第163話……で?

 





「待って下さい!ここを切り抜ければ僕達はまた貴方の役に立てます!それに僕達が死んだら『夜明けの団』はどうするんですか!?九頭原達が死んだ今、戦力が足りなくなってしまいますよ!」


 生存の道を探る為、南雲が必死に秋津へ訴え掛ける。けれど彼等のリーダーは、全く問題ないと首を振った。


「あー大丈夫、心配しないで。また強い仲間を集めるから。というか、そろそろハーレムパーティーを作りたいって思ってたんだよね。だから君達はもういらない」

「そ……んな……」

「だからさ――」


 ――刹那、その場にいた秋津の姿が忽然と消失したかと思えば、突如相馬達の背後に現れた。


「安心して死んでよ、“強奪スキルテイカー”」

「――っあ……が」


 秋津はスキルを使用し、右手で相馬の背中を貫くと心臓を握り、彼の“スキル”と命を奪っていく。数秒足らずで奪い尽くすと、相馬は白目を剥きながら地面に伏してしまった。


「相馬君のスキル、前から欲しいと思ってたんだよね」

「秋津っ……」

「お前ぇぇぇええ!!」


 仲間である相馬を殺され、怨嗟の声を上げながら火村と南雲が掴みかかろうとする。しかし力が残っていない彼等は赤子同然であり、秋津の能力によって肉体を消し飛ばされてしまった。

 空に舞う二人の残骸を手で払いながら、秋津はつまらなそうに口を開いた。


「君達のスキルは既に上位互換を持ってるからいらないんだよね」

『チッ、いけ好かねー糞野郎だ。殺しに美学ってもンがねぇ。だがアキラ、アイツのスキルはかなり厄介だぜ。気をつけな』

(ああ、何となくだけど秋津の能力も分かってる。けど、それを差し引いても怖くねぇな)


 宿主の考えに、ベルゼブブはン?と些細な違和感を抱いた。

 今までの晃だったならば、秋津が仲間を殺した事に激昂するまででもないが、少なからず怒りや嫌悪感を表していた筈だ。さらに言えば、珍しくベルゼブブが注意を促しても平然とした態度を貫いている。

 だがそれは秋津の力を舐めているといった驕りや慢心ではなく、冷静な判断で下した絶対的な自信の表れであった。


『ヒハハハ!この野郎、また一皮剥けやがったぜ』


 帝国軍銀狼騎士団との大戦。佐倉詩織や西園寺麗華、エルフのマリアに全ての感情を吐露し、正面から受けて止めて貰い。覚悟を決め、獣人達の新たな獣王となる決意を固めた。

 それらの濃密過ぎる経験全てが、影山晃という人間を更に強く固く大きくしたのだ。


 早い、余りにも早い。

 魔王の想像を遥かに超えてくる人間アキラの成長速度に、ベルゼブブは歓喜した。


「ねぇ影山君、特別に僕のスキルを教えてあげるよ。その方が面白いからね」

「…………」

「僕のスキルは【強奪者】。その名の通り、相手の力を奪い取る力だ。今まで奪ってきた数は有に百は超えてるよ。どう?これを聞いて絶望したでしょ?」


 敢えて自分からスキルを明かす。それは余裕の表情でいる晃の動揺する顔を拝みたかったからだ。

 が、驚異的な数を聞いても晃は微動だにしなかった。


「……で?」

「……は?“で”って何さ、どうして何も驚かないんだ。百だよ?強力なスキルを百個も持っているのに何で平然としていられるのさ」


 全く動揺しない晃に対し逆に動揺しまくる秋津が困惑しながら尋ねると、晃はつまらないといった風に言葉を投げつけた。


「どれだけ強いスキルを持とうが、扱いきれなかったら宝の持ち腐れだろ」

「――言うじゃないか。だったら見せてあげるよ、僕の力の恐ろしさをね」

「弱い奴ほどよく吠えるって言うけど、その通りだな。ペラペラ喋ってないで、やるなら早くしろよ」

「っ……本当に君は人を苛つかせる天才だね。いいだろう、だったら今すぐにでも絶望を味わせながら殺してあげる」


 無意識で発した晃の煽りにキレた秋津がすかさず行動に出る。

【創造】スキルで日本刀を顕現し、ウインドウルフから奪った【疾風】の能力で瞬時に晃の間合いに詰め寄ると、【雷】を刀に纏わせ一閃。


「っ――よく防いだね!」


 秋津が繰り出した斬撃は晃が操っている黒スライムの盾に阻まれてしまう。ならばと秋津は【瞬間移動】で晃の上空に位置取り、【火魔術】と【土魔術】を合わせ隕石を模した塊を投げ落とす。


狼王ウルフェン咆哮ハウル


 回避は容易いが、その場合隕石が着弾した時の余波が後ろにいる獣人達に届いてしまうかもしれない。なので晃は左腕に狼の顔を作り出し、口腔から衝撃波を放ち隕石を木っ端微塵に粉砕した。


「へぇ、やるじゃないか!ならこんなのはどうだい!?」


 隕石が不発に終わった秋津は、次に【毒】【麻痺】【眠り】といった状態異常系のスキルを霧状にして散布した。因みに彼は全ての状態異常の耐性スキルを持っているので、自分には一切掛からない。


「すっ……ウルフェンハウル」


 秋津の動作と言動、加えて嫌な臭いを嗅ぎ取った晃は、再び左手から波状に咆哮を放って毒霧を吹き飛ばす。自身は毒を僅かに取り入れてしまったが、化物然とした肉体には何ら影響はない。


「よく見破ったねぇ、じゃあこれはど「グロウニードル」――ッづあ!?」


 口を開いている隙だらけの秋津に晃は長針を伸ばして肩を貫く。ワザと隙を作っているのだろうと思惑に乗って攻撃してみたのだが、単に馬鹿なだけだった。

 肩を刺された秋津は【瞬間移動】でその場から離れると、【再生】によって傷口を塞いでいく。


「痛いなぁ、人が喋ってる時に攻撃してくるなんて酷いじゃないか」

「なぁ秋津、俺達は殺し合いをしてるんだよな?どーもそういう雰囲気を感じねーから、こっちから仕掛けていいのか困ってんだよ」

「はぁ?突然何を言い出すと思えば、そうに決まってるじゃないか。まぁ、殺し合いというよりも君が一方的に殺されるの方が正しいけどね」

「そうか」


 そう呟くと、晃の姿が掻き消える。


「え?」

「ナイフ」

「あっぶな――ぁぁ■■あああ!!!?」


 【危機察知】により背後に現れた晃の気配を感じた秋津は咄嗟に身体を捻るも、回避に間に合わず左腕の肘を斬り飛ばされてしまう。【痛覚耐性】のお陰で多少の痛みは平気だが、それでも痛いものは痛い。

 何が起きたのか理解出来ず混乱している秋津は、追撃を恐れ【瞬間移動】で逃げ延びながら【再生】によって左腕を元に戻す。


「クソ、やってくれがぁ■■ああ!!?」


 腕を斬られてキレる秋津が晃を探そうとした瞬間、顎を思いっきり蹴っ飛ばされその身が上空に舞い上がった。


「ハンマー」

「て、テレポート!!」


 黒スライムをハンマーの形にし、既に上空で待ち構えていた晃が得物を振り下ろす。秋津は慌てて【瞬間移動】を使い、間一髪で逃げ延び地上に立つ。

 秋津が空を見上げながら【重力魔術】によって晃を打ち落とそうと両手を掲げた刹那、後頭部を鷲掴みされてしまった。


「ふん」

「ぷぎゃあ……あぁ」


 晃は秋津の頭を掴んだまま地面に叩きつける。それを何度か繰り返した後、ゴミを捨てるように放り投げた。

 秋津は地面をバウンドしながら転がり、ようやく止まると這い蹲りながら晃を睨め上げる。


「な、何でッどうして……テレポートしてる僕より君の方が速いんだ!?」

瞬間移動それは確かに便利な力だ。だが同時に致命的な欠点もある」

「け、欠点だって……?」

「一瞬で移動する最中、お前は俺の気配と姿を“完全に見失ってしまう”。弱い奴と戦う時は大きなアドバンテージになるが、強敵と戦う場合それは悪手でしかない。戦ってる最中に相手を見失うなんて命取りに他ならないからな」

(……見失うって言ったって、本当に一瞬の事なんだぞ?何でその一瞬でそこまで出来るんだよ馬鹿だろッ)


 心の中で毒付く秋津。しかし彼が愚痴を吐くのも無理はなかった。瞬間移動で目を離すなんて文字通りほんの一瞬で、寧ろ敵対する者が自分の居場所を探すのに手間どうのが常である。なのに晃は、その一瞬で秋津の居場所を突き止める所か既に攻撃態勢を整えて待ち構えている。

 とても常人の成せる所業ではなかった。

 だが晃は、もっと“速い”敵と死闘を繰り広げた事がある。


 帝国軍銀狼騎士団1番隊隊長ビート。

 彼が人間の限界を超える『闘神招来』を使用し雷を纏った状態は常時瞬間移動している程で、まばたきすら許してくれない速度で襲い掛かってくる。

 戦闘している時は目で追うのがやっとで、経験と直感に頼ってギリギリ防ぐことしか敵わなかった。原獣覚醒したセスが助太刀してくれなかったら、敗北していたのは晃の方であっただろう。


 そんな化物染みたビートと比べれば、秋津の瞬間移動はお粗末と言っても過言ではない。彼の心理を読みながら逃げ場所を特定し、事前に動く事などビートとの死闘を経た晃には造作もないことだった。


「手応えとしてはもう死んでいてもおかしくないと思うんだが、意外と頑丈なんだな。どうせそれも、スキルの力なんだろうが」

「……ぅぐ」


 図星を突かれ呻き声を漏らす。

【痛覚耐性】【頑丈】【衝撃緩和】【再生】、他にも多くの身体強化スキルのお陰で意識を保っていられた。それらが一つでも欠けていたら秋津はとっくに死んでいただろう。

 非力な強奪者は奥歯を噛み砕きながら老人のように立ち上がり、怨嗟の声を上げる。


「調子に乗りやがってッ……少しチートスキルを引いたからって良い気になるなよ。いいさ、もう遊びは終わりだ。君のスキルを奪って殺してやるよ!スキル解放――モード【The Robber】!!」


 刹那、秋津の姿が禍々しく変貌していく。

 全身を古びた漆黒のローブで覆い隠し、右腕は闇色のエネルギー体となって鈍く輝き、フードを被った奥の顔は醜悪に歪んでいた。


 スキルを解放した秋津は、若干ノイズの掛かった声で不気味に嗤う。


「フヒ、フヒヒヒヒヒ。どう?どう?スキルを解放した僕は。流石にビビったでしょ。あのね、この姿の僕はどんな物でも奪い取ることが出来るんだ。力も、身体も、記憶さえもね」

「……」

「今更謝ったって許してあげないよ。まずはスキルから頂こうかな、それで何も出来なくなった君から、一つずつ大切な物を奪っていくんだ。どうだい?恐ろしくて声も出せなくなったかい?」

「く……は、ははははははははは!!」

「……な、何がおかしいんだ、気でも狂ったのか!?」


 突然大きく笑い出した晃に秋津が戸惑いながら問いかけると、彼は「悪い悪い」と手を振りながら続けて、


「お前が的外れな事ばかり言うから可笑しくてな。つい笑っちまった」

「……何が的外れなんだ」

「お前は俺のスキルをチートだと思ってるみたいだから教えといてやる。俺のスキルは【共存】って言ってな、それ自体に力は何一つないクズスキル。それどころか、このスキル者には問答無用で試練や困難が降りかかってくるクソッタレでリスキーなスキルだ。じゃあこのスキルは何の為にあるのか……それは七つの大罪スキルと共存出来る力がある。なぁ――ベルゼブブ?」

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