第187話では、乾杯といこうか

 


「宴だ宴だーー!」

「呑め呑め!」

「今日は潰れるまで呑むぞぉぉ!!」

「ほらぁ、兄ちゃんも食ってばかりじゃなくて呑めよオラァ!」

「そうだそうだ!」

「いや、俺は……」

「アーン?オレ達の酒が飲めっねぇてかぁ!?」


 うざ。

 出された料理を爆速で平げていると、顔を赤くした遊王軍団の魔族達に絡まれる。

 酒はそんなに好きじゃないので断るのだが、大人しく引き下がってくれない。それどころか、絡み方の怠さが勢いを増していった。


 うぜぇな、折角人が飯を堪能してんのに邪魔すんじゃねえよ。しょうがねー、適当に相手して済ませるか。

 俺は魔族から酒瓶を奪い取ると、グビグビと飲み干していく。


「おおい!ヒューマンの癖にイイ飲みっぷりじゃねえか!」

「イッキ!イッキ!イッキ!!」

「ぷはーーー、はいこれで終わり。もう邪魔すんなよ」

「このヒューマン……ドワーフの酒をイッキ呑みしてケロっとしてやがる」

「パ、パネェ……」


 ドワーフの酒って、度数120%のイカれた酒じゃねえか。お前らそんなもん人間に呑ましてんじゃねえよ。普通の人間だったら一口舐めただけで潰れるわ。

 まぁ俺はベルゼブブの『暴食』の特性で酔うことはねぇんだけど。


「ウェーイ、アキラさん呑んでますか〜?ボクは一杯呑んでますよ〜」


 ドワーフの酒をイッキ呑みしたことで魔族達が驚嘆していると、酒樽を肩に背負ったユラハがやってきた。勿論こいつも既に出来上がっている。

 魔族を押し除け、俺の隣にドンッと腰を下ろすと、同窓会で会う旧友のテンションで肩を組んできた。


「あらあらあら?コップが空じゃありませんか〜。ダメですよ〜もっと呑みましょうよ〜ウップ」

「俺の目の前でもう一度ゲップしてみろ。お前が目覚めるのは明日の夜だ」

「何言ってるかよく分かんないで〜す!」


 ぶっ殺してぇ!


 ◇


 戦争が終わってから二日が経った。

 その二日間は、死んでいった者達を弔ったり、捕虜となった帝国軍兵や妖王軍団の魔族の対応など、戦後処理に追われ。

 それらがようやく片付いて、遊王軍団の勝利を祝って宴を開いている最中だ。


 飯がタダということで、俺は出される料理を片っ端から食べ、空皿を積み上げている。


 そんな俺に、遊王軍団の魔族達がyoyoと絡んできた。奴等は全員お調子者というか、陽キャのパリピかってぐらいテンションが高い。そんな奴等に一々絡まれるのも面倒なので無視しようとするのだが、知ったこっちゃねえと言わんばかりに接してきやがる。

 うざ過ぎるのでぶん殴ろうとも思ったのだが、悪気がないのが分かるから仕方なく付き合ってやった。


「へいへ~い、アキラさ~ん、ボクと飲み勝負しましょうよ~」


 だがユラハ、お前は駄目だ。

 他の奴等はいいが、お前の絡み方は余りもムカついてくるんだよ。


「ユラハ君、その辺にしておいた方がいい。キレた影山は女だろうが平気で腹パンするぞ」

「そうですわ。わたくしなんか、首を絞め殺されそうになったんですわよ」


 そろそろ怒りのボルテージが限界突破しそうになっている俺の様子をみかねた佐倉と麗華が助け舟を出してくれた。

 二人がユラハを引き剥がそうとすると、今度は彼女達をターゲットにして絡み出す。


「じゃあ、お二人ともボクと仲良くしましょー!ということでぶっちゅー」

「――!?んんんん!!」

「な、公衆の面前でなに破廉恥なことをしていますの!?」


 突然ユラハが佐倉に抱き付き首に腕を回すと、容赦なく唇を奪う。

 驚いた佐倉は慌てて離れようとするもユラハがガッチリ首をホールドにしているので逃れられない。そんな彼女達を目の前に、麗華は顔を真っ赤にして狼狽している。

 美少女同士のキスか……。


 いいぞもっとやれ。


 眼福眼福、とか言ってる場合じゃねえな。

 早く助けてやらねぇと。


「おいユラハ、その辺にしとけよ。佐倉は俺の“コレ”だから、俺の許可なく手を出してんじゃねえ」

「あちゃ~、それはそれは申し訳ござーませんでした!それなら、アキラさんなら大丈夫ってことですよね!」

「はぁ?お前何言って――ッ!!?」

「ぶっちゅーーー!!」


 何を頓珍漢なこと言ってんだと呆れていたら、ダイビングジャンプしてきたユラハが俺に組み付き、口づけをしてきた。咄嗟のことなので避けられず、ユラハとキスしてしまう。


 こ、このキス魔が!

 テメエ誰彼構わずしてくんじゃねえよ!!

 くそ!振りほどこうにも、意外と力が強くて振りほどけない。


「ンン……」

「――!?」


 この野郎、調子乗って舌まで強引に入れてきやがった!


「「ああああああああああ!!」」


 ほら見ろ!!

 佐倉と麗華が般若の顔を浮かべてこっちを指してるぞ。

 やばい……これ以上好き勝手やられると俺まで二人のとばっちりを喰らってしまう。

 そう危惧した俺は、腹から触手を勢いよく放ってユラハを殴り飛ばした。


「うげっ」


 地面に叩きつけられたユラハは、ゲロを吐いた後「アハハハハ!」とバカ笑いをしている。

 駄目だありゃ、完全にタチの悪い酔っ払いだわ。

 そんな彼女に、佐倉と麗華はゴゴゴゴゴゴゴ!!!と背景に効果音が出るほどの圧力で仁王立ちする。


「ユラハ君、“僕の”影山に無断でキスをしてのは流石に見逃せないな。ぶち殺される覚悟はあるかい?」

「ユラハさん、“わたくしの”晃の唇を奪ったこと、絶対に許しませんわよ。死ぬ覚悟はおありで?」

「あははは!ごめんなさ~~い!!」

「「待てや泥棒猫おおおお!!」」


 四足歩行で逃げる猫女を、二人の鬼女が追いかける。

 そんな茶番を見ていた魔族達は、「いいぞーーやれやれー!」「逃げろ逃げろーー!」大いに盛り上げる。

 こいつら、本当に楽しければ何でもいいんだな。


 呆れていると、俺の隣に見惚れるような優男が座ってきた。


「いや~愛されてるね~。羨ましい限りだよ、今度の獣王はハーレム王でもあるのかな?」

「二人でもしんどいのに、ハーレムなんてする気も起きねえよ」

「そうかい?人間の性欲は果てしないってよく聞くけどなぁ。性癖とかも業が深いみたいだしね」

「どこ情報だよそれ……」


 優男の正体は、遊王軍団の王であるアラベドだ。

 深緑の長髪に、光輝く金眼。中性的な顔立ちは人形のように整っている。

 顔面レベルがイケメンを通り越して神がかってんな。この顔ならどんな女でもイチコロだろう。

 ……爆死しねえかな。


「そんな先祖の仇みたいな目で睨まないでくれるかな。僕なにかしたっけ?」

「……悪い、気にしないでくれ」

「そ、そうかい?」


 やべえ。

 自分でも気づかぬ内に鋭い眼差しを作ってしまっていたようだ。

 二人の彼女が出来て、尚且つ大人の階段を上ったというのに、未だに心の器は小さいみたいだな。


『ヒハハ、ダセエな』

(五月蠅いよ)


 頭の中で馬鹿にしてくるベルゼブブに突っ込んでいると、アラベドが酒瓶を手にしてお酌してくる。酒は余り好まないんだが、王のお酌を断るのもいかがなものかと思って注いで貰う。

 その後は俺がお酌すると、アラベドは「ありがとう」と言ってコップを手にした。


「では、乾杯といこうか。我が軍の勝利と、獣王との邂逅に」

「おう」


 そう言って、獣王おれ遊王アラベドは盃を交わした。


 二人してグビグビと一気に酒を飲み干す。

 彼はカーーー!と口にし、笑顔で口を開いた。


「久しぶりに飲んだけど、こんなに喉が熱くなるものだったかな。苦いけど美味しいね」

「んだよ、普段は飲まないのか?」

「僕はフルーツミックスさえあれば生きていけるからね」

「ああそう」


 随分お子ちゃまな舌なんだな。

 そんなアラベドは真剣な顔を作って、俺を見やる。


「改めて礼を言わせておくれ。僕の無茶な救援に駆けつけてくれて本当にありがとう。みんなの笑顔を守れたのは、君の力のおかげだ」

「前にも言ったが、気にすんな。遊王軍団そっちが負けたら、どの道俺達も攻められていただろうしな。一緒に戦った方が得だと判断しただけだよ」

「それでもだよ。それでも、アキラ君が助けに来てくれたお蔭で僕も、みんなも助かったんだ」

「まぁ、そこまで言うならアンタの気持ちは受け取っておく」


 そう告げれば、アラベドは朗らかに微笑んだ。

 確かに、俺と佐倉と麗華が来なければアラベドは死んでいただろうし、遊王軍団も敗北していただろうな。


「そう言えば、配下の方はどうなったんだ?あの竜人族、アンタを裏切ったんだろ?」

「ドラホンとは……ちゃんと話をしたよ。けど、一度引き裂かれた絆は簡単に戻らないみたいだ。時間をかけて、ゆっくりと歩み寄ろうと思っている」

「許すのか?殺されそうになったんだろ?」

「そうだね……でも、僕は彼の友達だからどうしても憎めないんだ。本当に、長い時間一緒にいたんだよ……」

「そうか、まあアンタがよければいいんだけどよ」


 俺には、殺されそうになってまで許せる友達は一人もいなかったからな。

 仲良くなっても浅い関係だったし、お互いに一線を引いていた気がする。

 だから正直、そんな友達がいるアラベドを羨ましく思う。


「妖王……ザラザードだっけか。あいつはどうしてんだ?まだ生きてんだろ?」

「一応魔道具で拘束しているけど、あの人はもう戦う気力はないよ。戦争に負けて精魂尽き果てたって感じかな。魔王軍を裏切ってまで用意周到に立ち回ってきたのに、最後の最後で純粋な暴力で完膚なきまでに粉砕されてしまったからね」

「そうか……」


 確かに、あそこまでベルゼブブにフルボッコされたらやる気も失うよな。

 俺だったら理不尽過ぎて呪うかもしれん。

 少し気になった俺は、アラベドにお願いする。


「ザラザードと話をさせてくれないか」

「構わないけど、何を話すんだい?」

「ちょっとな……王として、あいつの考えを知っておきたいんだ」

「そうかい……よし、それなら僕も一緒に行こう。あの人とは何度か話そうとしているんだけど、頑なに話してくれないんだよ。けど、アキラ君ならもしかしたら口を開くかもしれない」


 俺達は立ち上がり、騒がしい宴を後にして、ザラザードのいる暗い地下牢獄に足を運んだ。

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