第141話雌雄決す
「狼拳ッ!」
「グッ……」
親指を下顎、それ以下の指を揃えて上顎に見立てた
歯を食い縛り痛みを堪え、獣王は渾身の一打を放った。
「
「ごふッ……!!」
咄嗟に両腕を十字にして受け止めるも、衝撃が突き抜け、ヴォルフの立ち位置から後方まで地面が吹き飛んでしまう。
痛烈な衝撃が肉体を襲い吐血を溢すも、痛みに喜ぶ神狼は右脚を蹴り上げた。
「狼脚!!」
「――ッ!?」
顎を狙った蹴り上げを、キングは頭をズラして間一髪回避する。その際自慢の鬣が刈られてしまったが、そんな事はどうでも良かった。
何故ならヴォルフの攻撃は、まだ継続しているのだから。
「らぁっ!!」
「ガッ……ハッ!!」
振り上げた足を下ろして踵落とし、更に残った足で再び蹴り上げる。挟み込むようにして放つ脚撃は、まるで狼の顎のようだった。
避けられないと判断したキングは両腕を上下に固め、二本の脚撃を防御する。
両腕の骨が軋んだ。
身体が悲鳴を上げた。
それほどヴォルフの脚撃は凄まじく、キングの全身を蝕んだ。
――けど、それがいい。
「「はハはハはハはハはハはハはハはハはハはハはハはハはハはハッッ!!!」」
強者は嗤った。
力を振るえる度、傷を負う毎、血が吹き出る時。
全身が熱くなる。
頭も身体も心も熱く燃え上がり、歓喜に震える。
これこそが戦いだ。
戦いなんだ。
「フン!」
「おっとッ」
バッ!と、均衡していた状態から同時に後ろに下がり、二人はエネルギーを溜め込む。
「久々に喰らわせてやろう、獅子の咆哮をな!!」
「咆哮を撃てるのが獣だけだと思うなよッ」
キングは上態を逸らし、腹と肺に力を溜め込む。
ヴォルフは手首と手首を合わせ、指を折り曲げて狼の口を作り、中心に力を溜め込んだ。
そして二人は、同時に咆哮を解き放つ。
「
「狼咆!!」
爆音が鳴り響く。
キングの口腔から放たれた咆哮と、ヴォルフが撃ち出した衝撃波が激突した。
二つのエネルギーは拮抗していたが、混ざり合い爆散してしまう。立っていられないような強風が吹き荒れ、砂煙が舞い上がる。
互いに相手の位置を目視出来なくとも、二人の強者は同時に前へと踏み込んで、硬い右拳を撃ち放った。
「ぐっっ!!」
「クハッ!!」
放った拳は互いの頬を捉えていた。衝撃により両者の唇から血が垂れるが、二人はニッと勝気な笑みを浮かべながら後方へ下がる。
「キング……お前はやっぱり最高だ。俺と対等な喧嘩を出来るのは、もうお前しかない。この喧嘩が出来なくなるってのは、寂しくなるもんだな」
「フン、いつもいつも上から目線で話しやがる。言っておくけどなヴォルフ、オレ様は一度もお前に負けた事なんて無いんだからな」
「ハハ、そうだったか?まぁいいか、どうせ今日で勝敗が着くしな」
「ああ、そうだな」
何度も戦った。
両手じゃ数えられない程戦った。
けれど、決着は着かなかった。
が、今日、今。
雌雄を決する時が来たのだ。
「はぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
「ォォォォォォオオオオオオオオ!!!」
内包するエネルギーを練り上げ、限界まで引き上げていく。身体からエネルギーが溢れ出て、陽炎が立ち昇る。
「闘神招来――」
「原獣隔世――」
最後の喧嘩は終わり、最後の死合が始まろうとしていた。
「【
「【真金獅子】」
極光が二人を包み込み、世界を明るく照らした。その強い光に、誰もが目蓋を閉じる。
次に目を開けた時、二匹の獣が姿を現していた。
ヴォルフは全身に白銀の鎧を纏っていた。腰から一本の長い尻尾が生え、顔を覆うヘルムは狼の顔を模している。
影山晃がスキル解放した狼王の姿と似ていた。
キングは巨大な獅子へと変貌している。
人の姿を捨て、太古の記憶を呼び覚ました真の姿。圧倒的で、威風堂々。
その姿、正に王者。
「……」
「……」
言葉はいらない。
ここからは、全て拳で語るのみ。
ヒュンッと風を切る音と共に、ヴォルフの姿が掻き消える。目にも止まらぬ速さでキングの懐に入り込み、狼の爪による貫手を放った。
「狼拳」
「ヌンッ!!」
キングは筋肉を絞り込み、貫手を受け止める。薄皮は切られ少量の血は出ているが、鋼の筋肉によってダメージは皆無だ。
虫を追い払うかのように、獣王は左前脚を振り払った。ヴォルフはすかさず距離を取って前脚を躱したが、風圧による衝撃波に呑まれ吹っ飛んでしまった。
ただ振っただけ。
されど、真の獅子となったキングが攻撃すれば、それは全て災害となる。
「ォォォォォオオオオオオオオオオッ!」
今度はキングの姿が消える。
ヴォルフが気配の残滓を追い、真上に視線をやると、そこには右腕を振り上げているキングがいて、
「
「ちっ!」
振るわれた爪から三本の斬撃が放たれ、ヴォルフを強襲する。
受けるのは駄目だ。闘争本能に従い、ヴォルフは斬撃を大きく回避する。斬撃が地面に着弾すると、途轍も無く大きな爪痕が残った。
「数エ狼拳」
神狼は全身の筋肉を練り上げる。貫手の構えを取り、再びキングへ迫った。
獣王は軽く咆哮を放って牽制。しかし読んでいたヴォルフは更に加速しながら咆哮を避け、側面から腹部目掛けて貫手を繰り出す。
「伍」
「ヌンッッ!!」
筋肉を固めて防御する。受け止められてしまったが、ヴォルフは右手の親指を折り、貫手の構えは解かない。
「ァァアア!!」
「グゥゥ!!」
キングが巨大な尻尾を振るい、ヴォルフも咄嗟に白銀の尻尾で応戦するが、完全に力負けして薙ぎ払われてしまう。吹っ飛ばされた勢いは強く、何度も岩壁を破壊してようやく止まる。
ダメージはある。されど、戦闘に支障は無い。ヴォルフは一瞬で自身の状態を把握すると、ドッと地を蹴った。
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