【一章】第十五話
【地下1階層広場前】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ストップ…先に言っとく事がある」
スライムの残骸がダンジョンに吸収され、階層主の手前まで移動したパーティをリギットが2人に声を掛ける
一番前を歩いていたイズミ、その後ろを歩いてたビリケンが足を止めて振り返った
「ここで出てくるのは恐らくユニークだ、だから2人は広間に入ったら、奥に行かずに手前で待っていてくれ、俺が瞬殺するから」
「はっそんな簡単にレアボスなんか出る訳ねぇだろ?何言ってんだキッド」
誰も居ないと思ってタメ口で、お前阿保か?と、そんな雰囲気で話すビリケンに一発入れてやろうか、と考えたが……イズミが剣を振り上げたのを確認し、そんな必要は無くなったと判断した
「いっっでえええええっ!!」
ガツーンと派手な音がダンジョンに響き、ビリケンがしゃがんで頭を抑える
「アンタ、探索者にそんな口聞いて良いと思ってんの?少しは考えなさい!」
「だからって剣の鞘で叩く事ねえだろうがあっ!」
涙目になった…いや、泣きながら30代のオッサンが何か言ってるが
「はぁ……いい加減にしてくれ、入ってみれば分かる、これはダンジョンの攻略に必要な事なんだ、取り敢えず奥に行かずに黙って見てれば良い……そうだな、俺が合図したら2人とも入ってくれ」
説明しても信じられないだろうから、先に進み、階層主の広場に入ると以前リギットが見せたようにライフルを構えて魔力を込めていく
リキッドの魔力に応じてトリガーを絞るまで魔力を吸い取り続けるこのライフルは、錬金術と鍛冶屋スキルに特化した2人の奴隷に作って貰った特注品だった
ボルトアクションのデザインのライフルは、一見するとただの木製と鉄製のように見えるが、恐ろしいほど硬くて軽い、
銃口は直径5cmほどあり、銃というよりちっちゃいバズーカのようなイメージが近い
火薬も弾も無いが何故か銃口にはライフルリングと呼ばれる螺旋状の溝までちゃんとある
何でもこうすると魔力の弾が真っ直ぐ飛び、貫通力が増す、ような気がするらしい
効果音も無く静かに魔力がトリガーを持つ指と、銃身を支える手から魔力が吸い取られてゆくと、
銃口の直ぐ先で光の弾がパチパチと音を鳴らすようなプラズマを発生させながらみるみる膨らんでいく
「おっおいおい…スライムのボス相手にやりすぎじゃないか?…ですか?」
イズミに睨まれて言い直すビリケン
「良いから…もう良いぞ、2人とも入ってくれ」
充分すぎるほどの大きくなった光の弾を確認したリキッドが2人に合図をすると
2人が広間に入り、空気が変わる…広間の周囲に何かが渦を巻いて集まっていく、その気配は2人が知っているエルダースライムとは何かが違っていた
「まぁ今は黙ってみとけ…直ぐ分かる」
(13階層のボスとは訳が違う……大丈夫だ…)
何も無かった中心から階層主が徐々に姿を表していく…
リギットに取っては以前みたのと同じだが
「なっなんだありゃ?」
「でっかい…いつもの3倍は大きいわ」
「あれがユニークだ…普通の10倍は強い、だけど…こんな低層階なら」
人の身体さえ包むような大きさの光の弾が射出されると、音も無いのに身体が僅かに後ろにズレる程の反動が返ってくる
「……なっ瞬殺だろ?」
実はレアボスに対して強烈なトラウマを作りかけていたリギットは、言葉とは裏腹に汗が止まらなかった
大きなドーナツのように風穴を開けられ、核を失ったレアボスのスライムはその身体を地面に崩して落ちてゆく
「うわぁ……エゲツな……」
「何度か見た事あるけど…相変わらずですね」
前回より大きい穴が開いたのは、キドがトラウマを克服する為に余計に力を込めすぎた事が原因だがその甲斐あってか、大分気持ちに余裕が出来た
「今回は俺が1人でやったけど、いつも同じやり方をするつもりは無い………というか、ダンジョンなんだからマスターが居るんだろ?きっと直ぐに対策を建てられる筈だ」
説明しているとこれまで見た事が無いほど強烈に発光する球体が広間の中心に現れた
「なっなんなの…こんなの見た事無いんだけど……」
「もしかして……S級じゃないか?」
「あぁ…この輝きは…A級じゃ有り得ない…割るぞ?」
S級奴隷なんてゴールドランク以上の探索者しか持ってない…つまり王都で見かける事なんて殆ど無かった
リキッドが強く発光する球体を触れるとパリンと光の粒子が粉々に砕け飛ぶ…中に居たのは23才ぐらいの女性が立っていたが………
「うっひょおおお!ナイスっナーーイスっ!」
若干寝ぼけ眼で立ち尽くす女性はタンクトップに下着というかなりアグレッシブな姿をしていた
「……は?……っ!っきゃぁあああああっ!!いやああああ!!」
目の前の女性の叫び声に気が付いて、慌てて後ろを向き
「ビリケンっ!お前も見るな!」
って声を掛けたが既にイズミさんが
「お前は目を
剣の鞘がナルミのフルスィングに匹敵するような勢いで顔面を叩かれたビリケンはそのままピヨピヨした……ヤレヤレだ
「イズミさん…これ渡してやってくれ…」
男物だがシャツとパンツとローブを渡してやり
「もっもう大丈夫です……こっここは……?」
召喚された女性の声を確認し、振り向くと
「……異世界へようこそ……残念ながら君は今から、俺の奴隷となった」
それはリキッドが必ず言うセリフだが少し違うが、最初に現状を認識させることが、命の軽いこの世界では何より必要な事だという点で、リキッドとキドの考えは一致した
「あれ……もしかして…ミーコちゃん?」
キドのシャツとズボンを着た女性は、ローブを羽織りながら少し自信無さげに、イズミに訪ねると
「……え?……もっモモ?」
その声とその顔を二度見したイズミが口を滑らせるように漏らした
「やっぱりミーコちゃん!どっどういう事なの?……なんか大人になっちゃって……」
「あっ……うっんと?……これは…そのともかくっ……モモっ!…ごっごめん……私のせいでこんな事に……」
久々にあった仲間との再会に感動と混乱と謝罪で訳が分からず、とにかく謝罪を始めるイズミに、モモと呼ばれた女性は益々混乱していくが、
「ミーコちゃん……なっ何がなんだか……とにかく落ち着いて?……ね?」
突然土下座されてオロオロしながら起こそうとするモモと呼ばれた女性とミーコにビリケンが近づいていった
「なっなぁ………もしかしてイズミって……ミーコなんか?」
「う”っ………ごっごめん……何か……いっ言いそびれちゃって……」
土下座しながらバツの悪そうにミーコだと黙っていた事もついでに謝る
「「はぁぁあああ?」」
「ごっごめんなさーーいっ!!」
モモちゃんはと呼ばれたやはりモモレンで、ミーコとモモレンだけはお互いに顔バレしていて、こっそり2人で一緒に遊んだ事もあったそうだ
とりあえず色々混乱激しい俺たちは何処で冒険者と会うかもわからない為、全く予想しない形で仲間4人と合流を果たした俺たちはダンジョンを出て、近くの山でキャンプをする為に向かう事にした
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