第138話私についてこられるか

 





 進化したセスは、美しさを通り越して神聖な雰囲気を醸し出す白狼となっていた。

 高さは俺と同じくらいで、横は3倍はある。

 人の姿は消え失せ、純粋な狼へ変貌していた。

 分かり易く例えると、西蓮寺麗華の配下である黒狼王ブラックウルフキングの白バージョンといったところか。


 が、アイツには悪いけど、今のセスはブラックウルフキングとは比べ物にならないくらい強い。

 戦わずとも、姿を見ただけで理解出来てしまうほど、進化したセスは強者の風格を醸し出していた。


「おいおい……この土壇場で原獣隔世しやがった。一体どうなってやがる」


 突然白狼に変貌したセスの姿にビートが一瞬怪訝そうな表情を見せるが、面白いと言わんばかりに嗤って、


「いいぜ、来いよ。楽しくなってきたじゃねえか」


 闘志を漲らせる。

 敵の急激なパワーアップに悲観する事なく戦意を高められるメンタルは、呆れを通り越して尊敬するな。

 俺だったら「マジかよ巫山戯んじゃねえ」と文句や愚痴の一つも吐いていただろう。


「おいセス、そんな格好になっちまったけど戦えんのかよ」

「十分戦えるさ。アキラこそ、しっかり私についてこれるか」

「おあいにく様、こちとら狼との共闘は慣れてるんでね」


 軽口を飛ばし合う。

 いきなり人型から狼になって戦えるか心配だったが、本人が大丈夫だと言うなら問題無いな。

 これで準備は整った。

 こっからが正念場。

 最終ラウンドの始まりだ。


「行くぞ」

「だから命令するなと言っている」

「雷閃!」


 ビートが槍を縦に振るい、極光の斬撃が俺達を襲う。しかと軌道を見極めた俺とセスは同時に左右に回避し、地面を蹴り上げてビートに迫った。


狼王ウルフェン咀嚼バイト!!」

白狼ウルフェン鋭爪ネイル!!」


 黒のオーラを纏った俺の右爪と、白のオーラを纏ったセスの左爪が同時に放たられる。ビートは回避を選択せず、槍に雷を纏わせて迎え撃ってきた。


雷斬ライキリ!!」


 雷槍と左右の爪が衝突し、拡散したエネルギーが周囲を破壊し尽くす。

 クソッたれが、二人掛かりでも押しきれないのかよ!この野郎の底が全然見えねぇぞ!


「ハッハァァ!」

「「くぉっ!!」」


 ついに力負けし遠くまで弾き飛ばされてしまう。ビートは間髪入れず間合いを潰してくる。奴の狙いは――セスだ。


「雷斬」


 ビートが放った斬撃は、セスの胴体をいとも容易く真っ二つにしてしまう。

 しかし斬られたセスの身体から鮮血が飛び散る事はなく、雪のように溶けてしまった。


「ォォォオオオ!!」

「――クソが!」


 背後からの強襲に、ビートは悪態を飛ばしながら槍で受け止める。

 初めて見た雪の分身に一瞬戸惑ったのだろう。ギリギリで防いだせいで注意は散漫し、体勢も僅かだが崩れている。

 この好機を逃してはならない。


 致命打はいらない。

 第一に当てる事を考えろ。範囲を極小に狭めて、速さを追求するんだ。

 想像イメージするのは、一発の弾丸。


狼王ウルフェン咆弾バレット


 エネルギーを凝縮した小さな弾丸が俺の口腔から放たれ、ビートの片脚に直撃した。


「ぐっ……ォォォォォオオオ!!」


 ビートが初めて大声を発し、喰らいつくセスを薙ぎ払った。


「やってくれんじゃねえかよ、今のは効いたぜ。だったら、今度は俺からプレゼントしてやらぁ!!」

「デケーの来るぞ、注意しろ!」

「分かってる!!」


 ビートの槍に膨大なエネルギーが宿る。彼は帯電する槍を地面に突き刺し、力を解き放った。


「――ッ!?」


 嫌な予感がした俺は、咄嗟に尻尾でセスの身体を包んで上空に逃げようとする。が、これは恐らく間に合わない。


「雷轟」


 その瞬間、ビートを中心に地面から雷が空に昇る。その範囲は桁違いで、奴から離れようとしても捕まっていただろう。

 なので上空に逃げて少しでも威力を軽減させたらなと思っていたが、普通にヤバい。意識が持ってかれそうだ。


 幸い、尻尾で包むようにセスを守ったので彼女のダメージは少ない。俺は気合で意識を保ちつつ、空から蜘蛛糸を遠くの地面に放ってビートから大きく距離を取るように着地した。

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