【一章】第十四話
【奴隷街】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
王国の中心地、巨大な教会のような建物、探索者達や王国民にとっての生活の中心であり、奴隷達にとっての
まだ朝モヤが晴れない昭和初期の香り漂うレトロな街をリキッドは鐘の音を背にして歩いていた、
その眼は、ギラギラとしながらも、以前より少し穏やかになっていたが、誰もその事には気がついていない
商店街のようなアーケードを潜り進むと、一番最初に迎えてくれるのが【鳥奴隷】という名前の居酒屋だ、店の前を左に曲がり、突き当たりを右手に曲がり、右手前から3件目が目的地である、ビリケンの家だ
呼び鈴などある筈も無いので、玄関にある横開きのドアを叩くと予想以上に大きな音が静かな朝の奴隷街にガンガンと鳴り響く
「はい〜誰だよ、こんな朝早くから……」
奥の方からドスドスと足音をならしてガラガラと玄関を開けるとステテコ姿の完璧に親父となったビリケンが姿を現し、リキッドを見て一瞬、時を止める
「りりリキッドさんっ!」
「……俺だよ、ビリケン」
「………え?え?……もしかして……キッドか?」
「他にその名で呼ぶやつ居るのか?」
「えええ?ええええええええええっ?」
「もう少し小さい声で話せよ…細かいことはダンジョンで説明するよ、鐘三つで何時もの所で集合だ……ビリケン1人でいい」
「わっ分かった、いえっ分かりました!鐘三つで行きます!」
道を挟んだ向かいの平屋の玄関に人影が見えたビリケンが奴隷らしい挨拶をすると
「じゃぁ…先に行ってる」
ビリケンの態度に気がついたリキッドもまた、探索者然として踵を返して奴隷街を後にして行った
【城門前】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
…おっおいっ!待てって!
…………
城門の前でビリケンを待っていると
見覚えの有る………キドに取って忘れる筈の無い女性がきちんと整備された革の胸当てと革のショートパンツにショートソードを腰にぶら下げ、戦闘奴隷の装いで
必死に止めようとするビリケンを無視してズンズンと歩いて来ていた
(いずみさん……)
ナルミにとっては同年代だが中の
ズカズカと歩く和泉がリキッドの正面まで歩くと地面に片膝をついた
城門前の衛兵や、他の探索者達のパーティーが物珍しげにその様子を見ながら通り過ぎていく
「…何のつもりだ?俺はビリケンに一人で来いと言った筈だが?」
「すっすいません…どうしても着いていくって聞かなくて」
他の人の目がある為、奴隷として返答するビリケンに、膝を着いた和泉が要望を告げてくる
「リキッドさん……私を戦闘奴隷に戻してほしいんです」
下から見上げてくる顔見たキドには、
ナルミを直接では無いとしても殺した男に対する顔とは少し違うと思えた
「……何で?」
「……戦闘奴隷に戻らないと子供を養えません……………敵討ちも…」
「敵討ち?」
「はい………いつか必ず13階層のレアボスを仕留めてやりたい」
昨日の内に旦那がレアボスで死んだ報せを受けた和泉は、
血は繋がって居ないがナルミと二人で育てる筈だった子供を再び手放す事など考えられなかった
「・・・・・」
キドは返事を待つ和泉さんを見ながら直ぐには返事が出来ず考え込む、
(奴隷が探索者に対して反逆行為を行うのは不可能だ、だからそこは問題じゃない)
奴隷の中でも特に死亡率が高い戦闘奴隷なら、多少の我儘も通る、あくまで奴隷街の中での話だが
(だからって何で俺のパーティーに………いや、他の奴よりはマシか……)
探索者は命知らずも多いし何より奴隷の命なんて全く顧みない
子供の為に生き残るならより安全な探索者を選ぶのは消去法では当然だった
「暫くは低層階で一から鍛え直すつもりだ……それでも良いなら勝手にしろ」
「え?良いの?っいやっ良いんですか?」
リキッドの返答に驚いたのはビリケンだった
「……ありがとうございますっ」
「とりあえず言っとくが、俺にどうこうしようなんて夢にも考えるなよ?」
「勿論です、子供の為…今はそれしか考えてません、私も久しぶりなので…低層階の方が助かります」
改めて確認するが、和泉の目には狂気が宿っているとは思えず、黙って頷き、王国からダンジョンへと向かい始める3人だった
【ダンジョンへ向かう道中】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンへは王国からだと歩いて三日を要する、
その為、途中で野宿をしたり、村で泊まったりしながら進む
最初の一日目は村まで届かないので野宿になった
焚き木に当たる和泉とビリケンを少し離れた所で見ていたリキッドは
(和泉がダンジョン攻略に有効なスキル持ちなら…このまま…………でも危険も多い、万が一でも死んだら和美ちゃんはどうなるのか?)
今はまだ解決策も1つも思い浮かばないが、誰もいないこの場は話をするのにこれ以上ないタイミングだった
【焚火の中の告白】
……しかし、お前さんも相変わらず猪突猛進というか…何というか……だねえ?
……なによ?文句あるの?
……いやいや文句はねえけどよお?下手したらボコられて終わってたんだぜ?先日の俺を見ただろうが?
……それは……和美がリキッドさんに良くして貰ったって聞いたから……何とかなるんじゃないかって、思ったのよ
……和美ちゃんが?何かあったのか?
「なぁ、ちょっと良いか?」
「はっはいっ」
離れた所にいた筈のリキッドが突然近くに現れた事に驚く和泉と
「俺は少し退いてましょうか?」
変な気を使う空気を読めないオッサンになったビリケン
「「何で(よ)だよ」」
思わず突っ込む和泉とシンクロしてしまう
「ゴホン…お前も関係あるんだ、其処に居てくれ」
「おっ俺も?」
何考えてるのか分からないが、きっと阿保な事を考えているのは間違い無い
「これから言う事は絶対に他人に話すな、こういう誰も居ない場所以外での会話も禁じる」
ビリケンは最初からリキッドが所有権を持ち、
和泉は一時的だが事前にギルドで所有権をギルドからリキッドに移譲していた為、こう言う命令も有効になる
2人は黙って頷いた
「俺は……ダンジョンを攻略しようと考えてる」
「えっ……攻略って…ダンジョンの攻略ですか?」
直ぐに反応したのは、和泉の方だ、ビリケンは最初から知ってるから驚かない
「あぁ……ダンジョンの攻略だ、今すぐには勿論無理だ、力が足りない、だからAランクの奴隷とか人数があぶれて来たら和泉には悪いが」
「ちょっちょっと待って下さいっ!何でダンジョンを攻略するんですか?意味が分からないです!」
「奴隷を解放する為だ、他に何があるって言うんだ?だから、低層階の間は連れて行けると思うだけど……」
とりあえず話しを纏めて進めようとしようとしたが、それを和泉が興奮して遮るように話し始めた
「奴隷の解放?王国民の貴方が?探索者で私達をゴミのように扱っていた貴方が?一体何言ってるの?」
『和泉!』
ビリケンが大きな声で和泉を止める
「オッサンは黙ってて!何よ……一体何だって言うの………分かんない……そんなのいきなり言われたって分かんないわよ!!」
(一から全部説明しようとしたのが間違いだった……)
「……………………ミーポはどうしてる?お前はいつもナルミにイズミって名前で呼ばれたがっていたよな?」
「なっ!!」
ミーポは和泉が娘に付けた愛称だ、知ってるのはナルミと奥さんのイズミだけだ
「俺の中にはナルミの記憶も残ってる……全部説明するから、大人しく聞いてくれ」
◇
「じゃっじゃあ貴方はナルミの記憶も持って、リキッドに乗り移った全く別の人って事?」
「そうだ…本名は木渡流(キドナガレ)って言う」
「キド………え?…じゃあ……来ないだの……晩も?」
「その時は、……食卓で気絶してたから俺は覚えて無い」
「本当にぃ〜〜?あやしいーーなあーー?」
鼻の下を延ばすビリケンの鼻先にイズミがヒュンと剣を向ける
「じょっ冗談です……すいません」
ビリケンの鼻先で剣を止めたままで和泉がリキッドに確かめてくる
「本当に……何も覚えて無いの?」
「俺だってこのスキルの事はちゃんと分かって無いんだ、ギルドカードにも説明表示しないし」
「覚えてるのは和美にダイブされて起こされた事だけだよ」
「そっそう………なら…良いけど…」
何処か少し残念そうなのは気のせいだろう
「まぁ…リキッドが仲間になったのは間違いなくこのパーティの絶対の秘密だ、仲間は慎重に選ばないとな?」
そう気楽な顔をして言うビリケンに
「私は貴方がそのパーティに居るのが心配で貯まらないわ」
全くの同感だった
「なっなんだよ…俺とキッドはすんごい長い付き合いなんだぞ?俺が居なくてどうすんだよ!なぁ?キッド!」
「・・・・・・」
ビリケンに同意を求められたのでツイ顔を背ける
「ちょっ何で其処で黙るんだ?」
「・・・・・・」
イズミも同じようにオッサンに目を合わせない
「お前らリアルでブロックすんなよ〜〜〜!!」
誰も居ない草原の中でオッサンの叫びが木霊した
【ダンジョン地下1階】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁっ!……ふんっ!……やぁっ!」
実践から遠ざかっていた和泉にまずは身体を慣らせと指示を出し、ショートソードで的確にスライムのコアを突き刺していく和泉の様子を少し離れて見ていると、ビリケンが近づいて来た
「……それにしても、一人で全部倒せってちょっと大変じゃないか?……数多いし雑魚だし…普通は初心者だってスルーするもんだぞ?地下一回の雑魚なんて?」
「…必要なんだよ、まぁ後で分かる」
レアボスの事は口で説明するより実感させた方がより分かりやすいし、イズミの実力を見るのも丁度良かった
敵が弱くたって、本気で動けば攻撃の正確さや身体の動かし方でコバよりズッと強いのは直ぐに分かった
「イズミは剣士タイプだったな?」
「あぁ…俺見たいな盗賊タイプと違って正統派って奴だ」
剣士タイプのスキル、
扱う武器はショートソードからロングソードまでで、純粋な戦闘タイプで奴隷の中では一番多い
攻撃系はスラッシュという、攻撃力がアップする斬撃系と
パリィという物理攻撃を跳ね返す防御系の二つを持つ戦闘奴隷
一度上がったステータスは下がらないしスキルも使う程効果が上がり、当然下がらないが、戦闘の勘は鈍る、それでもスライム相手じゃ問題なんて起こる筈も無く、サクサクとスライム達を倒していた
「はぁぁぁ…疲れた…終わりましたよ?全部綺麗に倒しました」
ビリケンと話していた2人にゼェゼェと息を切らしたイズミがやって来た
「お疲れ、動きの方は問題ないみたいだ、少し休んでから広間にいこうか」
「スライムぐらいで問題なんか起こるわけ無いでしょ?ほら、もう大丈夫ですからさっさと行きましょうっ!」
「いや…少し待とうぜ?」
ビリケンが少し真面目な顔をしてそういうと、リキッドも同じく同意してイズミの後ろを指差すと
「イズミの後ろには液状化したスライムのドロドロがダンジョン一杯に広がっていた
「……ははは…すっ少し待ちましょうか?」
スライムまみれになりたく無い俺たちはダンジョンが吸収してから広間に入っていく事にした
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