第157話デレ期

 





「あれが魔王か。もっとゴツいのをイメージしていたけど、あそこまで美しいと苛ついてしまうね」

「凄いお方でしたわね……。遠目からでしたが、あれ程の存在感を放つ人は見た事がありませんわ。そんなお方と晃は、やけに親しそうに見えましたけど」


 ……どうしてか、アルスレイアに対する佐倉と麗華の当たりが強いんだが。というよりも、俺に非難の目を向けている。態度も若干トゲトゲしいし……思い当たる節が全然無いんだけど。


『ヒハハ、テメェはドンカン過ぎンだよ』

(鈍感って……アルスレイアと話していただけだぞ。そんなんで嫉妬する?)

『嫉妬する程アキラに対して独占欲があンだろーよ』

(へぇー、成程なぁ)


 って、つい感心しちまったけどベルゼブブってこういうのに結構敏感というか詳しいよな。人間の俺よりスキルのお前が詳しいってどういう事よ。


『単にテメェよりは色々経験してるって事ダ』


 まさかコイツにも色恋の経験があるのだろうか。

 そう言えばベルゼブブについて聞いた事無かったな。今まで色んな事が起こり過ぎて聞ける余裕が無かったし、初めの頃はベルゼブブにそんなに興味も無かったからな。

 生い立ちや過去の共存者とかの話しとか後で聞いてみるか。


「そう言えば、佐倉達はどうして俺がここにいるって分かったんだ?神崎や剣凪は無事だったのか?」


 追求を免れようと強引に話題を変える。

 佐倉達に助けられてからバタバタしていたので聞くタイミングを逃していたが、落ち着いている今ならゆっくり聞けるだろう。


「君は誤魔化すのが下手だな。はぁ、まあいいか。じゃあまず君がボク等を置いて一人でベヒモスと死のうとした後について話そうか」


 冷たい視線を送ってくる佐倉。やっぱあの時のこと根に持ってるな。


「君に最終階層を追い出されてすぐ、ボク等の身体は光に包まれ気が付いたらダンジョンの外にいたんだ。ああ因みに神崎も剣凪も無事だよ」

「……そうか、アイツ等も無事だったんだな」

「起きてすぐにダンジョンに戻ろうとしたんだけどそれは無理だった。入口が無くなって入れなかったんだよ」

「あの時の詩織の取り乱しようは凄かったですわよね」


 その光景が目に浮かんでくる。涙を流しながら閉じられた入口を叩き付ける。開けろと叫び続ける。その悲しい姿が想像出来る。

 もし俺が佐倉の立場だったら、きっとそうするだろうから。


「ダンジョンは消滅した。ボクは絶対に影山が生きていると信じていたから、直ぐにアウローラ王国を出て君を探すそうと行動に出た」


 へぇ、ダンジョン消滅したのか。


「ついでだと思って麗華も誘ったんだ」

「詩織に誘われた時は少し迷いましたけど、わたくしももう一度晃とお会いしたいと思いましたから」

「少し?ボクには大分悩んでいたように見えたけどね」

「そ、それは言わない約束ですわよ!」


 何だか二人共随分と仲が良くなったな。いや違うか……仲が良いとかそんな簡単な表現ではなく、絆が結ばれたと言うべきかもしれない。

 いつの間にかお互いを名前で呼び合ってるし。佐倉に関してはあれだけ麗華の事を嫌っていたのに一体何があったんだろうか。


「わたくし達は晃を探す旅に出ましたわ。けれど闇雲に探していた訳ではありませんわよ。おおよその居場所は分かってました」

「マジか凄ぇな、何で分かったんだ?」

「晃から【共存】スキル者には試練が訪れると前々から聞いていましたわね。貴方と一緒に居て実際に試練を体感してきたわたくし達は、それがヒントになると踏みましたの。昨今の世の情勢は、帝国軍と魔王軍の全面対決で持ちきりですわ。もし晃が生きていた場合、その戦争に巻き込まれる可能性が高い。だからわたくし達は戦場に向かったのですわ」

「それに加え、何故だかボクは影山の居場所が何となく分かるんだ。多分これは愛の力だと思うんだけどね」


 佐倉の話は今はスルーしておいて。

 成る程なぁ。

 じゃあ俺は【共存】スキルのお陰で二人に再会する事が出来たのか。いつも迷惑ばかりかけられてきたけど、偶には役に立つじゃねえか。


「帝国軍と魔王軍との戦場に近づくにつれ、厄介事に巻き込まれる数が増えていきましたわ。時には山賊と戦い、時には凶暴な魔物と戦い、時には両軍と小競り合いにもなりましたわ。まぁ、この世界でわたくし達はかなり強い部類でしたので、それほど困難では無かったですけど」


 とは言ってるが、その道のりは険しく過酷なものに違いない。女の子がたった二人で旅に出るんだ。俺の想像を遥かに越えたものだっただろう。

 その過程で恐らく、彼女達は人も殺してしまっている。命の危機に瀕した事もあったかもしれない。

 危険を冒してまで俺を探してくれた事に申し訳なく感じるも、凄く嬉しい。めちゃくちゃ嬉しかった。


 だから俺は、二人に向けて真摯に告げる。



「佐倉、麗華。ありがとう。俺が生きてると信じてくれて。俺を探してくれて。俺を助けてくれて。二人に出逢えて、本当に嬉しいよ」



 精一杯の感謝を伝えると、何故か佐倉と麗華の表情がみるみる真っ赤に染まってゆく。


「んなッ……何だい急に!?デレ期か、デレ期なのか!?影山のこんな顔ボクは今まで一度だって見た事ないぞ!!」

「そうですわね……わたくしも晃の暖かい微笑みは初めて見ますわ。いつも無表情か怒ってる顔ばかりですから。何というのでしょうか、胸の奥がキュンとしましたわ。これが母性という感情でしょうか」


 えぇ……なんか思ってた反応と違う。

 今のってジーンとくる感動シーンじゃないの?なのに何でほんわかしてんだよ。

 それに笑わないってどういう事よ。人を機械みたいに言いやがって。俺だって普段から笑ってるだろ。

 ……笑ってるよな?


『ヒハハ、この際だから教えておいてやるよ。テメェはいつも何考えてンだか分からねー顔してるぜ。結構喋る方だが、感情は表に出さねータイプだな』

(マジ?)


 今初めて知ったわ。俺って顔に出ないんだな。自分では結構笑ってるつもりだったんだけど。


「んんっ!気を取り直しまして。晃のお気持ちは有り難く頂戴致しましたわ。わたくし達も貴方と会えて本当に嬉しく思います。所で晃、わたくし達への返事はいつ頃してくれますの?」

「返事……って何の返事だ?」

「嫌ですわ、何度も言わせないで下さいまし。晃への告白の返事に決まっているではありませんか」

「もしかして君、忘れたとは言わないよな?」

「告白……?」


 首を傾げ、記憶を呼び覚ます。


『決まってるじゃないですか。晃が好きだからですわ』

『影山晃、ボクは君が好きだ。地球とこの世界の二つを含め、世界中の誰よりも君を愛している』



 ……………あ。



(すっかり忘れてたな……)


 あの時は頭の中がぐちゃぐちゃで思考力も大分落ちてたし、立ち直ってからも獣王宣言したりアルスレイアが来訪したりとあわただしかったから記憶から飛んでたわ。


 そうか……俺、二人に告白されたのか。

 がっつり好きだって言われてたよな。

 なら、ちゃんと返事をしなきゃ駄目だよな。


(けど、なんて返事をすればいいんだ?)


 二人の女の子から同時に告白される。

 俺の人生の中で、そんなモテ男が繰り広げるようなイベントは一度も無かった。というか、告白さえされた事は無かった。

 この場合、俺はどっちと関係を結べばいいのだろうか。


 ……いや待て、そうじゃないだろ。

 影山晃、お前は佐倉詩織と西園寺麗華の事をどう思っている?

 まずそこだろ、大事なのは。


 瞼を閉じてじっくり考える。

 今まで彼女達と過ごした時間を反芻しながら、俺は少しずつ言葉を紡いだ。


「俺は佐倉と麗華の事が好きだ。この世界で大切な人、信頼出来る人は誰かと聞かれたら間違いなく二人の名前が出るくらいに。けど……それが深い仲になりたいっていう恋愛感情なのか判断出来ない。なんと言えばいいのか……俺は二人の事を戦友っつーか仲間だと思っていて、恋愛感情よりももっと特別で深く強い気持ちがあってだな……。だけど、二人に女性としての魅力を感じてない訳じゃないぞ?佐倉は可愛いし麗華は綺麗だし、こう……スタイルもいいし?」

「よし、じゃあセックスしよう」

「ええ!?」

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