第186話終息

 


「信じられないっす……あの怪物、ザラザードに裏蛇、それにドラホンの三人を相手に終始圧倒しちゃいましたよ」

「驚いたね……まさかここまで強いとは……(大罪スキル者は、こんな化物揃いなのかな?)」

「王の遊び、戦いというよりも遊んでいるよだったね」

「はぁ~~~~流石ベルゼブブ様ですわ~」


 暴食も魔王の暴れっぷりを眺めていた四人は、敵大将を圧倒する力に呆然としていた。

 とくにユラハとアラベドは強くそう感じただろう。ユラハ以上の力を持つドラホン、アラベドを苦しめた妖王ザラザードに蛇黒騎士団団長スレイン。

 魔界の中でもトップクラスの実力者達と1対3の不利な状況で戦い、完封勝利を披露したのだから。


 逆に詩織と麗華は、これっぽっちも心配していなかった。

 彼女達はベルゼブブの戦いを直接目にして彼の実力を知っているし、なにより彼が敗北する姿は想像できない。

 勝って当たり前の存在。そういう認識だった。


 ベルゼブブがのっしのっしと近寄ってきてパチンと指を鳴らすと、詩織達を覆っていた黒い球体が搔き消える。


「終わったゼ」

「お疲れ……流石だね」

「ベルゼブブ様の戦う姿、とても素敵でしたわ!!」

「だろ?」


 労う詩織と目をハートにさせて褒めてくる麗華に、魔王はドヤ顔でそう言った。アラベドとユラハも近寄り、お礼を告げる。


「すごかったっす!今度ボクとお手合わせして欲しいっす!」

「気がむいたらナ」

「本当にありがとう。この恩は絶対に忘れないよ」

「気にすンな、ただの気まぐれだ。後は好きなようにしてくれ、オレ様はご主人様と代わる」


 そう言うや否や、ベルゼブブの巨体がドロドロと崩れ落ちていく。身体の中から出てきた晃は、やや不満そうな顔で口を開いた。


「ったく、爺の肉なんか喰うんじゃねえよ。気持ち悪いったらありゃしねぇ」


 ベルゼブブがザラザードの頭を喰ったことを言っているのだろう。

 晃とベルゼブブは身体の感覚を共有してしる。なので気持ち悪い触感を味わってしまい、「おえ……」と若干気持ち悪くなっていた。


「で、あんたは大丈夫なのか?」

「大丈夫、ユラハのおかげで傷も塞がったよ」


 晃が容態を尋ねると、アラベドは笑みを溢しながらそう言った。ベルゼブブが戦っていた間、ユラハの闘気を使った治療術によって胸に空いた風穴は傷を塞がり、魔力も少しは回復している。

 自分の力で立てるぐらいには力を取り戻していた。


「改めて礼を言うよ、新しい獣王……いや、アキラ君。救援に駆けつけてくれて、それに僕の代わりに三人を倒し、遊王軍のみんなを助けてくれて」

「乗り掛かった舟だ、気にすんな」



 遊王は深く頭を下げると、握手を求めた。晃も手を出し、がっしりと手を握る。


「で、これからどうすんだ?まだあちこちで戦いは続いているみたいだけどよ」

「それは僕に任せてくれ。この戦いを終わらすのは、遊王ぼくの役目だ」


 力強い顔で言うと、アラベドはザラザードとスレインに両手を向ける。

 ふわりと風が巻き起こり、気絶している二人の身体が浮かびあがった。

 アラベドは上空に飛ぶと、風に魔力を与えて自分の声を拡張しながら、


「妖王軍団、並びに蛇黒騎士団の戦士に告げる。今すぐ剣を下ろして降伏せよ。君達の大将である妖王ザラザードと団長スレインは、新獣王の手によって討ち取った。君達の負けだ」


 その言葉が戦場全域に伝わると、戦っていた両軍の戦士達は空を見上げた。

 そこにはアラベドと、血塗れのザラザードとスレインが吊るされているように浮かんでいる。


「ソンナ……ザラザード様が負けるなんて」

「なにかの間違いだ!あの二人が負けるはずがない!」

「でも、あれは間違いなくスレイン様だぞ」

「配下のワレラが見間違えるハズがない」

「じゃあ、本当に負けたのか……」

「アア……ソウみたいだ……」


 最初は信じられなかったが、魔力を感じ取って本物だと気づく。空で行われていた激闘が収まっているのも、信憑性があった。なによりアラベドが勝利宣言しているにもかかわらず、一切邪魔が入らないということは、敗北したのは厳然たる事実なのだろう。


 妖王軍団の魔族達が拳を下ろし、蛇黒騎士団の戦士達が剣を下ろす。

 負けた、自分達は負けたのだ。

 打ちひしがれる彼等に、アラベドが険しい声音で伝える。


「君達の処遇はこれからこれから決める。今は戦いを止めて、負った傷を癒し、逝った仲間達を弔おう」



 こうして、遊王軍団対蛇黒騎士団・妖王軍団との大激突は、妖王ザラザードと団長スレインを倒したことで遊王軍団の勝利して幕は閉じられた。



 蛇黒騎士団は七万の兵士の内、約三万人が死亡。三万人の重軽傷者。

 その内の隊長格。

 一番隊隊長ビスタ、死亡。

 二番隊隊長フロライン、各部骨折の重体。

 三番隊隊長ガラッグ、殿を務める際に死亡。

 彼は元々スレインと上手くいっておらず、ガラッグを邪魔に思ったスレインが撤退時に紛れて殺したと思われる。

 団長スレイン、死亡。


 妖王軍団は四万の兵士の内、約二万人が死亡。約一万人の重傷者。

 その内の隊長各。

『鬼神』ジャキ、意識不明の重傷。

『死剣』シキシ、死亡。

『妖王』ザラザード、魔力枯渇による重傷。


 敗れた両軍の兵士達は、遊王軍団が一旦預かることになった。

 彼等の処遇はどうするのか決まってはないが、今は心と身体の傷を癒そうとというアラベドの考えにより、アラベドの管理地域に居させている。


 一方、勝利した遊王軍団。

 八千人の兵士の内、約三千人が死亡。約二千人の重軽傷者。

 彼等は強靭な肉体を持っているため、戦争の規模に比べて死者は少なかった。

 しかし、それでも多くの親しい友を亡くしてしまったことにより、戦士達は嘆き悲しんでいる。

 その内の隊長格。

『破壊王』のユラハ、各部骨折。

『赤竜帝』のドラホン、意識不明の重体。

『遊王』アラベド、全身骨折と内臓損傷。


 そして獣王軍団。

 佐倉詩織、軽傷。

 西園寺麗華、軽傷。

 影山晃、身体強化。


 ビスタに刺された傷もユラハの治癒によって回復している。

 晃に至っては、ベルゼブブがザラザードの魔力を喰らったため完全回復どころかさらにパワーアップしていたのだった。

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