第161話本当に秋津か?
「う……そだろ?」
「信じられねぇよ、スキルを解放した雅人が負けるなんて」
「ど、どうする?」
「どうするって……そりゃ逃げるしかないっしょ」
「だよな。なんか影山クッソ強くなってっし、俺等じゃ勝てねぇべ」
自分達のリーダーである九頭原が赤子の手を捻るように負かされた一部始終を見ていた取り巻き達の結論は早かった。
晃に勝てないと察し一目散に逃走を図ろうとする。脱兎の如く逃げ去る後ろ姿を見て、晃はほんの少しだけ九頭原に同情した。
(躊躇もなく仲間を一人置いて逃げるのか……)
晃の周りは仲間を置いて逃げる薄情者なんて居なかった。
佐倉詩織、西園寺麗華、寺部静香、マリア。見ず知らずの獣人達でさえ、身を挺して晃を守ってくれた。だからこそ、今まで一緒に歩んできた仲間に裏切られた九頭原を憐れに想う。
「言ったはずだぞ、俺はお前等全員生かして帰すつもりはないってな。
背中から触手刃を五本放ち、逃走する取り巻きを背後から容赦なく襲いかかる。
「ひっ――」
「――やめっ」
「水りぐぇぇ!」
「がはっっっ」
大久保と福田の首を刎ね、石川と福田の心臓を貫く。たった数秒の出来事だった。九頭原と取り巻き達を慈悲なく殺した晃は、残りの五人に視線を向ける。
「次はお前等だ」
晃がそう告げると、秋津が拍手をしながら不気味に微笑む。
「くっくっく、いやいや凄いね影山君。あの九頭原と雑魚共を一人で殺っちゃうなんて、どんだけ強くなっちゃってるのさ。いやー驚いたよ、もしかして【共存】スキルはチートスキルだったのかな?」
「…………」
ベラベラと話す秋津の様子が解せない。
仲間である九頭原達が死んだというのに一切動揺する気配を見せない所か、知ったこっちゃ無いと言わんばかりの余裕な態度だ。
そもそも、秋津含めて他の四人は一度も加勢して来なかった。九頭原達が死ぬのをただ黙って眺めていただけ。
(アレは秋津だよな。他の奴は覚えがねえ、A組の生徒か?)
秋津の顔は覚えていたのですぐに分かったが、彼の近くにいる四人は全く知らなかった。なので恐らくA組の生徒だろうと判断する。
「あー、先に言っておくけど影山君。僕含めここにいる四人は九頭原達みたいに雑魚だと思わないでね。こっちの人達は、僕が直々にスカウトしたエリートなんだからさ」
「お前……本当に秋津か?」
「そうか……そうだね。影山君、君の知ってる九頭原にパシられていた秋津駿太は死んだんだよ。そして生まれ変わったんだ、この異世界でッ」
九頭原が吹っ飛ばされた方向を顎で示しながら話す秋津に違和感を覚える。
晃の知っている秋津駿太という人間は気が弱い印象がある。九頭原達にパシリにされていたし、教室ではいつもオドオドしていた。
そんな彼が、九頭原を雑魚と罵っている。
ただの予想だが、秋津も強いスキルを得て人間性が凶暴的になってしまったのかもしれない。
そんな晃の予想は、見事に的中していた。
「影山君、九頭原なんか雑魚に勝ったからってイキがっちゃ駄目だよ。ふふふ、そうだ、君には面白いものを見せてあげよう。皆んな、やるよ」
愉しそうに嗤う秋津がパチンと指を鳴らすと、A組の四人が一斉に内なる力を解放した。
「「スキル解放――」」
「モード【Flame Surgeon】」
「モード【Windman】」
「モード【Time Emperor】」
「モード【Dual Blader】」
【炎術師】の
【風術師】の
【時魔術】の
【双剣士】の
彼等を包んだ眩い光が落ち着くと、そこには格好が一変した四人の姿があった。
秋津はスキルを解放したA組の生徒達に手を向けて自慢気に口を開く。
「どうだい影山君、彼等全員スキルを解放を習得済みなんだ。それに九頭原のように暴走したりせず完璧に使い熟しているよ。ああ勿論、僕も出来るけどね。九頭原達お馬鹿さんは僕等がスキル解放を習得してると知らずイキってたけど、本当あいつ等って馬鹿だよね」
「御託はいいから早く掛かってこい」
「……へー、これを見てまだそんな余裕があるんだね。そうだよね、影山君ってそういう人だったよね。でもなんかムカつくなぁ……うん、九頭原の気持ちも少しだけ分かったかも」
スキル解放をした四人に囲まれて身昔の自分のように情けなく体をガタガタ震えさせるだろうと期待していた秋津。だが彼の期待した展開にはならず、晃は一切合切表情を変えず平然としていた。
助けて貰った時は心強かったが、いざ自分にされると癪に触る。九頭原が晃の事が嫌いな一端を体感した秋津は「もういいや」と舌打ちした後、
「皆んな、殺っちゃってよ」
「了解」
「分かりました」
「奴を殺せばいいんですね」
「任せておけ」
四人は殺意を漲らせ、晃を殺さんと動き出した。
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