第168話こういう事だ
「あっ、見てください!アレがアラベド城です……ってなんか城の周りに一杯いる!?」
「一足遅かったか。もう始まってやがる」
「多勢に無勢だね。あの数の差をひっくり返すのは難しいよ」
「取り囲まれているにしては、城の形は保たれたままですわね。あれは……結界?でしょうか。薄い幕がドーム状に張られていますわ」
昨日の昼間から麗華の配下である
上空からユラハの説明を受けながら戦いを観察すると、戦況は圧倒的に遊王軍が不利。というか、帝国の兵士と妖王軍団に埋もれて遊王軍団の兵士が何処にいるか把握出来なかった。
最早風前の灯と言えよう状況でも、城はまだ堕ちていない。それは今麗華が述べたように、城の周りに結界が展開されているからだろう。多くの敵兵が結界を割ろうと奮闘しているが、今の所結界が壊れる様子は見当たらなかった。
「オラオラァァ!!テメェ等の
「こんだけいたら手当たり次第ぶっ放してもいいよね!?いいよね!?」
「どひゃー、やめてー、こないでー、死んでー」
「クソッやっぱりコイツ等強い!相手すんのも疲れるけど強い事は確かだ!」
「こら逃げるんじゃねぇ!戦うんならちゃんと戦いやがれ!!」
「焦るな人間共、奴等のペースに合わせていたら先の戦いの二の舞ぞ」
……既に終わってしまった戦いだと勝手に決めつけていたが、どうやら俺の勘違いらしい。
目を凝らしてよく見てみれば、あちこちで激しい戦闘が繰り広げられている。そのどれもが多対一で囲まれているのだが、遊王軍団の兵士は数の差などモノともせずに獅子奮迅の活躍をしていた。
(セスが言ってた通りだな……遊王軍団の兵士一人一人が馬鹿強ぇ)
遊王軍団の兵士は遊王アラベドを筆頭に巫山戯ている奴しかいないが、一人一人が戦力が他と比べて断然に高い。
まぁ、頭が緩そうなのは痛い所ではあるが。
「よし、佐倉と麗華は結界付近の敵を出来るだけ減らしておいてくれ。ただ、団長や幹部クラスと絶対戦おうとすんじゃねえぞ。今のお前達じゃまだ勝てない。ユラハはアラベドって奴に俺達が来た事を報告しに行ってくれ。たった三人の援軍で悪いけど、期待はしとけって伝えてくれよな」
「えっ!?ボクも戦いたいです!!」
「……」
「はい分かりました!アラベド様に報告して参ります!」
調子に乗るユラハを睨めつけると、彼女は明後日の方角を見ながらビシッと敬礼する。
「了解しましたわ。アキラはどうなさいますの?」
「俺は今から戦場を掻き乱してくる。くれぐれも無理はしないでくれよ」
「何を言ってんだか………それはこっちの台詞だよ」
「はは、違いねぇ。じゃあ言ってくるわ」
手短に挨拶を済まし、キロの上から飛び降りる。ビュオーと風を突き抜けながら落下していると、頭の中でベルゼブブが語りかけてきた。
『なンだアキラ、今回はヤケにヤル気じゃねえか』
(そうか?いや……そうかもな。ここ最近色々あって開き直ったのかもしれん。自分でも驚くぐらい気分が昂揚してるのが分かる)
『ヒハハハハハッ!!そうかそうか!お前もやっと
やめろよ馬鹿、そんなんじゃねえって。
別に戦いくてウズウズしてるとか強い奴と戦いたいとかじゃなくてだな……。
『まぁ、なンでもいいさ。成長したテメェの力、見せて貰うぜ』
(ああ、期待して待っとけ)
ズドンッと、戦場のど真ん中へ豪快に着地する。
突然空から降ってきた
「そ、空から人間が降ってきやがった……」
「何だあの人間は、
「分からないが、恐らく違うかと……」
(人間は分かるが、魔族はどっちが味方なのか見分け付かねーな)
取り敢えず人間を先に潰して、向かって来た敵を迎撃する戦法でいこうか。
俺は一番近くにいた帝国兵士を蜘蛛糸で捕らえ引き寄せると、頭を掴んで地面に叩きつける。そして未だ困惑している周りの連中にこう告げたのだ。
「“こういう事だ”」
今のアクションで俺が遊王軍団の仲間だと悟った敵兵士達は、得物を向けて一斉に飛びかかってきた。
「死ねぇぇぇえいい!!」
「ハッ!」
蛇黒騎士団の兵士が次々と剣の雨を降らせてくる。
どいつもこいつも良い太刀筋をしてやがる。兵士一人一人の剣技の練度はかなり高いだろう。だがその程度の剣速じゃ遅すぎて欠伸が出るんだよ。
「ナイフ」
「ぐぉっっ!?」
「は、疾い……ッ!」
両手にナイフを纏い、武器を持っている方の腕を片っ端から斬り落としていく。セバスチャンと訓練した成果か、動きのキレが良くなってるのが自分でもよく分かる。どう動き、どこを斬ればいいのか、脳よりも先に肉体が判断しているんだ。
「なんて強さだ……我々では手に負えん!引け、隊長殿を呼んで来い!!」
「たかが剣士一人に何を梃子摺っている!退けニンゲン共、コヤツ程度など我等で十分だ」
俺との力量差を瞬時に見切った老練の兵士が仲間を下がらせると、妖王軍団の魔族が苛立ちを顕にしながら代わるように眼前に躍り出てきた。
デーモン、ゴブリン、鬼、鎧騎士、魔術士。骸骨術士。
成る程、妖王軍団ってのはそういう系か。どちらかと言うと魔物に近い感じの魔族が多いんだな。
「「〜〜〜〜〜ッ!!」」
「ちっ」
骸骨術士が魔術を唱えた途端、僅かだが身体の動きが遅くなってしまう。その隙を突くように、ゴブリンが武骨な片手ナイフを逆手に素早い動きで肉薄してきた。
「シねよ」
「お前がな」
「ァガ!?」
俺の首を狙って片手ナイフを振るってきたゴブリンをハリセンボンで串刺しにする。当たり前だが、ゴブリンは灰となって散るわけではなく緑の血を噴かせて地に伏した。
「図に乗るなよニンゲン風情が!」
「クタバレ」
「お前等はあの老兵を見習って敵の実力を見抜く力を付けた方がいいんじゃないのか」
「「グッ……」」
「お、鬼の拳を生身で受け止めただとッ」
「チッ、力だけしか脳がない奴は下がっているがいい」
怪力自慢の鬼が力勝負で打ち負かされた事実に帝国兵士は震え慄き、数人の術士は悪態を吐きながら火炎や雷撃を放ってくる。俺は蜘蛛糸で躱しながら接近し、動きが止まった骸骨術士やシャーマンを黒スライムで捕らえ、手の平をギュッと閉じた。
「アイアンメイデン」
「「ィギィィヤァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」
鳴り響く絶叫。
黒棺の一つ一つから大量の血が流れ出す。凄惨たる光景を目にして更に怯み戦意を失う帝国兵。妖王軍団の魔族はようやく俺の実力を認めたのか、無闇矢鱈に突っ込んでは来ず様子を窺っている。
「蟻地獄」
俺は自分を中心に黒スライムを広範囲に展開し、触れている全ての者の足を捕らえる。ちょっと実力がある者は振り払えるが、力の無い雑魚は逃げ出す事は不可能だ。これなら万が一遊王軍団の兵士を巻き込んでも大丈夫だろう。奴等の力なら問題なく脱出可能だ。
次に出す技のイメージを明確化し、言葉に乗せて発動する。
「ヴラド・ツェペシュ」
――刹那、敵の足元から天を衝くように黒針が一斉に伸び、帝国兵と妖王軍団の魔族の肉体を串刺しにする。
「「――ァガァァァァアアアアアッッ!!!」」
回避が間に合わなかった敵兵はおどろおどろしい悲鳴を上げて次々と死んでいく。耳にし難い不協和音が戦場に鳴り響き、凄惨な光景が作り出された。
今ので百人近くは逝ったか。数を減らす事も目的の一つだが、俺がこの技を選んだ理由は他にある。それは相手の戦意を削いで線引きすることだ。
以前セバスチャンと戦いについて談議していた時、彼はこう言っていた。
『アキラ様、今から話すことを覚えておいて下さい。敵に対し快楽を目的とした
結界はご覧の通り。彼が言っていたように、仲間の無惨な死に姿に呆然としている者が多い。特に
「こんな……よくも……」
「ォェエエエエエエッ」
「クソッ……クソッたれ!」
「ええい狼狽えるな、敵の思う壺だ!気をしっかり保て!」
これで雑魚の露払いは完了。
俺の予想では、次に出てくる奴はそこそこ戦えると思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます