第144話叫び
「……アキラっつったか。立ってるのも辛いんじゃないのか?そんなガタガタの身体のお前がどうしてまだ魔族の為に牙を向ける」
「……」
「キングは死んだ。頭が死んだんだよ。この
ヴォルフの言葉を耳にして、アキラはふと背後を見やる。
セスが涙を流しながら倒れ伏すキングに寄り添っていた。
シュナイダーは顔を伏せ、マリアは悲壮な表情を浮かべている。
獣王軍団の獣人兵士は、キングが敗けた、死んだと耳にしてから戦意が喪失し、地べたに這いつくばっている。
確かにヴォルフの言う通り、晃以外に戦う意志のある戦士は誰一人として存在しなかった。そんな残酷な光景を目の当たりにし、晃は顔を上げて、
「お前がどんな理由で魔族に加勢してるかは知らねぇし、知る気もねぇ。だがよぉ、ノコノコこの場に現れたのは後悔するんだな。残った魔族と一緒にお前を殺して――
「――立てぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え""え"え"え"え"え"え"え""え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え""え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"っっっ!!!!!」
吠えた。
その叫び声は、戦場にいる全ての戦士に届く。
「キングが死んだ!?大将が敗けた!?たったそれだけでテメェ等は何も出来なくなっちまうのか!!?」
その叫び声は、戦士の胸の中にある誇りを激しく叩く。
「これは何の闘いだ!?誰の闘いだ!?お前等魔族の闘いだろっ、自分自身の闘いだろ!!家族だろーが、友人だろーが自分自身でもいい。誰かの為に、大切な者の為に戦ってんじゃねーのかよ!!?」
その叫び声は、戦士達が失いかけた心に灯火を燈す。
「それが何だ!?キングが死んだだけでもう駄目か、もう諦めるのか!?あ"あ"!?テメェ等の闘いは、その程度のモンだったのかよ!!?」
その叫び声は、戦士達の身体を熱く震わせる。
「お前等の足は何の為にある。何度でも立ち上がる為じゃねえのか!お前等の手は何の為にある。武器を、拳を振るう為じゃねえのか!!?諦めるなら立てなくなってから諦めろ、手を失ってから諦めろ!!両方あってもし闘いたくねぇっつうんなら手を上げやがれ、帝国に殺される前に今すぐ俺がぶっ殺してやる!!」
戦士達は顔を上げる。
見た事もない人間がいた。名も知らぬ人間がいた。
魔族でない人間が、魔族の為に、ヴォルフと対峙しながら叫び声を上げていた。
「立て!」
その背中は小さい。獣王と比べたら、遥かに小さい。
だがどうしてだろう。
小さいはずのその背中が、獣人達の瞳にはキングのように大きく映った。
「立て!!」
這いつくばっていた獣人達は自ら落とした誇りと武器を取り、静かに立ち上がっていく。
その心は熱く燃え上がり、瞳の中に宿る戦意が迸る。
もう誰一人として、諦める者は居なかった。
晃は再び、叫んだ。
「闘えぇぇぇぇえええええええ!!!」
「「「オオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」」」
あれほど絶望していた獣人達が息を吹き返した。彼等の雄叫びは大きく、まるで一匹の巨大な獣が叫んでいるかのよう。
その雄叫びに、帝国兵士が気圧され慄いてしまう。
獣人達を立ち直らせる為に晃が放った戦意高揚の言葉に、ヴォルフは感嘆の念を抱いていた。
(敵ながら天晴れと褒めてやりたいぜ)
実際、晃は隙だらけだった。
ヴォルフで無くとも容易く斬り殺す事が出来ただろう。
だが彼含めその場から動けず、手出しが出来なかったのは単に晃の叫びに聞き魅入ってしまったからだ。
敵を圧倒し、味方を鼓舞する姿は王のようであった。
いや、“ようではない”。
(アキラの言葉には王気が乗っていた。王の器を持つ資格のある者にしか与えられない、王気が……)
同じ王の器を持つ者として、ヴォルフは晃から発せられた王気を感じ取っていた。それも、ヴォルフよりも質の高い王気だった。
だから彼ですら晃の言葉に耳を傾けてしまったのだ。
「認めよう、アキラ。お前はこの戦場にいる誰よりも気高い。もし違う道があったのならば、お前と共に肩を並べて戦いたかった。その道が無かったのなら、お前の存在は邪魔でしかない。この場で確実に摘み取らせて貰う」
「ごちゃごちゃ言ってねーで掛かって来いよ」
満身創痍の二人が闘いを始めようとする中、この男にも晃の叫びが届いていた。
◇
『よぉキング、おめー最近荒れてるそうじゃねえか。何をそんなにイラついてんだ』
『オレ様より強え奴がいねぇんだよ!どいつもこいつもすぐに終わりやがる。つまんねー戦いばっかでムカつくんだよ!!』
『カッカッカッ!!そうかそうか、
『いつまでもガキ扱いすんじゃねぇよ!オレ様と対等に闘える奴なんてヴォルフぐらいしか居ねーんだ。なのにあの野郎、なんとか番隊の隊長とか偉くなっちっまって中々戦場に出て来なくなってよぉ……』
『おお、あの銀坊が隊長になったのか。大人になったんだなぁ。それでお前は不貞腐れてんのか……グフフ、まだまだガキだねぇ』
『五月蝿ぇ、笑ってんじゃねーよ。だったらアンタが相手をしてくれよ!』
『断る!何故なら腰が痛いから。遊び相手が欲しいならアルなんてどうだ?』
『姫と?ハッ、あんなチンチクリンなガキがオレ様の相手になる訳ねーだろーが』
『いやー分からんぞー。アイツは俺なんかよりも偉大な魔王になると思うぜ。勝てるのは今の内だ、早いとこ威厳ってやつを見せておかないと後で後悔するぞ』
『ハンッ、ガキと喧嘩するほどガキじゃねー』
『あー言えばこー言う、難しい歳頃だねぇ。仕方ない、そんな悩める
『いつもの戯言ならもう行くぜ』
『そう邪険にすんなって。なぁキング、強い奴ってどんな奴だと思う?』
『誰にも負けねー奴が強いに決まってんだろ』
『んーーーーまぁそれも正解っちゃ正解だ』
『馬鹿にしてんのか、それ以外に何があるってんだよ』
『いいかキング、確かに腕っ節が強い奴が強い、それは自然の摂理だ。けどな、それだけじゃ駄目なんだ。本当に強い奴ってのは、“背負い、導ける”奴の事を言うんだ』
『……意味が分からねぇ』
『大人になりゃ嫌でも分かる。そん時まで好きなだけ暴れてろ』
『ったく、やっぱ茶化してるだけじゃねーか』
『カッカッカッ、バレたか。なぁキング、俺ももう歳だ。もし俺が死んだら、アルと子供達を頼むぜ』
『アンタ、姫以外にガキがいんのかよ……』
『ばっかお前、俺は女房一筋なんだ。子供ってのはお前等のこと。俺にとっちゃ、
『…………ハンッ、こんな親父はいらねーな』
『そう冷たい事言うなよー。なぁキング』
『アン?』
『今俺が言ったの、絶対に忘れんじゃねーぞ』
……アア。
……アンタは。
偉大な人だったよ。
「―― ――ぇぇええええ!!」
……そうだな。
……オレ様にもまだ、やる事があった。
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