第159話見た目だけなのだ

 




「んだよ、ここにも雑魚しか居ねぇじゃねえかよぉぉおおお!!」

「グォアアッ!」


 九頭原雅人による斬撃を受け止めきれず、鹿獣人のデラルは薙ぎ払われてしまう。地面を這い蹲る彼の周りには、多くの戦士が討ち倒れていた。


 獣人戦士達を地に伏せたのは、リーダーの秋津駿太率いる『夜明けの団』のメンバー。数は十人程で、全員が異世界に転生した高校生だ。

 この場にいるのは秋津を含め、九頭原と取り巻きが六人。秋津が王国を出る際にスカウトした2年A組の男子が四人。

 他にもメンバーはいるが、非戦闘員収容基地に襲撃しているのはこの十人であった。


 基地を守護する獣王軍団の兵士は百名弱居たが、『夜明けの団』による襲撃に成す術もなく蹂躙されてしまった。


「つまんねぇつまんねぇ、どいつもこいつも雑魚ばっかじゃねーかよ」

「どうやら此処は外れみたいだね。どうする、別の場所にするかい?」


 簡単に終わってしまった戦闘に満足出来ず荒い声を上げている九頭原に秋津がそう提案するが、彼は唾を吐いて拒否する。


「このままじゃ収まらねぇ、ここにいる奴等全員ぶっ殺してやる」

「おっ、いいねー雅人!その話乗った!」

「珍しい獣人とかいるかなぁ」

「可愛い子いたらヤっちまお」

(ゲスいなぁ……ま、僕も可愛い獣人居たら助けて奴隷にしちゃおっかな。あれ、そうすると僕もゲスいのか?まぁいいや)


 九頭原と取り巻き達を半目で眺め軽蔑しながらも、自分も同様の事を考えて開き直る秋津。

 そんなふざけた彼等を見て怒りが沸くデラルは、震える脚に鞭を打って立ち上がる。


「ハァ……ハァ……貴様等人間はいつもそうだ。我等獣人をただの獣としか思っていない。殺しても問題ない、奴隷にして尊厳を踏み躙っても構わないと平気で思っている」


 巫山戯るな。


「我等は生きている。話も出来る、知性もある、感情だってある。違うのは見た目だけだ、見た目だけなのだ。たったそれだけの些細な事で……貴様等人間は獣人を下等生物と捉え好き勝手に手を下す」


 巫山戯るな。


「我等からすれば、貴様等の方がよっぽど愚かな生き物だ!貴様等のような醜い化物に、我等の命を弄ばれてたまるか!!死んでもここは通さんぞ!!」


 細い脚で大地を踏み締め、両手を広げるデラル。彼の背後には守るべき民がいる。例え命に代えようともこの場を死守してやる。

 懸命なデラルの姿を目にしても尚、九頭原達の感情は一瞬さえも揺れ動かない。指さし、腹を抱えて嗤っていた。


「何あの鹿、必死過ぎてウケるんですけど笑」

「知らねーよそんなもん、どうでもいいわ」

「じゃあ、死ねや」


 前に出る九頭原が、長剣を一閃してデラルの首を刎ねる。地面に転がったデラルの頭を石ころのように蹴飛ばしながら、九頭原達は基地の門を破壊した。


「ちっ……」

「うわー……マジでガキとジジババしか居ねぇじゃん」

「流石になぁ〜、これじゃ反応しねぇわ」

「えっ、俺は全然イケんだけど」

「マジ?お前キッショ」

(えっ……僕もあの子とか凄く欲しいんだけど)


 避難民は老人と小さい子供だけだった。

 獣人は戦闘力も高く誇り高い生き物で、大切な者を守る為ならば女でも戦場に向かう。なのでこの場にいるのは年老いて戦えない老人と力の無い小さな子供だけである。


「お願いだ、ワシ等老ぼれの命はくれてやる。しかし子供達の命だけは見逃してくれまいか。頼む、この通りだ!!」

「うるせぇんだよ」

「アガッ」

「お爺ちゃん!!」


 亀獣人の老人が地べたに頭を付けて懇願するも、九頭原はその頭を無慈悲に蹴り上げる。呻き声を上げて転がる老人を心配して近付く女の子の肩に、取り巻きの一人が銃弾を浴びせた。


 パァンと乾いた銃音。舞う血飛沫。

 倒れる幼女。


「イタい……イタいよぉ……」

「こんな子供になんて仕打ちを……お主等は悪魔じゃ」


 女の子が撃たれた所を見ていた獣人達は恐怖で身体を竦ませる。

 怯える彼等に、九頭原は眉間に皺を寄せながらこう言い放った。


「そこのガキだけじゃねぇ、テメェ等全員生かすつもりはねえから。おいお前等、やれ」

「うーい」

「やるかぁ」


 まるで今から遊びを始めようかというノリで獣人達に刃を振り翳す九頭原達。子供達は泣き叫び、老人達は子供達を守ろうと盾になり庇おうとする。


「はは、死んじゃえー」

「ヒッ――」


 取り巻きの一人が小さな男の子に刀を振り下ろそうとした――その時。




「お前等、何をしている」



 一陣の風が吹いたと同時に漆黒のナイフが、刀を握っている腕を斬り飛ばした。

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