多分……守らなきゃって…」


「モモッ凄いじゃない!」

 ミーコがソレを決めつけたように話しかけてくるとビリケンも面目無さそうに近寄ってきた


「いや…今の本気でヤバかった、ありがとうよ」



「今の…どうやったか分かるか?」

 指向性をもったシールド、この世界には魔法は有るが回復はアイテムに頼っている、如何にダメージを受けないように戦うかがダンジョン攻略の鍵になる、その意味でモモレンのシールドは有効過ぎた



「出来たらもう一度、ビリケンに掛けてみてくれ」


「うっうん…」


 一瞬だがモモレンの手が輝いた


「よし…ミーコ、ビリケンを殴れ、ビリケンは防御するな」


「分かったわ!」

「おっおいおい!」


 2人が元気よく返事し、

 ミーコは剣を鞘に納めるとブンブン振り回して


「てっ手加減しろおっ!」


「はぁぁあっあ”あ”っ!」

「ばっばかっ…ぎゃああああああっ!

 ズドンと悶絶必死のスラッシュが横薙ぎで動けないビリケンの腹にヒットする瞬間に障壁か現れ



 パキン



 ミーコの剣はビリケンの身体10センチ手前で弾かれた



「これが噂のシールド……すごーい…モモレン凄い!」

「ひぃぃ………ばっ馬鹿やろぉ……こっちは寿命が縮んだぞ……」



「もう一つ確認したい事がある…モモレン、今から寸止めで攻撃するから……目を閉じててくれるか?」


「え……うん」


 目蓋を下ろすモモレンの身体の腕に向かってライフルの銃身を、10センチの向こう側に向かって斜め上から振り下ろすと


 パキン


 モヤシ同様にオートシールドも顕在だった


「はぁぁぁ?勝手に守るなんて反則過ぎるだろ?」

「でも、回数に制限あるって聞いた事あるよ?」

「モモレン、もう目を開けていい、ミーコの言う通りだ、このスキルは回数制限があるんだ」


 モヤシと全く同じか分からないが知ってる事を説明していった


「じゃあ沢山使えばいいって事かな?」


「まぁ…でも、今はスキルの特性も分からないから、今日は無理する必要はないよ、5階の攻略が終わったら、一度王国に帰ろう」



「分かった、私頑張るねっ!」

 ムンっと可愛い拳を作るモモレン


「まずは服から買わないとねえ?」


「リキッドの男物の服じゃちょっとなあ?」


「キッド君の………ちゃっちゃんと洗って返しますんで!」


「わっ分かった…急がなくて良いから」



(あっという間にまた、元の4人の雰囲気に戻っていく…

 このパーティー意外で冒険するなんて考えられないな…)




 それからモモレンはなるべくミーコとビリケンにシールド付与を続けながらダンジョンを進めて行き、

 パーティーは呆気なく、ボスの広間に辿り着いた



 5階層の階層主は『エルダートロール』

緑色の雑魚も違って真っ黒で再生能力も持つタフなボス

前衛が注意を引いて、リキッドがとどめを刺すのがいつもの戦い方だったが、ナルミが居ない今のパーティーでは、イズミが替わりをこなす事になっていた、元々ナルミが来るまではイズミの役割でもあったから慣れる意味でも丁度いい



 現れたのは真っ白なユニークトロール

 7メートル程の普段の階層主より倍はデカイ



「なっなんでレアボスか?」

 予想と違う事態に、ブランクのあるミーコが慌てた


「落ち着けミーコっ!5階層から先は偶にあっただろうが!」


 ビリケンが誰より早くミーコに声をかけた


「……そうだった……やっぱりブランクは嫌ね…このくらいの階層なら……負けないっ!」



 落ち着きを取り戻したミーコがレアボスに向かって走りだし



 トロールのパワー、スピード、耐久力をビリケンが

「盗賊の秘儀っ!」


 攻撃する部位によって変わる状態異常で削ぎ落とし、

弱くなったレアボスをイズミが剣撃を重ねて注意を引いて行く



「シールド!守って!」



 巨体の割に素早い攻撃を普段なら避け切れない攻撃は防御するが、それをモモレンが要所要所で2人を守ってくれた



「2人とも下がれっ!」



 リキッドのため撃ちの準備が完了し、合図とともにビリケンとミーコが距離をとると、巨大な光の弾がトロールの大穴を開け、5階層での戦いは断末魔さえ上げさせること無く呆気なく終了した

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