第158話控えめに言って最高でした

 



 ちょっと佐倉さん!?

 今俺、結構しんみりとした空気で話したよね。さっきからシリアスぶっ壊し過ぎてないか。

 というかお前……急にセックスしようって。そんな事口にする人じゃなかったよね。


 彼女の暴走っぷりに困惑して口を開けないでいると、佐倉は腕を組み大きな胸を張って何故か堂々とした態度で申してきた。


「影山はボクの事が好き。女性的にも魅力があると言ってくれた。ならばもうヤる事はセックスしかないじゃないか」

「待ってくれ……俺の常識が間違ってるのか?そういうのって、もっとこう付き合って愛を育んでからするものなんじゃないのか?うわぁ……なんか自分で言ってて無性にこっ恥ずかしくなってきた」

「確かに君の言う通り、セックスは恋人になり徐々に段階を踏んでから致す行為だとボクも思うよ。だがよく考えてくれたまえ、君が今言ったように、ボク等の関係は強い絆で結ばれている。そこら辺にいる有象無象のカップル共よりも、遥かに強い絆だ。であるならば、ボク達がセックスしようと何の問題も無いという事だ」


 う、うーん…………そうなんだろうか?。

 何だろう、勢いに任せて誤魔化せられてる気がしなくもない。

 頭を悩ませていると、呆れた風にため息を吐いている麗華が助け舟を出してくれた。


「貴女……さっきからセックスセックスとはしたないですわよ。晃の気持ちを少しは考慮したらどうなんですの」

「なら君は影山とセックスしたくないのか?」

「ッ!?それは……どちらと聞かれましたらしたいですけど……今の迷っている晃としても不本意ですわ」

「なら指を加えて黙って眺めているがいい、ボクが影山の童貞を貰う所をな」

「ど、童貞って……!貴女いい加減に……」


 麗華が顔を真っ赤にさせて抗議しようとするが、佐倉は全て無視して真剣な眼差しを俺に向けてくる。


「いいか影山。前に一度言った筈だ、ボクはもう君を絶対に離さないと。だからボクは君の全てを奪う、心も……身体もだ。そして君に、ボクという存在を深く刻み付ける。冗談で言ってるんじゃない、ボクは本気だ」

「……」


 言葉の通り、佐倉の目は本気だった。

 戦場に向かう時のような、覚悟を宿した瞳だった。ならば俺も、覚悟を決めるしかない。

 今までだって俺は、重要な場面で覚悟をしてきてた。


 もう悩むのはヤメだ。


「分かった、やろう」

「……よし!!」


 俺がそう言うと、佐倉は心底嬉しそうにガッツポーズを決める。

 そんな喜んでいる彼女には悪いが、俺は続けてこう提案した。


「ただ、俺は麗華ともしたい」

「ええ!?わ、わたくしもですか?」

「ああ。俺は佐倉だけじゃなく、麗華も好きだ。もし佐倉とだけやって、麗華とやらずに後々後悔したくないし、後悔させたくもない。だったら、二人纏めて相手をする。俺は二人の事が同じくらい好きだから」

「……本気なのは分かりましたけど、言ってる内容は大分クズですわよ?」


 だろうな、と肩を竦める。

 簡単に言えば「どっちも好きだから3Pしようぜ!」とクズ発言するゲス野郎に違いない。

 けど今の俺は佐倉の言葉もあってどこか吹っ切れていて、別にゲス野郎上等だよぐらいの気持ちでいた。


 真剣な眼差しを送りながら答えを待っていると、麗華は大きなため息を吐いて優しく微笑んだ。


「詩織と一緒にというのは一人の女として納得いきませんけど、まぁ今回は許してあげますわ」

「良かった……」

「そのかわり、優しくしてくれなきゃ喰い千切りますのでご容赦くださいまし」

「ひぇ」


 一体ナニを喰い千切るんですか?

 そんな縮こまる恐いこと言わないでくれないかな。


「佐倉はそれでいいか?」

「癪だけど妥協しよう。けど、影山の一番は絶対譲らないけどね」

「あら、わたくしも二番で甘んじるつもりはありませんわよ。こうなったら勝負ですわね」

「いいだろう、受けて立つ」


 こらこら、本人のいる前でバトル展開始めないでくれるかな。なんか恥ずかしくなってくるから。


 こうして、ムードもへったくれもないまま、俺達三人はその後一日中愛し合ったのだった。




 ◇




「はぁ〜〜、しんど……」


 基地の屋上。

 塀に寄り掛かり、日の出を眺めながら黄昏る。

 昨日の午後から今さっきまで、休みなく佐倉と麗華と身体を重ねていた。


 率直な感想を言えば、“凄かった”。

 互いと互いを求めて合い、身体と心が満たされるまで愛し合う。

 まるで天国にいるような気分だった。


 しかし……そんな気持ち良い気分でいられるのは行為を始めてから数時間だった……。


 最初は最高だったよ。

 二人の反応は初々しくて可愛いし、やること全てが新鮮だった。

 だが回数を重ねていく内に、二人はより貪欲に、狂ったように俺を求めてくる。


 いやちょっと待ってくれ。

 少しは休憩しよう。

 もういいんじゃないか?

 寝ない?


 徐々に疲れてきたのでやんわりと提言してみるも、彼女達は聞く耳持たず俺の身体を容赦なく隅々までむさぼってくる。

 男としての意地プライドを保つ為にも限界を突破して何とか勝ちを拾ったが、その代償は高くついた。


 主に腰が痛い……。


(何なんだアイツ等、どんだけ性欲強いんだよ。童貞が相手するのにはキツいって……。しかも二人同時に相手にさぁ……)


 やっと満足してくれたのか、二人は今幸せな寝顔を浮かべてぐっすり寝ている。俺は疲労したのとテンションが上がり過ぎて寝れない為、冷たい風を浴びていた。


『ヒハハ、昨夜はお楽しみだったナ』


 頭の中でベルゼブブが茶化してくる。

 顔を見ずとも、奴がニヤニヤしているのが分かってムカついてきた。


「なぁベルゼブブ、ちょっと聞きたいんだけど、エッチしてる時も感覚共有してたのか?」

『馬鹿野郎、ンな気持ち悪ィ事誰がするかよ』

「あー……それを聞いて少し安心したわ」


 俺とベルゼブブは五感を共有している。

 食べ物の匂いも、味も、食感も分かる。それどころか、感情さえ分かってしまう。それは肉体の主従関係を交代しても同じだ。


 なのでもし、俺が彼女達とHしてる時の感覚だとか感情が筒抜けだとすれば無性に恥ずかしいし気不味くなるだろう。


『で、どうだったよ。初めての女の身体は』

「控えめに言って最高でした」


 何故かその後も続いたベルゼブブによるゲスい質問をのらりくらり躱していると、背後に人の気配を感じたので後ろを振り向く。


「昨夜はお楽しみだったようだな」

「セス、お前までオヤジっぽい事言うなよ……」

「フン。一日中盛って、獣人われらよりも性欲が強いのではないか?シオリ達の嬌声に当てられたのか、他の者まで発情してしまったぞ」

「……それは悪かったな」


 呆れた風に説教してくるセスに頭を下げる。すると彼女は肩を竦めて、柔らかい雰囲気で微笑んだ。


「冗談だ、気にするな」

「ああ、そう」

「ここから真面目な話だが、非戦闘員を収容している基地が帝国が雇った傭兵団に襲撃されているとの情報が入った。すぐに救援に向かわなければならないのだが、どうする獣王」

「もう来てたのか……思ったより早いな。その件は魔王から聞いている。セスはここの事を頼んだ。行くのは俺と……マリア、行けるか?」

「アキラ様のご命令なら、私は何処までもお供します」

「マリアッ!?……いつの間に……」


 突然背後に現れたマリアに気付いて驚くセス。俺は最初から気付いていた。セスが俺に声を掛けてきた時にはもう既に居たからな。全く足音とか聞こえなかったけど。


「アキラとマリアだけで行かせられる訳がないだろう。希望になったお前まで失ってしまったら、私達獣人は今度こそ立ち上がれなくなってしまう」

「大丈夫だセス、心配すんな。お前達を残して逝くなんて無責任なことは絶対しない。それに今の傷ついている獣人達じゃ満足に戦えないと思うし、逆に俺の足枷になっちまう可能性もある」

「しかしだな……ならせめてレイカとシオリだけでも連れていかないか?」

「あの二人はこのまま寝かせておいてくれ。正直言うと、二人には“見せたくない”」


 俺がそう頼むと、セスは「分かった」と渋々頷いた。


「じゃあ行ってくる。ここは頼んだぞ」

「御武運を……」

「ああ」

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